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夢幻回航25 酎ハイ呑兵衛

「誰に雇われた?」
世機はクラウドに警戒しつつ、ほんの少し力を抜いてみたが、構えは解かなかった。構えは防御に要である。実力のある相手には、構えが重要だが、格闘技の究極の構えは自然体。だが世機は、クラウドに対してはそれが出来ないと思っていた。得体の知れない外国の術者だからだ。それにしても流暢な日本語だな、オレの英語とは違うなと世機は感嘆した。

クラウドは世機の考えが読めるのか、思考を読み取る術でも使っているのか不明だったが、自分のことを少しだけ喋る気になったようだ。

「俺の母は日本人だ」
なるほどな、世機は母親が日本人なら、日本語に接する機会が増えるだろうと思った。

「日本生まれの日本育ちだ」
拍子抜けして崩れそうになるのをこらえながら、世機は笑った。

「協会だ」
「???」
「呪術者協会」
聞き間違えか?
「お仲間だな」
クラウドは構えを崩して油断した。

世機はすかさず攻撃を入れた。
世機の華麗な左足による回し蹴りは、見事な受けで威力を弱められたが、攻撃は相手にヒットした。
クラウドはやり返すことはせず、良い蹴りだと世機を称讃した。

呪術者連盟と呪術者協会は小林さんの事件では協力関係にある。世機や山田正広は協会側が事件の真相を握っていると読んでいたが、その疑惑はますます深くなった。
協力関係と言っても、これほどの人数を送り込んでくるはずはない。秋月姉弟だけならばわかるが、このクラウドとか言う男はなぜ?

外国の呪術師でもあるから、ひょっとしたらそういった、海外の魔術めいた何かが絡んでいるのか?考えすぎかな、とも、世機は思った。
なぜなら、鬼は世界中にいるからだ。アメリカやロシア、中国などは秘密裏に捕獲した鬼を兵器として利用する研究をしていると聞いている。

想像力を働かせすぎかと世機は思ったが、世界の、そういった軍事大国が絡んでくるのか?まさかそこまでは、この事件に奥まった秘密はないだろうと思いたい。けれど世機の霊感めいた第六感は少しだけ反応していた。

心の底にとどめておこう。世機は頭の片隅にそのことをすり込んだ。
心にとどめてから、世機はクラウドに質問を向けた。

「小林さんの件か?」
クラウドは少し悩んだ様子を見せて、にっこり微笑んで答えた。
「半分当たり」
「どういうことだ」
「オレの事件がたまたまつながっていただけさ」
クラウドは自分の関わった事件を手短に話し始めた。
クラウドは協会とも契約するフリーの術士だった。フリーの人間は、どの業界でもそうだが、外に任せても良いような、どうでも良い簡単な仕事が回されることが多い。今回もそうだろうと思って引き受けたらしいのだが、アイドル歌手が呪われているから、守ってほしいという依頼だったのだが、呪いをかけていたのがなんと、世機たちの事件での被害者である小林さんの弟だったのだ。そこでこの事件に関連があるかもしれないと、世機に挨拶をしてきたのだと言うことだった。

世機はクラウドの誘いに応じて、アイスクリーム屋の屋台の脇に置かれた椅子とテーブルと、パラソルのところで休むことにして、情報交換と言うことになった。沙都子も隣に来て、クラウドの持ってきたソフトクリームをいただくことになったのだが、話が終わった後で代金を請求されることになるとは思っていなかった。

つづく

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