『さくらももこのウキウキカーニバル』のユーモアを分析してみた
こんにちは。GBAアドベンチャーゲームの『さくらももこのウキウキカーニバル』、略して『ウキカニ』の世界観が好きすぎてその世界観を継ぐインディーゲームを作ろうとしているものです。
ゲームの世界観を構成する要素の一つにそのゲームのユーモアセンスがあります。私が好きな『ウキカニ』にはクスリと笑える小ネタが散りばめられています。大笑いするわけではないけどじわじわくる、そんな味わい深いユーモアです。似たようなユーモアセンスを自分のゲームにも持たせたい。そんな気持ちから『ウキカニ』のユーモアセンスを分析することにしました。
なお、以下『ウキカニ』のネタバレが多々ありますので未プレイの方はご注意下さい。
そもそもユーモアとは何か
ユーモア学における不一致説 (Incongruity Theory) によると私たちは何かが自分の常識や予想からハズれたとき、ユーモアを感じる。普通じゃないものは笑える。常識とのギャップに面白さを感じるのだ。
SCAMPERで「常識からの逸脱方法」を分析する
では常識から逸脱するにはどうすればいいか?この問いに答えるのにSCAMPERという思考ツールが使える。SCAMPERというのは以下の七つのアイディア生成のテクニックの頭文字を取ったものだ。
普通のものを普通じゃないものに「代用 Substitute」したり、普通の順番を「逆転 Reverse」させたり。常識からの逸脱にも色々パターンがありそう。
『ウキカニ』で私が面白いと思うネタはどのテクニックを使ってるケースが多いんだろう?私が面白いと思った場面を紹介しながらSCAMPERを使って分析してこの問いに答えを出したい。
首がない町長
『ウキカニ』に登場する町長さんには首がない、と書くとホラーゲームのようだが首が身体に埋まってしまっているだけである。私は人の容姿を嘲笑するような笑いは嫌いだが、この会話には笑ってしまった。ゲーム序盤で町長からアイテムを受け取ろうと、役場に入ると「わたしは ないくびを ながくして まってたよ!」と言われる。
この会話に登場するSCAMPERテクニックはどれだろう。まず首が無いというのは人間の身体からパーツを「削減 Eliminate」している。そして慣用句の「首を長くして待つ」を首のないキャラに言わせて更にセルフツッコミさせることで慣用句を「適応 Adapt」している。セルフツッコミというのも、ボケ役の人がツッコミ役もこなすという点において役割を「逆転 Reverse」させていると言えるだろう。
ジャムで布を染める
主人公の家がある町の洋服の仕立て屋さんはなんと「ジャム」で布を染める。ジャムって可愛すぎるよ!ストロベリージャムなら赤く、ブルーベリージャムなら青く染まるのかな? 仕上がりはほんのり甘い匂いが付きそう。
これは「代用する Substitute」だ。通常布を染めるのに使う染料を別のもので代用する。ジャムという可愛いアイテムを代用することで可愛いさを演出する一方で、染料ではあり得ないものに代用することによって頭のおかしさも醸し出している。
お供えものはメロンパン
『ウキカニ』では8つの町それぞれに守護神様がいるほこらがあり、そこに指定されたお供物を持っていくことでゲームが進む。これらのお供え物でほっこり笑えたのがメロンパンだ。ほこらという神聖な場所でBGMもシリアスな感じ。そこにちょこんと置かれるメロンパン。ギャップが面白可愛い。
この場面はまず「逆転 Reverse」でシリアスな雰囲気をファンシーでキュートな雰囲気に変えて、「メロンパン」というアイテムで「常識的なお供物」を「代用 Substitue」している。
早く移動するのに使うのは…?
普通のゲームで早く移動したい場合は「ダッシュ」のコマンドを使う場合が多い。しかし『ウキカニ』はこのダッシュを違う歩行方法で「代用 Substitute」している。歩くわけでも走るわけでもない、第三の歩行方法。そう、「スキップ」である。更に、タイミング良くBボタンを押すと鼻歌を歌いながら主人公がスキップする。面白可愛い!
そして主人公の町の井戸の中に入るとなんと「スキップのたつじん」の幽霊と出会う。これにもニヤリとした。ジョギングの達人や速歩の達人は常識の範疇だがスキップの達人は常識からズレる。これも「〇〇の達人」にスキップという普通ではあり得ない競技を「代用 Substitute」している。
人の不幸を喜ぶ少女
『ウキカニ』ではスキップすることで移動速度が上がるが、マップ上には小石が落ちていて、小石の上をスキップすると転んでしまう。この転ぶアニメーションがまた可愛いんだよな。
そしてこれに関連する「しろい ゆりね」という名前のキャラが登場する。まずはプライバシーなんか関係ねぇお届け屋さんの彼女に関するメモをまず見てほしい。
「ひとがつまずくのがスキ」。この時点ですでに面白いが、ゲームを進めると彼女がマップに出現し話しかけることができる。
富豪の令嬢ですって自分で言ってしまうのもおもしろいが話を続けると衝撃の事実が判明する。
なんと町のあちこちにあるこれらの小石が大理石で、しかも彼女がわざとばらまいたものだというのだ。面白すぎるよ!
このネタは「逆転 Reverse」テクニックの宝庫だ。少なくとも3つの逆転が行われている。
純粋そうな少女→人の不幸が楽しい少女
ただの小石→高級な大理石
偶然そこにある石→人為的に配置された石
『ウキカニ』で一番のお気に入りのネタかもしれない。特に「偶然→人為」の逆転は唸らせる面白さと新鮮な驚きがある。
八百屋さんはカニが好き
八百屋さんだからって野菜好きだとは限らないよな。うん。これはどのテクニックに分類するか迷ったが「代用 Substitute」かな?野菜を売って一筋の八百屋さんなら野菜が好物だろうという予想を「予想される好物とは違う食べ物で代用することによって」プレーヤーの予想を裏切っている。
福引きを引くべき理由
「幸せはは歩いてこない。だから福引き引くんだよ。」感動的な相田みつを風格言かと思ったら積極的にギャンブルを勧めている、名言と迷言の間を行き来するようなこの文章にクスッときた。調べてみたら元ネタがあった。
1968年に発売された『三百六十五のマーチ』という楽曲の歌詞は「幸せは歩いてこない だから歩いてゆくんだね」。元の歌詞を部分的に変更しているのでこれは「適応 Adapt」だろう。
プチプチをひたすら潰すだけのサイト
『ウキカニ』ではゲーム内のパソコンを使ってインターネットごっこができる。2000年代に流行った個人ホームページを思い出して懐かしい気持ちになる。ゲームの序盤ではホームページでのボタンの押し方もレクチャーしてもらえる。
『ウキカニ』に登場するホームページのページ数は約1500ページ。その中でも特に笑ったのがひたすらプチプチをつぶす「ビラー」というキャラのホームページだった。
プチプチがズラーっと並んだページ。一つ一つにカーソルを合わせてクリックすると潰せる。気を落ち着かせるためのゲームだそうだ。今風に言うとマインドフルネス。
これはホームページの「ボタン」を「ボタンじゃないけどボタンのように押せるもの」で「代用 Substitute 」している。「プチプチ」と「ボタン」、確かに二つとも押せるものだ。プチプチとボタンの類似性に気づかせてくれてありがとう、ビラー。
はい、キュウリ!
写真を撮るときの掛け声といえば「はい、チーズ!」だが『ウキカニ』の写真屋さんの掛け声は「はい きゅうり!」だ。なぜだかは分からない。これは「チーズ」を「キュウリ」に代えてるので「代用する Substitute」だろう。
普通じゃない名前
『ウキカニ』の登場人物の名前はダジャレが多く面白い。
例えば、洋服のお直し屋さんは「仕立てる」と「直す」と女性の名前によくある「子」を全て「組み合わせ Combine」て「したて なおこ」だ。
おばあちゃんキャラは「松竹梅」の読み方を「変更 Modify」して、「しょうちく うめ」。すごいおばあちゃんっぽい。
分析して分かったこと
以上が私が『ウキカニ』でユーモアを感じた愛おしいネタたちと使用されていたSCAMPERテクニックである。
ではどのテクニックが一番多かったのか?集計してみよう。
Substitute 代用する = 7 個
Combine 組合わせる = 1 個
Adapt 適応させる = 2 個
Modify 変更する = 1 個
Put to other uses 他の用途を考える = 0 個
Eliminate 消滅させる = 1 個
Reverse / Rearrange 逆転させる・組み替える = 5 個
圧倒的に「代用する Substitute」が多かった。次に多いのが「逆転させる Reverse」。この二つの常識からのズレ方が私のお笑いのツボなのだろう。
もう一つ、分かったことがある。ユーモアを分析すると、面白さが減ってしまうということだ。魔法が解けてしまうように、分析する前の方が『ウキカニ』のネタたちを素直に楽しめていた気がする。
だが、分析することによって分かったユーモアの傾向は自分が開発しているゲームに役立つだろうから分析してよかったと思う。