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夢幻航路 第24回 酎ハイ呑兵衛

男の攻撃を躱し切れずに、世機の体にはダメージが少しずつたまっていった。

男はそれを見てにやりと笑ったが、彼の方も余力が無かった。

世機はそれを見て感じ取り、笑い返した。

男の方も世機の攻撃で、ダメージを受けていた。

決め手を欠いたままだったが、互いに削り合いをやっていた。

格闘技は技を受けるだけでもダメージになる。理想的には完璧に避けきることだが、避けたら避けたでまたそれは、長時間になれば体力がそがれる。向き合っただけで精神力がそがれてゆく。

互いに一息つきたかったからか、どちらからともなく気合いが抜けてしまい、戦うには仕切り直しが必要な雰囲気になってしまった。

「おまえ、名前は?」

男が世機に向けて言葉を放った。

世機は油断せずに相手を見据えて、「ターゲットの名前もわからないのか?」と聞き返した。

「ターゲット?何のことだ?」

おかしなことを言う、世機は男の言っていることが理解できなかった。この男は自分たちを襲ってきた刺客だろ?

「オレは、ただそこのベンチで昼寝していたら、面白そうなヤツがいたので、からかってみただけだが?」

男はウソを言っているようには見えなかった。本当に?この男はただそれだけ?

「なぜ結界を?」

世機の言葉に、男は納得のいったという風な顔で、フッと笑った。

「わかるのか?お前こそ何者?」

「オレは呪術師、神憑世機」

「ご同業か。オレはシャーマンのクラウドだ」

シャーマン、海外の術者か。久しぶりにやり合ったので、わからなかったな。

世機は納得のいった様子で、しかし警戒は解かないで、それでいて少しだけ力を抜いた。

具体的に言えば、いつでも攻撃を受け流せて反応できるように、自然体の構えをとった。

クラウドと名乗った男も、それを見て力を抜いた。

「誰に雇われている?」

世機はクラウドの言葉を鵜呑みにするような、単純な思考では無かった。

クラウドも承知の上だが、それでも目的を明かすようなことは、簡単にはしない。

互いにこの猜疑心で生き残れてきたのだ。

簡単に相手の言う言葉を信じないのが、彼らの流儀でもある。ビジネスの基本よね!沙都子ならこう言うだろう。

「本当に、雇われて等居ないぜ!それのこの屋台はオレの店だ」

クラウドの風貌をまじまじと見て、世機は笑いをこらえきれなかった。

「失礼!似合っていないのだが?」

パステルカラーのお菓子の家が、この男の様子にはとても似合っていなかった。

世機でなくても笑ってしまう。

「本当に失礼なヤツだな!」

言ったクラウドも、たいして気にしていなかった。言われ慣れているのだろう。

クラウドは構えを解いて、自然体にとった。だがやはり、気を抜いた開土ではなかった。


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