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子どもたちを性被害から守るために

昨日は私が活動している次世代ファミリーコーチングのコーチ向けブラッシュアップ会として、"子どもたちを性被害から守るために〜私たち大人ができること・すべきこと〜”という講義を開催しました。

講師は小笠原和美さん。警察庁で新卒時は6人目の女性官僚としてキャリアを重ねながら、性被害撲滅をライフワークとして小学校、中学校、高校等で講演を続けてこられており、現在は社会安全政策、性暴力、被害者支援、ジェンダーを専門として、現在は有期で慶應義塾大学総合政策学部教授の職についている女性です。

ご縁のきっかけは私が男女共同参画推進委員として活動していることを知った小学生時代の友人が、和美さんと大学の同級生だったことでした。彼女が "きっとsannaは彼女に関心あると思う!"という話をしてくれたので、早速彼女とお会いして活動についてのお話を色々と聞いており、今回是非!ということでお越し頂きました。

講座は3時間近くに渡り、90ページ以上の資料をもとにお話しされました。性被害の実情、子どもたちを性被害から守るには私たち大人がどのような意識でいるべきか、また、万が一大切な子どもや周囲の方が被害にあった場合の対応策、そして性被害撲滅に対して警察、国やNPOがどのような取り組みをしているか等をみっちり学ぶことができました。

特に女性にとっては、性被害についての生々しい話を聞いていることで、過去の辛いことを想起させられたり、もしも子どもたちがそういう目にあってしまったら。。と思うだけで辛くなり気分が悪くなる場合もあります。男性ももしかしたら、なんとなく居場所がないような、そんな気分になってしまうかもしれません。

そんなことにも配慮され、"気分が優れなくなったら遠慮なく退席して構いませんし、聞いた後はたっぷり休んで美味しいものでも食べて自分を労ってくださいね"というメッセージもあったほど、性被害について考えるのは男女問わず辛いものです。

ただ、まだ言語も未熟な子どもたち、ましてや親や先生、もしくは見知らぬ誰かから性被害にあっている子どもたちが現実に沢山いて、そのことを考えるとこの問題に蓋をして避けて通るわけにはいかない。。正しく学んで内容をシェアして問題を考える人を少しでも増やし、微力であっても社会全体で性被害を減らせることができれば、、というのが私たち次世代ファミリーコーチングに関わるコーチとしての思いでした。

講座は、性暴力の現状、必要な3本柱、もしも被害にあってしまった時のために、という3つの項目を軸に行われました。かなり内容が濃いものでしたので、親や周囲に子どもたちがいる皆さんが知っておくべき実情や、心構え、被害者をサポートする仕組みについて中心に記載します。

1.あなたは自分の性体験を話せますか?

導入部では、性被害について打ち明けることがいかに難しいか、ということについて学びました。

最初のワークで

では、隣の席の方と初体験について話して見てください。初体験の場所は?相手は?同意はありましたか?コンドームはつけていましたか?射精しましたか? 

といきなり和美さんからの過激なお言葉。

えええ。。

隣にいたのは仲良しのコーチ仲間でしたが(だからこそというのもありますね)もちろん何も言えず固まって沈黙していたところ、

”ごめんなさい、これは言わなくて結構です!”

とのこと。このワークでは、いかに私たちに他人に性体験を話すことが難しいか、という事を実体験させてくれたのでした。。これが幸せな初体験ではなく、性被害だったとしたら。。私たちのようにすっかり大人になったとしても、おいそれと性体験については他人に話せないものだと実感させられました。

性被害にあった時に、被害を誰にも打ち明けないことは、犯罪の拡大を招きます。性犯罪は再犯率も高いので、ともかく事件を明らかにして犯人を逮捕する事で食い止めるしかありません。

ところが、被害にあった子どもたちは加害者から様々なコントロールを受けて、誰かに迷惑をかけたくない、恥ずかしい、自分が悪いのかもしれないと感じ、長期にわたって事件が明るみに出ていないケースが多くあるようです。

また、妊娠に気づいていたのに、大人にいうことを躊躇ったために出産を選ばざるをえなかった小学生すら日本にもいるのです。

私たちはつい辛い事件は見ないようにしてしまっているのか、私もこの場で初めて知った事件がありました。結婚してお子さんもいる43歳の小学校教師が、新卒後20年間にも渡って生徒に性犯罪を行なっていたという事例を聞き、暗澹たる気持ちになりました。。

生徒たちが被害について他言できないように巧妙に圧力をかけ、27人もの生徒に犯行をくりかえしていたそうです。

事件が発覚したきっかけが、被害女児の被害状況のフラッシュバックによるパニックからだというので、壮絶な事例です。。

2.幼い子どもも、被害者になる場合がある

被害を未然に防ぐために、また万が一被害にあってしまった場合に私たちに何ができるのでしょうか?

私たちには性被害について、様々な思い込みがあります。

若い女性が襲われやすい、挑発的な服装だから被害にあう、本気で抵抗すれば避けられたのでは?なぜそんな親しい人や家族から被害に遭うの?性的に成熟していないから被害に遭いにくいのでは?など。

そんな大人の思い込みから、せっかく打ち明けてくれた子どもを深く傷つけてしまうことがあるそうです。ましてや子どもはその被害の意味すらわからなかったり、あるいは親に迷惑をかけると考えたり、加害者との関係性から親にいうタイミングが遅れてしまうこともあります。

また、加害者は衝動的に誰に対してもやるのではなく、差別的に扱っても良い相手や優位に立てる状況を意図的を選んでいるのです。

"性暴力は性的な欲求のみによって行われるのではなく、その本質は攻撃、支配、優越、男性性の誇示、接触、依存などの様々な欲求を "性という手段を通じて、自己中心的に従属させようとする暴力である" 藤岡淳子「性暴力の理解と治癒教育」参照

という言葉も考えさせられるものでした。。ただでさえ体力や言語力も乏しい子どもが被害に遭いやすいというのは悲しすぎることですが、性被害の1割は小学生以下の時期に起こっており、また加害者の多くは知っている人なのです。大人にとっては知らない人でも、子どもは公園で3回同じ人を見たら知っている人、と認識してしまうかもしれません。

ですので、どんなに幼い子どもでも性被害者になりうると考えて親は対策をせねばならないと感じました。個人的には子どもが幼いうちは、特に監視カメラや音声記録媒体なども抑止力になると思いました。

3.被害にあってもすぐに話してもらえる関係性を

子どもから何か違和感を感じたら、すぐに信頼できる大人に打ち明けられるように関係性を作っておくことが大切です。

被害にあった人のうち、被害を警察に相談したのはわずか3.7%。誰にも言えなかった割合が男女問わず半数を越えます。

せっかく打ち明けてくれた人や子どもに2次被害を与えないための心構えとして

** 「鍵をかけておけばよかったのに」「ついて行かなきゃよかったのに」 「ネットで知り合った人に会いに行くなんて」 「酔っ払っていたなんて」**

などという被害者に非があるような言葉を安易に言わないように、とのことでした。

どうして?なぜ? 忘れなさい、もNGワード

どうして?と聞かれると責められているように感じますし、忘れなさい、という言葉も、忘れられるはずがないのに、忘れられない私が悪い、というように被害者を追い詰めてしまうそうです。

被害者がどんな服装をし、どんな時間、どんな場所にいたとしても、悪いのは加害者です。

"たとえどんな状況であったとしてもあなたは悪くない"

この言葉を真に理解し、被害を受けた子どもや人を支えたいものです。

また根掘り葉掘り聞くことは”被害の再体験" を招くので避けること。特に子どもの場合は"記憶の汚染”を招くそうです。共同面接(警察、地検、児童相談所の代表者聴衆など)が聞く前に被害状況を詳しく聞くことで、子どもは記憶を誘導されたり、混乱する可能性があります。

話してくれたことについては必ず労いの言葉を添えて下さい、とのことでした。内容について大きく驚いたり、嘆いたりせずに

「大変だったね」「よく話してくれたね」「悪いのはあなたじゃないよ」「話してくれてありがとう」

などど勇気を出して言ってくれたことを、労いの言葉を伝えて下さい。

また、子ども虐待に対応する有用な研修としてNPOチャイルドファーストジャパンが主宰するRIFCR™(リフカー)研修というものがありますので、ご興味ある方は見られて下さい。(注:和美さんの説明内容はRIFCRからの引用ではありません)

子どもが自ら打ち明けるのはとても勇気がいることです。普段から安心して相談できる環境を作ってあげてください。

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上の画像元 "大切なあなたへ"のリーフレットのリンクがこちら。資料をダウンロードしてご利用していただけます。

また、NPOライトハウスが発刊した、子どもを性の商品化から守るためのマンガ「BLUE HEART〜ブルー・ハート〜」の1話目が下のリンクから読めます。

被害を未然に防ぐために、子どもたち自身が知識や知恵を身につけ、自分の身を守ることができるようになることを目的とした内容になっています。

4.加害者にも被害者にもさせないために

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上の図の4つのサイクルで、加害者、被害者を減らすための取り組みが多方面から行われています。

特に普段から私たちにできることは

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上の図の予防教育と市民啓発になるかと思います。

また万が一、周囲の子どもが被害にあったのを知った場合は、速やかに警察に届けてください。性犯罪相談の専用電話「#8103」にかけると、 女性の警察官が対応してくれます。(ただし執務時間内)

5.警察に届けることの意味

警察に届けることに抵抗はある人が殆どだと思いますが、届けなければ加害者は再犯を繰り返す可能性が高く、また被害者も犯人が捕まっていない、罰せられないことで被害から心のダメージから回復しづらい傾向にあるそうです。

性犯罪に対する刑法も平成29年度により厳しい内容に変更、施行されており、近年の性犯罪の実情等に鑑み、事案の実態に即した対処ができるようにするため、110年ぶりに性犯罪の罰則等が大きく改正されたそうです。

110年ぶりに刑法がやっと変わったとは。。びっくりすることですが、今まで如何に性犯罪の範囲が限定されていたかの背景を想像してしまいます・・改正に努力して下さった方々がいることに本当に感謝ですね・・・。

また、全く知らなかったのですが、これだけの性被害者への支援があることが紹介されました。

1.  性犯罪相談の専用電話「#8103」 女性の警察官が対応(執務時間内)

2. 被害者専用車両「警察に出入するところを見られたくない」 という方とは車両内で面談

3. 部内・部外カウンセラーがいる

4. 女性警察官増員中! 希望する性別の捜査員が対応

5. 被害者の個人情報の守秘

6. 目立たぬようパトカーで臨場しない (特に自宅、通学先、勤務先の場合)

7. 経済的な支援 ~警察が医療費を公費で負担~ 初診料、初回処置料(投薬、膣洗浄等) – 診断書料、緊急避妊措置費用、 性感染症検査費用 –人工妊娠中絶費用 等

8. 被害者を保護します!  状況や要望に応じて、身辺警戒、パトロールを強化、緊急通報装置を貸し出し、 110番をした時にすぐに分かるように情報を登録

もしものことが起こっては欲しくないですが、いざという時には警察がこれだけきめ細やかな対応して下さっていることに感激しました。

万が一、警察に相談した際に対応が悪いと感じたら、いつでもご連絡して下さい!と和美さんが力強くおっしゃってくださったのが印象的でした!

6.予防教育 : 家庭で楽しく学ぶには

最近では関心のあるお母さんたちは低年齢からの性教育を意識されている方も増えてきていますが、まだまだ親子で性についてフランクに話すことをためらう方も多いですよね。

でも、性について抵抗感の薄い低年齢から正しい知識を初めて欲しい、ということを和美さんは強調されていました。

特に日本では公的教育の中での性教育開始のタイミングが遅い(現時点で小4から)ということもあり、家庭内での関わりが大切なのです、

子どもが思春期になってしまうと、子どもは親と性の話をいきなりするのは抵抗があるもの。ですので、幼少期から絵本の読み聞かせのような形で他人のプライベートゾーンを見たり触ったりからかったりすることはいけないことだと繰り返し伝えることが必要です。

そのために和美さんは今、仲間と一緒に家庭や教育機関で使える性教育のツールとなる絵本制作を進めています!

全ページを公開していますので是非見てみて下さい!

"世の中では、知識がないがゆえに、被害にあっていることに気づけなかったり、自分の意図しないところで加害者になってしまうことがあります。

"どんな人も「被害者」にも「加害者」にもさせないために、子供のうちから正しい知識を身につけることが重要です" おしえて!くもくんのHPより引用

様々な啓発動画がありますので、これらを一緒に見ることも有用です!

小学校高学年向け

中学校・高校・大学生向け

最後にこちら。私も大好きなせやろがいさんの動画です。

7.性暴力のない社会を目指して

性暴力について考えるための参考書籍を沢山紹介して下さったので、半分ほどのリンクを添付します。


最後に紹介されたのがこの言葉。

1 is too many. 一人でも、一度でも 多過ぎる。

そう、性被害も加害も、一度だからいい訳ではありません。たった一度の被害体験を一生重く抱えて苦しみ続ける方が多くいます。

ふとした周囲の心無い言葉に傷ついて自分を責めたり、PTSDなどの心的障害を発症する人もいます。

繰り返しになりますが、もしも子どもや家族、周囲の方がそんな事態に出会った時に、迷いなく話してもらえる心理的安全性の担保された環境を普段から作っておくことが大切です。そしてすぐに警察に連絡できれば、被害者の心身の傷の拡大を抑えられる可能性が高まります。

私ごとではありますが、私も小4の時に性被害の未遂事件にあったことがあります。当時は子ども向けの性教育もなく、自分のような子どもが性的対象に見られているなんて思いもせず、人気のない公園で近づいてくる男性に気を許してしまいました。

弟が一緒だったことと、私がひどく抵抗したので性的被害の事態は免れました。帰りがてらにその男性から、"このことはお母さんには言っちゃダメだよ”と言われ、母には言えなないままでした。その時に着ていたお気に入りのひまわりのワンピースは、その日以来着れなくなってしまいました。

未遂ですら今でも忘れられない嫌な記憶として残っているのに、もっともっと酷いことをされた女児、あるいは男児がいて、このコロナの外出禁止期間にも性被害や妊娠の不安を訴える相談の電話が沢山あったという記事を見ると胸が痛くなります。。

本当に密室の家庭内での事件は、第3者からの被害よりも防ぐのが難しいものだと思うのですが、例えば、みなさんのお子さんのお友達の様子の変化など、これまでよりも注意深く見てもらえたら、それが抑止力になるかもしれません。

私たち次世代ファミリーコーチングは和美さんの活動をこれからも応援していきます。

くもくんの絵本が出版された際には、ぜひみなさんもお手にとって家庭でお子さんと一緒に読んで見られてはいかがでしょうか?

お読みいただき、有難うございました!

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