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「エッセイ」狂気の桜#シロクマ文芸部


飲んだくれたついでに書きました(笑)
本文は、↓こちらから。



桜色は破壊の色だった。

あの日、満開の桜が病院の庭にはらはらと降りしきっていた。脳が壊れた白装束の人々は、一定のリズムを刻んで散歩と言う名の行進をしていた。
母と私は一ヶ月間の入院で別人に変わった妹の退院に付き添っていた。
薬の副作用なのか、二倍に膨れ上がった妹は紅い地に小花柄のワンピースを着ていた。何故、あんな服を退院の日に母が選んだのか分からない。病人に見えないようにとの親心だったのか、そのワンピースしかサイズが合わなかったのか…

狂気から少し距離を置けた妹は、両手を広げて桜の花吹雪が舞う中をくるくるくるくる回り始めた。

「きれい、お姉ちゃん見て!お姉ちゃん、こっちへ来て…」

あどけないその瞳の奥には、まだ狂気が陰を潜めていた。
ごめん、そちら側にはまだ行けない。


あれから数十年の月日が流れても、あの日の光景は忘れる事が出来ない。
そして何度も何度も、桜の季節になると妹は発症して狂って人を傷つけた。私はまだ二十代前半で母から結婚や子供を産むことを諦めろと言われた。

血のように紅く見えたワンピースに桜色が降り注いだあの日…

血、血の色なんだよ、私にとっての桜色は。

当時は「精神分裂病」と呼ばれていたが、現代では「統合失調症」と呼ばれている。
完治した人を私はまだ知らないが、家族で背負ってきた人の傷みは少しは分かるつもりだ。

桜が狂い咲きする頃になると私は恐怖を覚える。
今年は何事も起こりませんようにと。

桜、桜が美しいと感じるのは幸せな時だけだ。




※実話ですが、不快に思われた方は、申し訳ありませんm(__)m


小牧幸助さんの企画に参加させて頂きました。
よろしくお願いしますm(__)m




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