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『死んでいない者』/ 滝口悠生 | 親戚集合系傑作小説

第154回芥川賞受賞作。ということは『火花』と『スクラップ・アンド・ビルド』の次か…


滝口さんの本を読むのは初めてではない。『長い一日』と言う本を途中まで読んでいる。

なぜ途中かというと、なんというか、めちゃくちゃいい本なんだけど、一気に読むような本ではないというか…少しずつ大事に読むタイプの本だからだ。
個人的に芥川賞ブームなんで、なんとなく受賞作を手に取ったらまさかの滝口さんの本。確かに芥川賞くらい取りそうな作家だな、と思いながら読み進める。読み終わって思うのは面白いけど、圧倒された。
ストーリーはおじいちゃんのお通夜の夜の親戚のやりとり・・・なんだけど、田舎のお通夜って感じで登場人物が多い。亡くなったおじいさんの子供5人、孫も10人近く、おまけにひ孫までいる。そして子の妻や夫、故人の幼馴染のはっちゃん・・・みんな含めると、何人だ?
しかも主人公はおらず、視点はコロコロ変化する。

なんか登場人物の家系図みたいなものがついてるかと思ったらそんなものはなく、会話も鉤括弧がついていない。こんな縛りで小説を書けと言われても、わかりづらくグチャグチャな文章の羅列ができるだけだろう・・・

しかしこの本、読みやすかった。自分がこの作者の別の本を読んでいたので、多少この視点移動とか、鉤括弧なしの文体に慣れていたのもあるけど、いきなり読んだ人は面食らったかもしれない。それでも登場人物の多さの割にわかりやすい。
そして忘れてしまうもの、思い出すこともできないような出来事や事柄の切り取り方がとにかくいい。エッセイ的、というにはよくこんなところを、、、と思うような、びっくりするような日常の場面の切り取り方をしていてはっとさせられる。

こんな風に登場人物をたくさん登場させつつ、エッセイ的な日常の切り取り方をなんで両立させられるのか…

しかし、亡くなったおじいちゃんが奥さんと喧嘩して、スナックで歌を聞いている場面、歌詞が書かれてると思ったら、引きこもりの孫が親戚の前でちょっと歌うシーンにシームレスに繋がるシーンとか、グッとくるシーンも多くある。テクニカルなのにそれを感じさせない作りがすごすぎる。
個人的に親戚のごちゃごちゃ感が好きなのも、この小説が好きなとこかも。映画サマーウォーズの好きなところって親戚の集まり感だし。

サマーウォーズのように夏!って感じではなくてお通夜の話だけど・・・途中で温泉に入ってると、お通夜ってことを忘れてしまったり、お酒飲んで近所を歩いてるシーンとか・・・なんかいい。
たぶんこの作者の本はだいたい面白いっていう確信が持てる本だった。親戚集合系のごちゃっとした話が好きな人、新しいことをしてる小説を読みたい人におすすめです!


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