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夢幻回航 27回 酎ハイ呑兵衛

「呪殺対象は兄ではなく、自分の妻だったらしい」
クラウドは淡々と言ったが、恐ろしい内容だ。
「浮気とかそういったことなのかとも思ったが、そうではなかった。彼は妻に永遠の命を与えたかったらしい」
「永遠の命?呪殺して?」
沙都子が口を開いた。殺しておいて、永遠の命とはどういったことなのだろう。呪いで生かす?
「不死者を創る実験をしていたらしいのだよ」
「小林さんの弟はそんなふうには見えなかったが」
世機が言った。
「人は見かけによらない。兄だって、普通のサラリーマンじゃないだろう」
「たしかにそれは、考えられるな」
世機の言ったのは、前から疑問に思っていたことだ。
普通のサラリーマンが、本職に呪殺されるなど、よほどのことがなければありえない。
浮気や、地上のもつれ程度で呪殺師を雇えるほど、この業界は安い金では動いてくれない。

「兄の方も洗い直しが必要なようね」
沙都子はため息まじりに言った。
「ほんと、今年は赤字続きなのよ?連盟からの仕事って、本当に手間ばかりかかって、稼ぎにならないから嫌だね!」
「フリーで受けたほうが、受け取る金銭はでかいけれど、事件の後始末が大変なんだよ」
クラウドもため息まじりに言った。

暗い話になってきたので、まあ、もともと明るい話題ではなかったが、世機はクラウドお手製のアイスクリームを食べ終わると、席を立った。
沙都子はその後に続く。
「また、連絡するにはどうしたらいい?」
クラウドが言うので、世機はポケットからスマートフォンを取り出して、顔の脇あたりで小刻みに降ってみせた。
クラウドはそのおどけた様子に、笑い声をあげて笑い、ポケットからスマートフォンを取り出して、お互いに連絡先を交換した。

「打ち合わせは喫茶店がいいか?」
クラウドは気さくに聞いてきた。こういう性格なのかなと、世機と沙都子は思った。
「どこでもいいよ、カップルのよくいく夜の公園だって構わないぜ!」
世機もこういう人間だから、案外この二人は気が合うのかもしれない。
最も、この業界じゃ、友達というような親しい関係にはなれそうもなかったが、ポン友にはなれるだろうなと、沙都子は密かに感じた。世機にもそういった関係の人間が必要だ。
彼は友達を作るのが下手だから、こういうチャンスは利用しないと。母親のような、姉のような目で、沙都子は世機を見た。
世機は、なんのことかわからない様子で沙都子を訝しんだが、クロードが別れの挨拶をしたので、世機も「じゃあまた」と言ってアイスクリーム屋の屋台をあとにした。
世機と沙都子がふと振り返ってみると、もうそこにはアイスクリーム屋の屋台カーはなかった。
本当にかき消すように音もなく消え去ったのだ。
沙都子と世機は、クロードの術士としてのレベルの高さに感嘆の声を漏らした。

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