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雲南日本商工会通信2023年2月号「編集後記」

 最近までキャンプにハマっていたアシスタントのゴカ君が、突然ギターに目覚め、春節にエレキギターを買いました。驚いたのは、それが彼だけでないこと。彼の同僚もエレキを買っていました(これまで触ったこともなかったのに……)。
 キャンプとギター。これらゴカ君の趣味には、共通点が五つあります。一つ目は、アニメがきっかけであること。キャンプは「ゆるキャン△」がきっかけです。エレキギターは、昨年10月~12月に放送された「ぼっち・ざ・ろっく!」というアニメを見たからです。
 二つ目は、モノが着目されていること。キャンプの場合、アニメに様々なキャンプギアが登場しており、ゴカ君はそれを買うことが楽しみの一つとなっています。一方のエレキギターも、Gibson、Fender、YAMAHAやらのブランド、あるいはアンプやエフェクターがアニメに登場し、それらを買いたがっています(高いので仕方なくIbanezを買ったようですが)。
 三つ目は、2つのアニメがともに高校の部活の話であること。中国では、日本の高校のような充実した部活ができません。日本の部活が羨ましすぎるせいで、「あるはずだった青春」を取り戻そうとしているのかもしれません。
 四つ目は、ある意味でマイナーな世界であること。アニメでの登場人物たちは、クラスの人気者というよりは亜流に属する人々です。バスケやBTSやらのメジャーな趣味に走らず、自分が好きなものを見つけ、それに熱中しています。そしてシャイな登場人物が物語の中心的役割を果たしています。
 五つ目は、ローテクであること。キャンプはある意味でハイテクな現代生活からの逃亡・解放であり、エレキギターやそこから生み出されるバンド音楽は、今流行りのEDM(エレクトロニック・ダンス・ミュージック)や既存音源の加工が多いヒップホップと比べれば、ノイズだらけの非効率な音楽と言えるでしょう。
 ゴカ君のような中国のアニメオタクは珍しくありませんが、全体から見れば少数派と言えます。ところが昨年、コロナ禍だったとはいえ中国全土でキャンプがブームになりました。ブームになる以前からキャンプ推しだったゴカ君は、振り返ってみれば「イノベーター理論」におけるイノベーター、つまり流行の最初の2.5%の人になっていました。
 もしエレキギターが今後、中国でそれなり(初心者にとってギターはキャンプよりハードルが高い)にブームになったとしたら、ゴカ君のようなアニメオタクの動向は、ビジネス界にとって座視できないものになると言ってもいいかもしれません。
 この現象をどう捉えるか。ひとまず、日本のアニメ消費者の観点から評価してみましょう。
 ただでさえ同質的な行動を強いられる日本の学校社会では、スマホなどの情報通信によって、さらなる同質化を強いられます。
 同質化とは「主流派に合わせること」と同義なので、主流派であれば違和感のないものですが、非主流派にとっては非常なストレスとなります。仕方なく、表面的には周りに同調しつつ、裏では自分を解放する場を作り出します。それがキャンプであり、ギターであるというわけです。
 スマホなどの情報通信も自己逃避の場所にはなり得ますが、それは同時に実社会との接点がますます失われる結果になることを、彼らは直感的に知っています。だからこそ彼らが求めるのは、リアルな手触りを生身の人間と共感・共有できる場所なのです。
 それゆえ、非主流派はデジタルでなくアナログなものに惹かれます。すなわち、キャンプや昔ながらのギターバンド。さらにいえば、釣りや登山、工芸などとなります。こうして日本では「趣味系アニメ」が人気になったと考えられます。
 では中国はどうでしょうか。実は、中国の若年層にも「大学受験の成績が人生唯一の評価軸である」という、日本とは違う意味で強大な同調圧力があります。そして高校時代は勉強ばかりで部活ができなかったので、遅ればせながら社会人になってそれを求めるというわけです。
 ただ日本と中国で異なるのは、モノへのこだわりです。バブル時代ならともかく、今の日本の若年層はそこまでモノにこだわらなさそうです。高いものを買うにしても、アルバイトに精を出し、買うまでの過程を楽しんでいるようにみえます。
 一方の中国は、日本のバブル直後(1991年)のような経済環境にあるだけに、まだまだ高価なモノが欲しいし、それを借金してまで入手する勢いがあります。視点を換えると、そこにビジネスチャンスがあると言えます。
 さらにいえば、人口がピークに達して「イケイケ中国」が過去のものになった時代において、成熟ニッポンのアニメが描く日常は、中国の若年層にとって「先回りして提供される教材」としてますます重宝されるかもしれません。そう考えるとやはり「中国で人気の日本アニメ」の動向は、ビジネスマンにとっては要チェックといえそうです。
 

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