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『現実脱出論』/ 坂口恭平 | 見えないものが見えてくる本

坂口恭平はたしかアフター6ジャンクションで知ったのかな?0円ハウス的な話をしていたような気がするし、面白い人の印象。

なんとなく現実逃避的な印象を持たせるタイトルだけど、内容は全然違う。現実逃避しても現実はより存在感を強化してしまうという考えなので、逃避をまったく肯定していない。『現実脱出』は、存在は体感しているけど、現実的でないと切り捨てていたものを直視することらしい。

居酒屋の話が例に出される。お客がいない時の居酒屋は狭く感じるが、わいわいして人が多い時は逆に広く感じるとのこと。時間の流れも速くなる。
個人的には人がたくさんいる時の方が狭く感じるけど、体感は人それぞれだし、捉え方次第で空間は膨張したりする、という内容。たしかにそんな体験は誰しもしているし、広さって現実的に定義できるけど、いろんな要因で体感は全く違うことってよくある。

特に印象に残ったのは匂いの話。
匂いは五感の中でも特に記憶を刺激するのは知っていたけど、現実の風景や出来事より、匂いを嗅いでフラッシュバックするイメージの方が、より鮮やかなら、現実とはいったい…?みたいな考え方で、なるほどと考えさせられた。たしかに小学校の時の友達の家に近い匂いを嗅いだときとか、ありありと当時の記憶が蘇るもんな…それってたしかに現実より鮮やかなのかも。

とにかく現実とは違う『空間』を作るということを繰り返して言っている。
言語化できない感覚を、絵や身振りなど、抽象的なものをコラージュ的に集積することで、自分なりの空間、もしくは裂け目を現実に作り出すっていうことなのかな。

アンチ現実というわけでもなく、あくまでオリジナルの空間を作る事、『創造』することの重要性を説いている。よくある好きな趣味を作ろうとか、交友関係を、という啓発本的なものではなく、他者と思考の巣があゆると伝達し合うことが、現実とは別の空間が存在しているという確認につながり、知覚を拡張させるとのことだ。

なかなかややこしいけど、
言葉って100%自分の気持ちや考えを伝えられるか?といったらそんなことはなくて、むしろ詩とかぐちゃぐちゃに描いた絵とかの方が、言葉より精度が高く気持ちを伝えられるのでは?と自分は解釈した。

啓発本的な内容では全くなくて、だからと言って学ぶことがないわけではない不思議な本だった。『現実』という言葉の定義づけがなかなか定まってないのでは?と途中思ったけど、それを突っ込むのこそ野暮かも。作者が思いついたことを片っ端から書いて、それをギュッとまとめたような本。カウンセリング本、みたいな方が近いかも。現実から逃避はできないけれど、忘れていたことを知覚させて、創造することの重要性に気づけるような本…現実の見方を変えたい人にオススメです!

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