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夢幻回航 23回 酎ハイ呑兵衛

周囲に人影なし。
結界が張られているのかもしれないが、沙都子には感じ取ることが出来なかった。
鬼と戦うときはいつも、鬼の張る結界はもっとまがまがしい気配がするのだが、今回は相手からもまがまがしさが感じられない。
清廉さもなければ、かといって優しさもなく、空気のような気配。だけれども目の前に居る男からは明らかに闘志だけは感じられた。非常に不可思議な感覚を、沙都子は味わっていた。もちろん世機もだが。

「おまえ、人間か?」
世機は相手を見つめて、にやけながらつぶやくように言った。
「さあな!」
男は言い様に、蹴りを放ってきた。
「そうか人間か!なら、負けないね」
言うと、世機は闘気を一気に放った。本当に人間相手なら負ける気がしない、とは強がりだったが、まんざらはったりというわけではない。五分。相手の実力は自分と拮抗するとみている。ひょっとすると相手が少し上か?

相手もそう思ったのだろうか、攻撃の時の空気が変わった。
一呼吸合間があって、ヒヤリとした感覚が、あたりを包む。
暑い闘気とは一変して、冷たい気が、あたりを包んだ。

何か来る!
世機の感覚が警告をならす。

土埃が舞い、ゴミの袋が転がっていく。
屋台のアイスクリームのチラシが風にはためく。
来た!
詰めた息の塊が、世機に迫ってくる。
式は自分の手のひらに気合いを込めてその塊をいなした。

詰めた息の塊は世機をそれたが、地面に生えた雑草に当たって、その力を見せてくれた。
気が当たった草は、一瞬にして枯れてしまった。
その様子を見て世機は少しだけ焦った。
こんな気の使い手を、実戦で見るのは初めてだった。

「やるね!」
これも強がり。

「僕の実力」
男はおどけた様子でポーズをとった。

「けっ!僕って面かよ!」
世機は口汚く悪態をつく。

「ツラはお互い様だろ!」
男は2撃めの準備に入った。
世機は素早く間合いを詰めて、パンチを放ち、逃げたところへ蹴りを放った。
速攻で連撃して、4撃めの蹴りが相手の原を捉えた。
男は瞬間、顔をゆがめた。
次の瞬間からは全くノーダメージのようにポーカーフェイスを決め込む。
だが世機は見逃さなかった。効いているなと思ったので、さらに連撃を続けた。
5回に1回は攻撃が当たるようになったが、相手の攻撃も、世機に対して当たるようになった。
この相手にはさすがの世機も苦戦しているのだ。
常にフルスピードで、力の乗った良い攻撃を繰り出し続けなければ、相手にダメージを負わせるのが、不可能なのだ。
世機は自分に対する攻撃も受けながら、それでも相手に攻撃を繰り出し続けた。

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