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雲南日本商工会通信2019年7月号「編集後記」

 先月の産経新聞に「超高度人材が日本に来ない理由」と題するコラム記事がありました。
 日本政府は「高度専門職」という在留資格を平成27年に設けました。学歴や年収などが基準で、永住許可でも優遇される制度です。しかし記事によると、日本に来るのは「マイナーのプレーヤーばかり。一流はいない」。なぜなら、世界一流の人材は「部下との不倫を楽しめても、島耕作のようなサラリーマン社長などには、なりたいとは思わないだろう」からです。
 海外一流の人材から見ると、アメリカや中国と比べて日本がポテンシャル面で見劣りするのは確かです。さらに「下積み」とか「上下関係」、「年功序列」などの日本的慣習も、毛嫌いされる理由でしょう。
 ではどうすればいいのか。記事では「一獲千金を狙えるベンチャーを起業しやすい社会の仕組みを、日本はいまこそつくっていくべきだ」と、電子部品メーカー首脳の言葉を挙げています。
 さらに記事執筆者自身の考えとして「わが国では改正入国管理法が施行され、これまでは聖域とされてきた単純労働において外国人に門戸が開かれた。高度人材とは違い貧困と向き合ってきた人は多い。彼らが日本で働き納税し蓄財し、子供たちに高等教育を受けさせる。こうしたなかから、日本版スティーブ・ジョブズも現れていくはずだ。グローバルな高度人材の獲得において、中期的さらには長期的な視点に基づく施策も求められる」と提起しています。
 私も、そのような長期的な考えに賛成です。ただ付け加えるならば、日本的な弱みを強みに変える発想も必要だと思います。
 数年前、ホリエモンが「美味い寿司を握るのに、長い下積みなんていらない」と言い放って論争になったことがあります。料理学校も進化しているし、センスがあれば皿洗いに何年も費やす修行をする必要はないという主張です。
 私もそう思います。でも同時に思います。「では、俺みたいにセンスない人はどうするの?」と。今一流と言われる職人の多くは、若い時に長い下積みを経験しています。NHKの「プロフェッショナル 仕事の流儀」を見ると、彼らは若い頃、職人になる以外に道がなかったこともあり、ただ愚直に下積みをしています。印象に残っているのは天ぷら職人の早乙女哲哉さん。彼を見て思うのは、たとえセンスがなくても、愚直にやり続ける(掘り下げ続ける)ことで美味いものが作れるようになるということです。
 日本の強みは、実は「時間はかかるけど、誰でもセンスある人に育てることができる慣習を持つ」ことにあるのではないでしょうか。ほら、大学時代に遊んでばかりだったあなたの友人も、会社で鍛えられ、今ではひとかどの人物になっているじゃないですか。センスある人は本来限られているのに、日本の料理店ではたいてい美味い物が出るし、サービスもいいじゃないですか。中国社会で働いていると、そんな日本社会をまぶしく感じます。海外の人たちだって、そんな日本を羨ましく思っていることでしょう。
 その意味で、高度人材ならぬ「中度人材」に注目する海外人材戦略こそ、日本だけができる「オンリーワン戦略」なのではないかと考えます。そう考えると、就職難のために本国では就職できない韓国人新卒を日本企業が採用する流れは、結構イケてるなと思います。

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