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「君たちはどう生きるか」、一絵描きの感想メモ(とってもネタバレ)

※超個人的な感想文になります。友人に頼まれたので感想をまとめました。感想メモを繋げているので文の脈略が雑。少しの考察と多めのネタバレがあります。良ければどうぞ。

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 先日、君たちはどう生きるかを観てきた。この年齢になってから宮崎駿の作品がリアルタイムで更新されることは無いと思っていたから、とても高揚した気分で映画館に足を運んだのを覚えてる。
 前情報が一切無かったからか、公開されてから数日経って観に行ったのにもかかわらずネタバレを目にすることがなく、それも私にとっては嬉しかった。

 まず、観終わってからの満足感がとても凄く、純粋にもう一度観たいと感じた。この映画は☆5のレビューと☆1のレビューに分かれると聞いていたが、どうやら私は☆5の方の人間だったようだ。まあそもそも作品に☆の数を付けるなんてのも野暮な気がするけれど。
 絵画とか、版画とか、本とか、とても良い美術館の展覧会なんかを観終わった後のような感覚で、きっと感性に直接触れられるような作品だったのだと思う。

あの世界を作り出した大叔父様

 
 大叔父は、ペリカンやインコがとても好きだったのではないか。
 
 塔の中の世界のシーンでは鳥たちが多く登場し、印象的に描かれている。一方で、人間たちのように、自分の生き方に苦悩していたり、不満を持って世界に改革をもたらそうとしたりしていた。鳥たちはなぜあの塔の世界にいたのだろうか。

 大叔父は初めに、理想郷を作ろうとして、自分が好きだった素晴らしき鳥たちを塔の世界へ持ち込んだのでは。と考える。
 もしかしたら、あのインコ大王は大叔父が一番最初にあの塔へ連れてきた鳥だったのだろうか。

 しかし、鳥たちがあのように歪んでしまったのは、結局、大叔父の理想が鳥たちにとってエゴであったからなのだろう。
 あの理想郷に鳥の食べ物がないのも、あの理想郷の住民が殺生が出来ないのも、大叔父が悪意のない世界を作ろうとしていたからなのだろうが、結局は食べるものがなくても生命の営みは止まらずに、無理な食物連鎖が起きたり、飢餓で苦しんでいたり、あの白い奴らは綺麗な夜に新しく生まれていく。

 人間である限り誰にでも悪意はあって、あの優しく人格者で博識なはずの大叔父でさえ、理想郷は誰にも保てない。けれど、その世界は一時の、逃げ場や居場所にはなってくれるのかもしれない。
 大叔父は本を読んでありとあらゆる知見を持った上で、この世に何だか絶望してしまってあの塔へ消えてしまったのだろうか。


魔女で少女のお母さん

 主人公のお母さんは少女の時に塔へ迷い込んだ姿であの世界に立っていた。お母さんの火を操る姿は印象的だった。勿論描かれ方もとても良かったのだが、火にはなんとなく、人間の文明の利器代表といったイメージがある。自然のものである火を人間が使っている。
 その火の力であの理想郷での掟に切り込んでいくお母さんの姿は頼もしく、心強さがあった。

 また、その後に奥地へ入り込んでいく中での石を用いた表現がとても面白かった。立ち入ってはいけないところに入り込むときのあのピリピリとした感覚が視覚的に表現されていて、その表現に石を選ぶことで自然の偉大さというか、人間にはかなわないような、掟への厳格さを感じさせられた。


その他シーンの感想

 魚を解体する様子はさながら鯨の解体を連想させるようだった(本物の様子は見たことがないけれど、そんな印象だった)。
 キリコさんはかっこよくてとても頼りになるお姉さん?になっていてとても驚いた。このキリコさんは主人公と同じような傷があるが、何者だったのだろう。ジブリは主人公のifの存在のような人物が描かれることがあるから、そのような立場の人物なのかもしれない。

 あと、これは私がクトゥルフ脳だからか、夢と現がリンクして木刀がボロボロと崩れたり、アオサギの動きの気味が悪かったり、拾った羽が消えていたりする描写にクトゥルフと同じような怖さと良さを感じた。

 そして、今回も本当に世界観が美しく描かれていた。塔の中の世界は鳥たちは恐ろしいが、自然がとても綺麗で、心が引き込まれるようだった。
 ラストのシーンで主人公たちはしっかりと自分の考えを伝え、自分たちの世界へ帰っていったけれど、きっと私ならあの世界に魅入られて、もう帰ってこないかもしれない。

 最後にはアオサギが主人公に向かって「じゃあな、友達」と一言別れを告げたところで、嗚呼、二人は友達なのだ、と。その一言だけで強く実感できて、最初は不気味だったアオサギが自分にとっても身近な奴になったような気分になった。
 アオサギはおじさんのような中身だったけれど、変化が解けてからアオサギに戻った時には「ああ、この美しい姿!」といったような言葉を発していたから、もしかして元々は鳥じゃなくて人間だったのだろうか…。いや、ナルシストなアオサギという可能性もあるか。あのアオサギは現世ではどこへ行ってしまったのだろうか。

最後に

 私はジブリ作品が好きな要素の一つに、自然の厳格さと美しさ、人の営みの怖さと愚かさと、人との繋がりの素晴らしさというものがある。本作には空の美しさや鳥の雄大さ、水の静けさや星々の煌めきがふんだんに含まれていて、その感覚を再認識させられた。
 何よりも今回観賞してて、感動するほどの、面白いアニメーション表現に心が満たされた。まだこんなにもワクワクするアニメーションが描けるのかと。今回は分かりやすいストーリーは敷かれていないようで、私自身その物語をちゃんと理解できていない。それでも、全然面白かった。
 AIやCGなどが発達した現代では、これらの発達した技術が用いられることが多い。それらもとても綺麗な映像で楽しいものだが、こんなに感性を湧きたてられる作品は中々ない。今、この作品に出会えたことがとても嬉しい。

 宮崎駿さん、ありがとうございます。まだ引退しないでください。本の方も読んでみようかな。


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