好きだったバンドと決別することについて
あるヴィジュアル系バンドのファンを辞める決心がついた。
ファンを辞めることをバンギャ(あるいはバンギャル)は「上がる」と言う。アイドルの「下りる(降りる?)」と方向が反対なのは気になるところである。
これは自分の振り返りのためでもあり、欲を言えば共感してくれる人がいれば届いてほしいという願いのためでもあり、一部では解散まで追い続けると言う友達への手紙でもある。
飽き性で何かを続けるということができない自分が、途切れつつも5年間何かを好きで、新曲を追いかけ、遠征をし、 各種イベントにも参加してきた。たぶん結構ちゃんと好きだったのだ。
何を以てファンと呼ぶのか、バンギャと呼ぶのかは自分の中でも流動的なので、あえて定義しない。
バンドとの出会い
V系の中では有名な若手バンドだったので、曲を聴いたことはないにしろ何かにつけて名前や写真を見かけるバンドだった。ただ、ボーカルの髪型がキャッチーだったので「イロモノっぽいな?」と思い、聴いてみようという気には特にならなかった。
バイト先で友達に出会い、熱心に布教されてCDを借りたり貰ったりするうちに、もともとたまにライブに行くバンドも出演するという対バンイベントに誘われた。
2017年のことで、上手後方から見たことを今でもよく覚えている。その時自分が着ていた服すら思い出せる。
もうその頃にはヘドバンもやらないながらも見慣れていたので、集団がヘドバンをしているのを見てもなんとも思わなかったが、隣の友達が頭を振りまくっているのを見て内心ちょっとだけ引いていた。遠く感じたというやつだ。
その後ツアーファイナルにも行ったりして、CDも買ったりして、順調にダメ人間(そのバンドのファンの呼称)になっていった。
伝説を目撃した
まだ初ライブ参戦から1年経たないうちに、バンドがオタクイベントにV系枠で出たことがあった。私と友達は伝説と呼んでいるのだが、ドン引きする冷え切ったオタクを味方につけて、最後には盛り上がったのだ。まだそうなることを知らない私は、当時オタクの中でひとりヘドバンする友達に引いていた。私もオタクも引きながらも、関西人のボーカルの上手な煽りやMCのおかげで出番の後半は楽しくなっていた。このときの映像は定期的に見返すし、今この記事もそれを見ながら書いている。
それくらい良かったのだ。もしかしたらあれでハマったのかもしれない。
ずっと好きだった
その後、コロナ禍と自身の持病の悪化もあって少し離れた時期もあったが、基本的にライブには行っていたし、ずっと曲は聴き続けていた。
自分はアーティストシャッフルで曲を聴くことが多い。そのバンドはおとなしい曲と激しい曲と中くらいの曲のバランスがよく、移動中に聴くことが多い自分にとって盛り上がりすぎることもなく、シーンとすることもなく、とてもちょうどよかった。これはバンギャあるあるだと思うのだが、暴れ曲はつい体を動かしたくなってしまって続くと危険なのだ。不審者になってしまわないように、移動中はおとなしい曲や中くらいの曲が混ざっていてほしい。
私はそのバンドが結構好きだった。それは世界観であり、スタンスであり、曲であり、歌詞であり、ステージパフォーマンスであり、メンバーであり、衣装であり、メイクであり、それらをひっくるめたビジュアルであった。
あらわれはじめた変化
ある時から新曲がつまらなくなった。
印象的なギターフレーズを含む曲が減った。
一部のメンバーのメイクがおとなしくなってきた。
ボーカルが書く歌詞がつまらなくなった。
衣装がボーカルだけ目立つようなものになった。
よくわからない人がプロデューサーになった。
毎回ライブで演る曲の拳ヘドバンがただの拳になった。
あのキャッチーなボーカルの髪型が作られなくなった。
髪型と決別するような曲も出た。
暴れ曲がなくなった。
女性向けオタクコンテンツとのコラボをはじめた。
ツアーのセトリがワンパターンになった。
緩やかに、でも確実に、私を引き込む要素が減っていった。
武道館を目指すと最初に言ったとき、多分ファンとの溝が明確になったのだと思う。ダメ人間の頭には「動員が右肩下がりで落ちているのに?」「ツアーも嘘ールド(SOLD OUTと言っておきながら実際には後方にかなり余裕があること)ばかりなのに?」「インストア(CDを買うと参加券がもらえるCDショップでのトーク(が主な)イベント)の立ち見も減っているのに?」といった疑問が駆け巡ったことだろう。そんな状況でどうやって?人はどこから連れてくるの?今言うことなの?
「みんなの背中を押すんじゃなくて、導けるようになるから!ついてきて!!」
そう言い始めたのも同時期くらいだが、もうすでにファンの方を見ていなかった。導くってことは前を歩くってことだから。本人もわかっていて言ったのだろう。
そうしてヴィジュアル系らしさがなくなっていった。
武道館を目指すと言ったあとのシングルはサビ以外全部「語り」で、ファンは聞きたくないような歌詞。
自称メンバーの彼女による別のメンバーからの性被害の告発。
ドラムが音信不通でイベントをドタキャン。4人での演奏。
9年目にしてボロが出まくった。今までよく保ったな!?と思うくらい。
10年目、ドラムが5ヶ月ぶり2度目の音信不通からの解雇。
掲示板は荒れに荒れた。今も荒れている。
新曲を聞いた
そして今日(もう昨日だが)新アルバムに収録される新曲のMVが公開された。観客を入れたライブMVだったのだが、ドラム不在。4人での演奏を見るのは初めてだった。
もう離れきっている気持ちも新曲を聴いたら変わるかな、と期待して見てしまったのが間違いだったと今なら思う。もうダメだな、と思った。彼らにも事情はあるのは百も承知。だけど重いサウンドで売ってるバンドがドラム解雇するなんて。サポートも打ち込みも、新メンバーも違うけど。
髪型ももういい。衣装ももういい。暴れ曲がないのももういい。だけど、曲も歌詞もつまらなくなったら終わりだ。サビが印象に残らないバンドを追いかけられない。
ライブが終わったあとに耳がキーンとするほど大きい音が好きだ。
スピーカー前で聞くと鎖骨が共振してブルブルするあの感覚が好きだ。
最前列を見ない「プロ意識」が好きだ。
あんまり上手じゃないステージパフォーマンスが好きだ。
でも、ボーカルの内省の塊のような歌詞が好きだった。
ギターソロがかっこよくて好きだった。
特徴的なフレーズが目立つ曲が好きだった。
上手く言葉にできないでみんなにいじられてしまうドラムのMCが好きだった。
赤い照明のときに折りたたみをするのが好きだった。
どういう作りをしているのかよくわからないような衣装が好きだった。
最初は変だと思っていたボーカルのキャッチーな髪型が好きだった。
濃いメイクと色の薄いカラコンをしたメンバーが好きだった。
好きだったものの半分以上がなくなってしまったバンドの何を好きでいればいいんだろう?
テセウスの船のような状態だな、と思う。見た目はメンバーが一人欠けただけ。でもバンドの在り方が圧倒的に別物になってしまった。
10年もバンドをやっていればがむしゃらさなんてなくなってしまうということなのだろう。それでも、社会に折り合いをつけられないボーカルが書くあの歌詞が好きだった。ヴィジュアル系も好きなギターが作る曲が好きだったんだ。
でももうそれはなくなってしまった。本人たちが自覚しているとしていないとに関わらず、それは失われてしまった。
彼らももう戻るつもりはなさそう。このまま彼ら自身が耐えられなくなるまで突っ走るのだろう。そうであれば、私も文句を言いながらついていくのをやめよう。
彼らも文句言われながら応援されても嬉しくないだろうし。
私も私で、去年から気になるバンドが出てきた。東京に進出してくるのは当分先だろうけど、ライブは楽しかった。曲もこなれているし、ライブに堪える演奏と歌唱力だった。まだまだ動員数は少ないけれど、これから増えるだろう。2枚目以降のアルバムがとても楽しみだ。
さあ、これからの話をしよう。
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