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学会参加報告:産業精神保健学会2023 アルコール依存症の予防・早期介入支援〜飲酒量低減プログラム JOZNOM〜

 産業ダイアローグ研究所の発表についてはすでにご報告しましたが、今回の学会プログラムで最も楽しみにしていたのが、雁の巣病院の飲酒量低減プログラムのポスター発表でした。発表者の稲葉先生からnoteでの紹介のご許可をいただきましたので概要をお伝えします。
 
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第30回 日本産業精神保健学会
会期:2023年8月26-27日
会場:日本赤十字看護大学(ハイブリッド開催)
テーマ:産業精神保健におけるAgilityとSustainability
https://procomu.jp/jsomh2023/index.html
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▼背景

 アルコール依存症の専門機関は重症アルコール依存症患者の断酒治療を担うことが多かったのですが、近年、その予備軍である多量飲酒者に対する「減酒」「飲酒量低減」という考え方、治療、支援が広がっています。
 私自身、2011年から東京の慈友クリニックを中心に減酒指導を行っており、今までいくつか研究報告をしております(末尾リスト参照)。一定の効果を上げつつも、より効果的なアプローチはないだろうかと常に考えており、今回の発表が楽しみだったのです。

▼JOZNOMプログラム

 福岡の雁の巣病院では2022年6月から、「JOZNOM~上手なお酒の飲み方~」というプログラムを開始しました。プログラムは月1回土曜開催で講義とミーティング(座談)からなり、4回1クールだそうです。対象者は① 血液検査のデータが基準値内か、若干超える程度、② 周囲や家族が酒を控えてほしいと望んでいる、③ 飲酒による社会的な問題がさほどない、となっています。参加希望者は依存症専任医師の診察を受け、上記に該当すると判断されると導入になります。
 プログラムの内容は、肥前精神医療センターの杠先生らが開発したHAPPYプログラムを利用しつつ、アンガーマネジメントやマインドフルネス、さらには飲酒運転撲滅条例なども取り上げているようです。

▼驚異的なプログラム継続率

 2022年6月から2023年8月までに延べ49名が参加されたそうですが、私が驚いたのは参加者のプログラム継続率です。なんと、今のところ脱落者ゼロなのだそうです。もちろん参加者が増えるにつれ脱落者が出ることは避けられませんが、アルコール治療は継続が本当に難しいので、プログラムが魅力的なのでしょう。対象者をきちんと吟味していることも完走率を高めている要因かもしれません。それにしても驚きました。
 このような集団を対象にした減酒指導は1990年代に久里浜医療センターが始めました。私がいた慈友クリニックでも開催を検討したのですが、対象となる人がまだまだ少なかったのと、マンパワーの関係で実現できませんでした。代わりに医者が診療の中で行える減酒指導の方法を研究してきた次第なのですが、雁の巣病院のように集団を対象にプログラムを組めるのは本当に羨ましい限りです。

▼JOZNOMという名称について

 もう一つ大事だなと思ったのは、名称が「上手なお酒の飲み方」から来ていることです。最近、私も産業医先でレクチャーする時に気をつけているのですが、「お酒を減らそう」「我慢しよう」という表現よりも、健康で、長く、上手に、美味しくお酒を飲もう!という前向きな表現の方が、関心を集め、このプログラムを必要とする人が結果的にたくさん集まるということです。実際、産業医や産業保健スタッフから、「やめるのではなく、上手に飲む方法を教えてくれるらしいよ」と紹介され来院するケースが増えているそうです。参加者の中には断酒することになる方もいますが、強制的に飲めなくされるのと、自分で納得してやめるのでは断酒の意義が違ってくるのではないでしょうか。
 私は現在、企業の産業医面談で減酒指導を細々と試みておりますが、改めて勇気をいただいた次第です。JOZNOMプログラム並びに雁の巣病院の今後のご発展を楽しみにしております。

▼米沢の減酒指導に関する研究発表リスト

・米沢宏:断酒に導くための節酒指導は許されるか. 日本アルコール・アディクション医学会雑誌, 51(4); 177, 2016.
・米沢宏:プレアルコホリックに対する節酒指導:アルコール専門外来における簡易な指導マニュアル作成の試み.日本アルコール・薬物医学会雑誌,53(2): 65-75, 2018.
・米沢宏:健康診断の事後指導等で行う簡易な節酒指導法の提案.産業衛生学雑誌 61(臨時増刊号):567, 2019. 

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