見出し画像

雲南日本商工会通信2024年1月号「編集後記」

 年初ゆえ、今後の中国経済の見通しを考えてみました。「たとえバカでも自分の頭で考える」がモットーなので、今年もあえて書く次第です。ちょっと長いので、お忙しい方はスルーされることをお勧めします。
 『会報2020年1月号』での私の見通しでは、中国経済に横たわる、いくつかのリスクを挙げました。
 各企業の債務が償還不履行となる可能性や、(国有企業に多い)従来型産業が構造転換できない可能性、不動産価格が下落する可能性、人民元が急落する可能性などです。特に「債務償還不履行の可能性」は深刻であり、その結果、中国は不景気に陥ると予測しました。
 その後、コロナ禍に突入。予測通りに恒大集団のデフォルトを代表とした不動産セクターの債務リスクが顕在化する一方、米国の大胆な金融緩和政策が継続したことで、意外にも人民元は高値を維持しました。
 その後、『会報2022年1月号』での私の見通しにおいて、不動産債務問題以外に私が危惧することが2点ありました。一つ目は、「共同富裕」の行き過ぎが人々の活力を削ぎ、「寝そべり経済」に陥ること。二つ目は、習近平氏の度重なる幸運がかえって不運を招きかねないこと。
 一つ目は、概ねその通りになっています。二つ目の「習近平氏の度重なる幸運」とは、たとえば中国IT産業の隆盛は、サービスが悪い、偽札が多い、偽物が多いといったマイナスの社会環境が奏功しました(真逆の日本はIT化が遅れています)。コロナの発生は、極端な監視社会の構築を正当化する口実を与えました。香港の民主化運動は、コロナ禍を利用してうまく潰しました。未来を左右するAI産業はデータ収集が要(かなめ)になるため、人口が多くプライバシーを無視できる中国にとても有利です。
 このような度重なる幸運が、実態以上の評価を自国及び自らに与え、結果的に不運を招く懸念があると、2年前に考えたのです。日本でいえば、戦前の連戦連勝で「神風神話」が創造され、それが破滅的状況をもたらしたり、戦後の日本経済の成功体験がその後の「失われた30年」を招いたりなどと同じ論理です。
 ところが、最近は習政権の失策が目立ってきました。
 不動産バブルを和らげるために2020年に始めた「3つのレッドライン」が失敗しています。規制緩和に転じても、先行き不安から消費が落ち込み、デフレ経済になりました。戦狼外交は周辺国に不信感を抱かせ、逆に西側諸国の結束を強めてしまいました。さらには外資および内資が逃避し始めています。成功したかに見えたゼロコロナ政策も、終盤で白紙革命を招き、それをきっかけに今でも人心が離れています。IT産業や教育産業への締め付けが若年層失業率の上昇を招いています。肝いりの雄安新区は失敗がほぼ確定…。
 習近平氏の今の気持ちは「あれ? あれれ?」なのではないでしょうか。失策あるいは不運がここまで続くと、あるいは彼の心の中の常勝神話が崩れ、冷静な思考に立ち返るかもしれません。
 とはいえ、これまで幸運が味方し続けてきた彼にとって、緻密な戦略に基づく「次の一手」が打てると私には思えません。頼りの部下もイエスマンばかりです。
 それゆえ、今後の彼の選択肢は4つ。すなわち「(「中国の夢」は放棄し)ソフトランディング」、「なるにまかせる」、「デカい北朝鮮化」、「(やけくその)台湾進攻および米中戦争」に絞られるのではないでしょうか。
 いま、最もあり得なさそうなのが台湾進攻です。経済だけでなく軍組織もガタガタな現状では、したくてもできないからです。
 我々にとって一番良い選択は「ソフトランディング」ですが、これまで築き上げたレガシーを否定することになるので、彼が最もしたくない選択でしょう。
 最もありそうな選択は「なるにまかせる」(ハードランディング)です。表面的な政策(先送り策)を実行するだけでは、「寝そべり経済」を立て直せません。いずれ金融不安が銀行にも飛び火し、長く厳しい不況をもたらします。
 その次にありそうなのは「デカい北朝鮮になる」です。これが選択された場合はどうでしょうか。
 「デカい北朝鮮」とは、経済成長より政権維持を最優先事項にする体制を指します。日本含むブルーチームとは交渉を閉ざし、国民は管理が徹底されて国内の良いことしか知らなくなり、中国が世界で最も幸福な国だと思わせられる体制になります。
 この場合、海外を知る中国人富裕層が国外脱出を試みますが、政府はそれを厳重に取り締まるでしょう。そして愛国と外貨排斥が叫ばれ、日本含む外資企業は撤退を強いられることでしょう。半導体などの規制品目は、国内で研究開発して自給体制を整えます。資源や食料などの海外依存物資は、これらハイテク品目と引き換えに友好国(ロシア、イラン、一部のアフリカ諸国など)から取得することになります。
 やや大げさな話に聞こえますが、ここまで想定しておくことも必要な時代になったと言えるのはないでしょうか。
 ただし、彼が皇帝の座を降りるなら、話はまた変わってきます。そうでなくても近い将来、寄る年波に勝てず緊急手術が必要なときもあるでしょう。そんなとき、手術室の医師に誰かが何やら囁いたら…。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?