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美容室や美容ディーラーの破産・廃業が相次ぐ

美容機器やヘアケア用品の卸売りを主に手掛ける株式会社Clear(クリア・代表恩地寿和氏)が2024年6月11日、大阪地裁より破産手続き開始決定を受けました。
負債は申請時点で約35億円だが、今後変動する可能性もあるとのこと。
このほかにも美容室や美容ディーラーの倒産・廃業が相次いでいます。

■創業から4年で急成長

2019年1月に創業したクリアは2020年8月には法人化しています。
2023年7月期には年売上高約43億5800万円を計上。
創業から4年で急成長を遂げていました。

・急成長の理由

クリアが短期間で急成長できたのは、代表である恩地寿和氏が美容商社勤務の経験を活かした経営方針にあります。
美顔器や肌質改善機器、ドライヤーなどの美容機器に加えて化粧水や保湿剤、ヘアケア用品を取り扱っていました。
品揃えも豊富で、国内ブランドはもちろん、スタートアップメーカーなどの商品も幅広く取り扱っていたそうです。

・オリジナル商品の開発も

クリアでは卸売りの他にオリジナル商品の開発も行っていました。
代表的な商品が「アンテローズ」シリーズです。
天然由来成分100%でつくられた「アンテローズ リッチオイル オスマンサス」はダメージから髪を守り、ツヤとウェット感を出しつつもスタイルが長持ちするヘアオイル。
添加物を一切使っていないので、髪だけでなく肌にも使えるのが特徴です。
シャワー後に適量を全身に塗ると乾燥から肌を守り、潤いをキープしてくれるとのこと。

・積極的な販路開拓

クリアが短期間で業績を拡大できた理由の一つが積極的な販路開拓です。
豊富な品揃えとオリジナル商品の企画開発という強みを活かして美容商社にアプローチし、理美容店やエステサロン向けに販売を行っていました。
こうした積極的な販売姿勢により順調に業績を伸ばしていたようです。
美容商社にて勤務経験のある恩地寿和氏の手腕が遺憾なく発揮されていたのでしょう。

■資金調達でトラブルか

順調に業績を伸ばしていたクリアですが、問題も抱えていました。
クリアの資本金は300万円です。
事業の成長スピードに資金調達が追い付かず、さらに一部仕入先との間でトラブルが発生してしまいます。
さらに2023年7月期には40億円以上もあった売り上げも、2024年7月期に入ってからは大幅に減少。
資金繰りが急速に悪化したことから仕入れ先への支払いにも苦慮するように。
状況を打開すべく、未取引の金融機関に融資を打診したものの改善できなかったことから事業の継続が困難との判断に。

■美容業界では廃業や倒産が相次ぐ

美容業界では美容ディーラーに限らず、理美容室やサロンでも廃業や倒産が相次いでいます。
東京商工リサーチによれば、2024年1月~4月の美容室の倒産が累計46件で、これは前年同期比48.3%増とのこと。
過去10年の同期間と比較して最多を更新しました。

・このペースでは年間件数も最多となる見込み

2015年からの10年で年間倒産件数が一番多かったのは2019年の105件です。
コロナ禍において感染リスク回避のために来店を控える顧客が多く、美容室経営にとって厳しい時期でした。
そんな2019年を上回るペースで倒産が相次いでいます。
これは円安による美容資材の価格高騰に加え、水道光熱費や人件費の上昇が大きな痛手となっているため。
5類移行によりコロナ関連の資金繰り支援が終了したのも原因の一つと考えられます。
コロナ禍における本来の厳しさが今になって襲ってきた状況といえるでしょう。

・美容業界は競合相手が多い

他の業界に比べると美容室経営は少ない資本金でも実現しやすいです。
美容師資格を取得さえすれば独立開業が可能。
スタッフを雇うことなく個人で経営をしている美容室も多いです。
しかしその反面、利益率が下がると経営に直撃するという危うさもはらんでおり、早い段階での値上げによるコスト転嫁が求められます。
とはいえ、単純に値上げをしてしまうと顧客離れが起きてしまいます。
美容室は新規参入がしやすいことから店舗数が多いです。
そのため競合相手も多く、技術に見合った料金でなければすぐに顧客が流れてしまいます。
技術はもちろん、接客スキルも必要です。
また、SNSなどを活用した積極的な情報発信も重要なポイントとなるでしょう。

・かつては「潰れにくい業種」だったが・・・

他の業種と違い、売掛や買掛などの債権が出ないことから美容室は潰れにくい業種といわれていました。
経営者自身が美容師であれば技術と人員は約束されており、その技術によって売り上げが発生するため、顧客さえ確保できれば経営が成り立ちます。
しかしこの認識が崩れようとしています。
競合相手の多さから集客が難しくなっているのです。
高騰するコストを料金に転嫁しようとすれば顧客離れが起き、一度離れた顧客は戻ってきません。
赤字による倒産はもちろん、黒字であっても倒産せざるを得ない状況が起きています。

■廃業を決めた美容事業者

2024年に入り、経営の悪化から廃業を決めた事業者は次の通り。
老舗といわれる理美容ディーラーも倒産が相次いでいます。

・ヤザワ・Beauty item

1964年に創業し、1975年に設立されたヤザワ(代表谷澤浩氏)は理美容資材の卸売りを行っていました。
埼玉に拠点を置き、埼玉と東京を中心に営業していたものの、2024年2月28日に東京地方裁判所から破産手続開始決定を受けます。
負債総額は約3億5000円。
ピーク時である2017年9月期には約5億5000万円の売り上げがありました。
ヤザワの破産により関連会社であるBeauty itemも連鎖倒産となります。

・野々村美容商事社

1956年創業、1969年設立の野々村美容商事(代表野々村剛氏)は岐阜市内で理美容ディーラーとして営業。
ピーク時の2008年5月期には約12億3000万円の売り上げがあったが、2024年5月30日までに事業を停止。
自己破産申請の準備を始めています。
負債総額は約5億円とのこと。

・玉木商事

1948年に創業し、1966年に設立された玉木商事(代表渡部藤也氏)は新潟市内に本社を置く老舗の理美容ディーラーです。
1988年4月期には約5億円の売り上げを誇ったものの、徐々に業績が悪化し2024年4月30日に新潟地方裁判所より破産手続開始決定を受けます。
負債総額は約4500万円。

■美容師は経営について学ぶ機会がない

日本では、美容師資格を取得すれば美容師として働くことができます。
見習いスタッフとして長い下積み時代を経験し、技術はもちろん、接客スキルやカラー剤などの扱いを身につけていきます。
独り立ちできるまで成長できれば独立開業も可能。
これまで培った経験やノウハウを活かして美容室の経営に着手します。
しかし問題はここから。
長い下積み時代でも教わることのないのが経営方法です。
資金管理やコスト計算、人材確保や集客戦略などは経営者でなければかかわることがないためにまったく知識のないまま店舗運営を進めることになります。
美容師は独立開業率が高いにもかかわらず、経営について学ぶ機会がほぼなく、業務が圧迫しやすい傾向があります。
しっかりとした技術があっても経営がままならずに倒産してしまうというケースも少なくありません。
 

短期間で急成長を遂げた美容ディーラーの株式会社Clearが破産手続開始決定を受けました。
美容業界の倒産が相次いでいます。
2024年1月~4月の美容室の倒産は累計で46件と、2015年以降で最多。
コロナ禍を抜けたことで融資や支援が終了となったこと、円安による資材の高騰、人件費の上昇などが原因とみられています。
このままのペースでは年間での倒産数が過去10年で最多となる見込み。

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