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雲南日本商工会通信2019年6月号「編集後記」

 最近、頼まれて若い営業職のための研修を毎週行っています。私のいる会社は住宅設計施工を主としています。思うに設計施工会社の理想的な営業とは、単に顧客を探し、対応するだけでなく、顧客の欲しいデザインを顧客と共に考え、デザイナーに伝えられる人です。
 そのためには「デザイン思考」が欠かせないと私は考えます。ここでいう「デザイン思考」とは、まず顧客の未来のハッピーを想像すること。次にデザインを通じ、それを実現させるための方法を考えることです。だから講習では「常に未来から考えよう」と念を押します。「そうすれば、あなたも李嘉誠みたいになって金持ちになれるかも」と言って、野心をくすぐるようにもしています。
 言うまでもなく李嘉誠とは、香港を代表する大富豪。無一文から出発し、香港が大不況に陥るたびに投資を繰り返して資産を積み上げた伝説の男。先を読む嗅覚がするどい彼は、1989年のあの事件の際にも、他の外資系企業が退避するなか、中国に大規模投資して財をさらに増やしました。
 講習でそんなことを話していて、ふと思いました。「そういえば李嘉誠は4、5年前から、中国の資産をヨーロッパに移しているな。なんでだろう」。
 ネットで調べれば、様々な憶測記事が載っていることでしょう。しかし私は自分の頭で考えてみたいと思いました。
 「李嘉誠になったつもりで未来を想像(妄想)してみよう。たとえば20年後。この時代、いま注目されているものはすっかり陳腐化しているだろう。たとえばIoTとかAIとか。これらはコモディティになっているはず。デジタル化が隅々まで浸透した世界で、有望となるものはなんだろうか。そして李嘉誠は、それがヨーロッパにあり、中国にはないと考えているとしたら?」。
 「文化か――」。バーチャル体験では真に味わえないもの。いつの時代になっても消費されにくいもの。それは長く続く伝統に裏打ちされた深い文化だ。アメリカにはそれがない。しょせん消費文化に過ぎないからだ。ヨーロッパこそ、それを多く持つのだ――と私は考えました。
 ところで先日、中国映画「進京城」を見ました。同映画は、乾隆年間に京劇の元となった劇を編み出した人々の物語です。そこでは麗しい中国文化と伝統が描かれているのですが、今ではその精神を含め、全て喪失したように感じます。IoT・AIの後の時代、中国はかなり危ういかもと思った次第です。

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