見出し画像

世界的なデザイン教育機関が考える「プロトタイプ」とは

こんにちは、SandSの佐々木です。SandSは気の知れた愉快な仲間たちが集まって、日常の変化の兆しを題材に、こーなるかもしれないあーなるかもしれないと思考実験をしながら、自分たちの興味のあることを、勝手にアウトプットし続けるヒップホップクルー的デザインチームです。
そんな僕はというと、現在はデジタルマーケティング会社の新規事業コンサルティングチームに所属していて、クライアント企業の新しい事業やサービスの構想や実装を支援する仕事をしています。

今回は、新型コロナウィルスによる世界の混乱が始まる直前、デンマークのデザイン教育機関CIID(Copenhagen Institute of Interaction Design)が主催する、計5日間のウィンタースクールに参加する機会を頂いたので、濃厚だったその講義内容を紹介したいと思います。CIIDの詳しい内容は以下をご覧頂けるとその思想や取り組みが分かるのでぜひ。

新しい事業やサービスを作るには、ビジネスとマーケティング、デザインとクリエイティブ、テクノロジーとデータなど様々な知見やスキルが必要だが、どこかの領域を専門にしつつ、他の領域の知見を持っておくことが重要だと思う。なので最近は、「実体のあるものを作る」を自らのテーマとして動いている。”実体がある”の定義は人それぞれだが、コトづくりではなくモノづくりをする、というのが僕のイメージである。SandSの取り組みもその一つで、今回紹介するCIIDのスクールもそうだ。

さて、さっそくスクールの内容だが、僕が参加したのは、「PROTOTYPING AS A PROCESS」というコースで、実際にモノを作って、ユーザーに試しながら、ブラッシュアップしてくしていくことをメインにしたものだった。プロトタイピングのプロセスやツールを学ぶことが、このコースの目的である。
講師は、インド出身でSpotifyのプロダクトデザイナーと、イタリア出身の元Hewlett-Packardのインタラクションデザイナーで、二人共グローバルに活躍している現役のデザイナーである。とても気さくで良い方々だった。

プロトタイプとはなにか?

プロトタイプの語源は、ギリシャ語で「起源・原形」を意味する「prōtótupos」が由来している。つまり、最初の具体例である。
では、なぜプロトタイプをするのか、という問いに対しては、自分たちの仮説がどのようにユーザーに受けとられるかを理解するためであり、プロトタイプによってユーザーとコミュニケーションをしやすくし、意味のあるフィードバックをもらうため、ということであった。
では、何をプロトタイプすればいいのか。それは以下の3つに分けられる。

1. 役割をプロトタイプする(Role)
2. 見た目をプロトタイプする(Look and feel)
3. 実装するためにプロトタイプする(Imptementation)

この3つをプロトタイプして統合していく(Integration)。プロジェクトの進捗や性質にもよるが、本質的には1の優先度が高いと思う。そしてこれらを、コンフォートゾーンじゃないところで試してみて、アイデアを磨いていくことが重要だ。
漠然とプロトタイプと言うのではなく、こうやって分解すると分かりやすいし、検証の目的も明確になる。

役割をプロトタイプする(Role)の具体例を、講師が取り組むプロジェクトから紹介してくれた。
目の見えない人のカメラの役割とはなにか?というものだ。目の見えない人が写真を撮ることは実は結構あるようで、その体験を向上するサービスである。なにか面白そうなことがあったら写真を撮ってSNSにアップし、それを見た友人がコメントをすることで、目の見えない人が音声で聞くと、今までにないコミュケーションになる、というものである。盲人のカメラの役割をプロトタイプしたのである。
他にも、撮った写真に写っているモノの上に、そのモノの名前を友人が追加でき、それを音声で読み上げるなど、面白いアイデアがあったので、詳しくは以下を見てほしい。

プロトタイプにはフィディリティがある

プロトタイプには、LowFidelityからHighFidelityまで様々な種類がある。つまり、コンセプトが書いているドキュメントレベルのものなのか、ワイヤーレベルのものなのか、インタラクションがあるものなのか、リアルなコンテンツが入っているものなのか、開発までやるのかなど、どこまで作り込むのか(忠誠度の高いものなのか)?という意味である。どのプロトタイプ手法がどのフェーズに向いてるのかを見極める必要がある。
例えば、低予算で作っているチケット購入サービスのLowFidelityの例が以下である。

LowFidelityの良いところは、迅速で安価に学習でき、共創によるチームビルディングにもなり、しっかりと設計すれば良いテストができることだ。逆に悪いところは、リアルな感情の反応が得づらい、詳細なユーザビリティテストができない、などである。

LowFidelityプロトタイピングをする

講義の中で作ったプロトタイプは、外国人旅行者が日本文化の良さを理解し、日本を満喫してもらうにはどんなサービスがあれば良いか?という問いに対するものだ。事前に分けられたチームメンバーとアイディエーションをし、僕らのチームは、「観光ガイドに載っていない、ディープな飲食店に行けるようなサービスを提供する」ということになった。チームにいた一人が四谷荒木町の飲み屋街の常連で、最高の街だということで、その話から一気にアイデアが詰まっていった。実際に荒木町にフィールドワークにも行ったが、確かに最高の街並みと飲み屋のクオリティであった。

さっそくペーパープロトタイプを作成し、想定ユーザーへのインタビューを実施した。詳しくは長くなるので書かないが、自分たちが思っているものとは想定してないフィードバックをもらうことができ、サービスのコアな価値を発見することができた。プロトタイプはユーザーとのギャップを少なくするために役に立つことを実感した。講義では、ヤコブ・ニールセンの5人で約80%の問題が発見できる、というお馴染みの理論などを引用しながら、説明してくれた。
また、サービス開発のコアメンバーは、そのサービスに愛着がありバイアスがかかるため、思い入れがない別のリサーチャーがインタビューをする方が、適切なフィードバックと分析ができることが多い、とも言っていた。
これは確かにそうだ。相当な客観視点を持っている人間じゃないと、長い時間そのサービスを深く考え作ってきて、適切な判断などできるはずがない。

HighFidelityプロトタイピングをする

ペーパープロトタイプでユーザーからのフィードバックを受けて、重要な情報はなにか?必要な機能はなにか?最初の仮説から何を削除すべきか、あるいは追加すべきか?を考えながら、情報設計をやり直し、デザインツールであるFigmaを使って、アプリのUIを作っていった。
脱線してしまうが、東京都の新型コロナウイルス対策サイトがFigmaで公開されている。全国の自治体に無償提供し、データをグラフで示すなど視覚的で分かりやすいサイトを、予算の少ない自治体でも簡単に作れるようにしている。素晴らしい取り組みだと思った。

この後、サービスの理想のユーザー体験をビデオプロトタイプ(コンセプトムービー)という形で具体化していった。iphoneで様々なシーンを撮影した後、編集作業を進めていった。チームメンバーの一人がAfterEffectsの使い手であったため、とても助かった。

ビデオプロトタイプのメリットとしては、以下のようなものがある。

・ユーザー体験全体を統合して見せることができる
・映画のように時間軸を活用することで、コンセプトを明確に構築でき、概念的なギャップを埋めるのに役立つ
・未来のテクノロジーのように、まだこの世に存在しないものを想像するのに役立つ
・ステークホルダーへの説得力のあるコミュニケーションやワクワク感を醸成できる

例えば、「IoTデバイスは、ユーザーが想定通り本当に使ってくれるのか?」という問いを投げかけるようなビデオがある。

課題解決型ではなく、これからの社会はどうなっていくのかを考え、未来シナリオをデザインして、今の世界に違った視点を提示することで、より良い未来を思索するための「スペキュラティブデザイン」というアプローチである。この概念は、SandSというチーム名にも関係があり、非常に興味のある領域なので、今後深ぼっていきたいと思う。

ビデオプロトタイプのプロセスは、「ストーリーボードの作成(キャラクターと物語作り)〜撮影〜編集」というステップである。キャラクター設定は「荒木飛呂彦の漫画術」、物語作りは「ハリウッドの三幕構成」が個人的にとても秀逸だと思っているため、ここで共有したい。

講師が紹介してくれたストーリー作りのテンプレートは以下である。
「昔々あるところに〇〇がいた。〇〇はいつも△△している。だけどある日、□□をした。なぜなら、☓☓だったから。そしてついに✩✩になった。」

これを参考に、今回考えたサービスの物語を作ってみると…

「日本に旅行にいくマイケルはいつも旅行ガイドを見て観光していました。日本には何回か来ているから、今回はガイドマップだけじゃ退屈。もっとユニークな体験をしたいと思っていたけど、今回もあんまり思うようにはいかない。そんなとき、友達から携帯にメッセージが。そのメッセージの中で「SoGoo」というサービスを紹介してくれた。さっそくダウンロードして起動。魅力的で個性豊かなカラオケスナックのママや居酒屋の大将がいっぱい。エツコ(飲み屋のママ)に会いたい!。SoGooで店を検索。さっそく今夜行ってみよう。(体験後)マイケルは他の友達にもSoGooを教えてあげた」といった具合である。

新しい手法の発明が必要

講義の最終日は、5日間の成果をまとめてプレゼンテーションである。自分たちの仮説はなんだったのか?どんな検証をしたのか?ユーザーはどんな言動をしたのか?得られた洞察はなにか?これらの学習から次は何をすべきか?ということを、最終的なアプリのUIやコンセプトムービーとともに整理していった。

今回はプロトタイプのクオリティを追求するというより、CIIDが考えるプロトタイピングのプロセスやツールを学ぶことが、主な目的であった。
学んだ手法やプロセスに、そこまで目新しさはないものの、普段のプロジェクトでは様々な外部要因があり、ここまで体系的に自由に進行できること少ない。今回のように体系立ててに実践してみると、良かれと思って機能を盛り込みすぎていたなど、まさにフィーチャークリープ(機能過多)状態に陥り、自分たちの仮説が間違っていることが実感値として分かり、多くの学びがあった。基本をしっかり体得しておくことの重要性を強く感じた。
また、よく言われることだが、今回学んだ手法やプロセスを、そのまま実践で使ったとしても、上手く機能しないことは多くある。リアルなプロジェクトは、その背景や目的、スコープやバジェットやスケジュール、さらにはステークホルダーの思惑など、様々なことが絡み合ってくるからだ。
しかし、活用できることは多くあるため、新しいものを作るために、基本を抑えながらもコンテクストに合った、「新しい作り方」を発明することが重要であり、その発明を模索していきたいと思った。

さっそく手始めに、物語からのプロトタイピングを試みている最中なので、ぜひ読んでもらえると嬉しいです。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?