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こんな日に限って、熱を出すんだけど、こんな時に

小1になった娘は、「ハロー!ハウ アー ユー!」と言えるだけで英語ができると思っているフシがある。
 先日の道徳の授業参観。娘が、友達って良いね!言葉が通じなくても友だちになれるよ!と習っていた。本当だろうか。ハローハウアーユーだけで、意思の疎通が本当にできると言えるのだろうか……。

私には、お茶目で、いっつもニコニコしてて、周りに楽しい気持ちを振りまいてくれて。恋多き子で、周りを振り回して、でも、真面目なとこもあって……という友人がいる。

そんな彼女に出会ったのは、ロンドン。
彼女はスペイン人だった。

ロンドンに行ったのは何年も前だ。夫の留学がまさかで決まり、ついていくことになった私は小さな地元の町で一生を過ごすと思っていたので、英語もたどたどしく、街に思い入れがあるわけでもなく、いわばただの人だった。1年だし、とついていくことを決めたが、行く前になって危機感をつのらせた。早いとこ友達を作らなければ、引きこもりになってしまう。
なので行く前に、語学学校の申込みをして、どんなに語学ができなくても、行かなくてはいけない場所を作った。

初日はクラス分けのテストで、終わって午後の説明会まで休憩中、会場から出て信号待ちをしている彼女を、ナンパした。
「お昼一緒に食べない?」
英語もできないのに、ようやった。
聞くと彼女はマリア(仮名)という名。スペインの北の方から来たという。

後日、もう一人イタリアンガールも加わって、私達はいつも3人一緒にいた。
マリアは、魅力溢れる人で優しくて、私の拙い英語でも、気にせず話してくれた。お互いにたどたどしい英語で、慣れてなくて、みんな出身地が違うくせに、これだからロンドンは!と、突っ込んでは笑った。
私達は、もう一度青春をなぞるように遊び、飲み、学び、働きはじめ、報告しあった。


数ヶ月後、イタリアンガールが帰国し、私達夫婦が日本に帰国、スペインのマリアも帰国し、時々やり取りしながら月日は流れた。12年!
その大好きな友が初めての日本に遊びに来てくれた。ハネムーンで!ナイススペインガイと一緒に!
スペインから!

12年前、いつか会おうと約束して別れた、あのとき、もしかしたら一生会えないかもしれないと思って泣いた。日本がヨーロッパからどれだけ遠いか、思い知った。
だから、彼女が結婚してハネムーンに日本を選んでくれたこと、再び会えることが嬉しすぎた。

会えるのは土日だけ。初日は午後から家でパーティしようと言って、スモールハウスに招待、次の日は1日観光を計画した。
数年ぶりの、しかも地元での再会。旦那様はどんな方なのか。ドキドキしながら、待ち合わせに向かうと、遠目に弾むように手を振るマリアの姿が見えた。
予想外だった。見慣れた景色の中に金髪のスペインガールは、めちゃめちゃ馴染んでいたのだ。なんでだろう。もっと外国人ぽさがあるのかと思ったけど。昔っから住んでるみたいにコンビニから出てきた。彼女達が、ものすごくリラックスして楽しんでいたからかもしれない。
当時ハネムーン二週間目に突入していたマリアは言った(英語で)「もうドンキホーテに3回は行った」「日本のスーパーすごいね!肉の種類が多い!!」「細長くて茶色くて、ピーナッツと一緒に入ったおせんべいがめっちゃ美味しかった((私)それ、柿の種〜!)」。
そら馴染むわ。日本の全てを楽しんでるわ。
「高野山の宿坊に泊まった」。
私でも行ったことない。と言ったら「おすすめよ」と言われた。
日本人より日本を巡ってるわー!

さて、娘である。小1になった娘は、「ハロー!ハウ アー ユー!」と言えるだけで英語ができると思っているフシがある。
はたして英語のわからない娘がどうコミュニケーションを取るのか。と見ていると、

マリアがハロー!と、娘にもしっかり挨拶してくれた。娘も「ハロー!」と緊張しながら答える。すると、旦那さんと2人で娘に目線を合わせて喜んでくれた。
 はじめこそ緊張して、口数少なく眺めていた娘。だが、いつの間にかニコニコしながらマリアと手を繋ぎ、彼女の旦那様とも手を繋ぎ、歩きだした。時々ブランコのように「1、2、3!」と、ぶら下がりながら。

スーパーで買い物して、ちらし寿司ケーキを作る。娘が刺し身を乗せすぎて、みんなでゲラゲラ笑う。
食べさせたいものが多すぎて、買い込みすぎた。久しぶりに冷蔵庫がパンパン。ガラにもなく唐揚げを揚げたし、いろいろ食べさせたすぎて、作ったお味噌汁出すの忘れた。
娘が、おもむろにマリアの手を引き、镸紐を持ってきて、「マリア」と紐の端を渡し、「リカルド(仮名)」と、反対の端を旦那さんに渡す。そして、真ん中に立った。みんな察してくれて、大縄が始まる。
終わると今度はマリアの番、自然に始まって、うまく跳べても跳べなくてもみんなで笑った。


言葉がなくたって友だちになれる。
目の当たりにして、驚く。なんでも楽しく受け止めてくれるマリアとダーリンのおかげか、娘はすっかり2人が大好きになった。
ドラえもんの歌を、スペイン語と日本語で歌ったり(スペインでもドラは放映されていたらしい!)、カードゲーム教えてもらったり、あっという間に楽しい時間はさった。一緒にホテルに泊まりたいと言う娘。
明日は一緒に1日遊びに行けるからと、説得して、駅まで送って「また明日ね!」と、笑顔で別れた。
そこまでは良かった。

夜中になって、娘の様子がおかしい。
咳が止まらない。
朝までに、何度も起きて、体もあつくて。
熱をはかったのは午前4時。
39度だった。
これは……
どうして……
どうしてこんな日に限って……
そう言っても仕方ない。
でも……。あー、もう少し一緒にいたかったな。直接、さよならしたかった。。。
涙が出そうになって、慌ててトイレにこもった。
夫が「ママ一人だけでも、行ってきたら良い」と、言ってくれた。

でも、どうしても、行く気になれなかった。
だって、私以上に、娘が行きたがってたから。。。ホテルに一緒にとまりたいというほどに。
そんな娘を置いて、私だけ遊びには行けないよ……。

ままならないまま日は昇り、私は意を決して、マリアにメールした。
“ごめんなさい。今日行けなくなっちゃった”と。事情を話し、彼女たちがうつってないか聞く。
すぐにマリアからメールが返ってきた。

“大丈夫?お熱が心配。私たちは元気だから安心して。どうかこちらは気にせず(娘)のそばにいてあげて。”

“(娘)は、ほんとに素敵なひとだね!!日本にきて、どれも素晴らしかったけど、昨日の事が私達には一番の出来事だったよ!!”

優しさが、しみてまた泣ける。
もう、後何年後に会えるだろう。これを逃したらまた会えないことを私たちは身にしみてわかっている。
スペインと日本は遠いし、私たちは、飛行機に気軽に乗れるほどセレブじゃない。貧乏暇なしだもの。
それでも、、彼女は娘を優先してほしいという。

こんな時に、なんで熱出すの!と思う反面、こんなときだからこそ、人柄の素晴らしさを感じる。

そうだった。だから、大好きだったのだ。人種とか言葉の壁など、あっという間に越えて、毎日のように会い、そして、別れる時に二人で涙したあの頃を思い出した。

「いつか生まれてくるこのために」と、最後にもらったぬいぐるみ、娘とともにずっといたよ。

ありがとうマリア。

娘に会ってくれてありがとう。

また会おうね。
また話してね。
その時には、もう少し英語、勉強してるからね!




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