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失われた大陸―アトランティス大陸について

◆アトランティス大陸

 哲学者プラトン(ギリシャ:前427-347)の『ティマイオス』(Timaeus)、『クリティアス』(Critias)が出典。


 この本は『国家』(ポリテイア)につづく対話篇の三連作で、『ティマイオス』『クリティアス』『ヘルモクラテス』の三部作となるはずだったが、『クリティアス』は未完で、『ヘルモクラテス』は存在しない。


◆『ティマイオス』の内容

 『ティマイオス』は、アテナイの夏祭りのソクラテスの自宅にて、ティマイオス、クリティアス、ヘルモクラテスの三人が、ソクラテスの家を訪れる。まずはソクラテスが理想国家論(プラトンの『国家』の要約)を語る。次にクリティアスがアトランティス伝説の話を短く紹介する。次いで、ティマイオスが宇宙論を語り始める。『クリティアス』は続編で、次にクリティアスがアトランティスの伝説について語る。話はゼウスがアトランティスに天罰を下すところで終わっており、未完である。この後、『ヘルモクラテス』が語る三部作となるはずだったと思われる。


 ティマイオスは架空の人物で、イタリアのロケリス地方の天文学者。彼は、エレア派のパルメニデス(実在論)、ピュタゴラス(数学論)、エンペドクレス(四元素論)の思想(後代の新プラトン主義的な思想)を持っている。

 ソクラテスはプラトンの『国家』的な理想国家論を語る。

次いでクリティアスはアトランティスについて語る。アトランティスの話を聴いた経路はこうである。エジプトのサイスの神官→政治家ソロン→ソロンの友人ドロピデ→ドロピデの息子クリティアス→孫のクリティアス(2世)→クリティアス(3世)→ソクラテス→著者のプラトン。

 アテナイの歴史はエジプトより古い。9000年前(現在からは12000年前)、アテナイは理想国家を築いていた。かつてのアテナイでは、最も優れた人種が優れた法秩序の下で暮らしていた。その時代、大西洋にアトランティスという巨大な島があった。アトランティス軍が地中海を侵略してきた時、アテナイ軍は勇敢に戦い、見事にアトランティスを倒し、地中海世界の自由を防衛した。アトランティスはゼウスの天罰によって三度の大地震と大洪水によって沈没した。この古代の記録は、エジプトの神官のみが保管している。

 次いで、ティマイオスが壮大な宇宙論を語り始める。宇宙創成の前、唯一神デミウルゴス(Δημιουργός、工匠の意味)のみが実在していた。デミウルゴスは善であり、自分の似姿となるように、最高の知性の顕れとなるように、唯一の生命として、宇宙霊魂(ギ:フュケー・コスムー、ラ:アニマ・ムンディ)を創造した。それは球形をしていた。また、それは「有」「同」「異」の混合によって創造された。宇宙の構成要素は四元素(火・風・水・土)場(コーラ)である。プラトン立体(正多面体)は、正四面体(火)、正六面体(土)、正八面体(風)、正十二面体(神が宇宙を描写するのに用いた)、正二十面体(水)の五種類が存在する。

 存在とは何か。二つある。第一に、常に存在し、生成せず、知性と言語によって捉えられるもの(実在)。第二に、常に生成消滅し、真に存在せず、感覚と思いなし(ドクサ)によって捉えられるもの(存在)。

 生成には原因があり、創造主が実在の似姿として作ったものは卓越したものになるが、それによって生成したものは劣ったものになる。

 宇宙は感覚される以上、生成したものであるが、生成したものの中では最も卓越しているので、創造主が実在として作ったものである。

 この宇宙論も生成されたものである以上、真実らしい理論に過ぎない。

 宇宙の創造主デミウルゴスは、すべてが自分の似姿となるように、善なるもの、秩序あるもの、完全なもの、知性を宿す魂をもった生き物なるもの、全ての生物を内包するもの、として宇宙を構築した。

 神は宇宙の身体に先立って、宇宙の生きた魂として、宇宙霊魂アニマ・ムンディ)を作った。

 神はそれを、

・形相・不可分な「有」、物質・分割可能な「有」、中間的な「有」

・形相・不可分な「同」、物質・分割可能な「同」、中間的な「同」

・形相・不可分な「異」、物質・分割可能な「異」、中間的な「異」

を数学的な比率を混合することで作り上げた。これにより天体の円運動や知性の働きが可能となった。

 神は生成したもの、物体的なもの、感覚できるものとしての宇宙の身体を、火と土から作ろうとした。両者を結びつけるものとして水と風(空気)を加え、四元素火、水、風、土)で宇宙を構築した。さらに神は、宇宙を球形に仕上げ、外部との出入りがない自己完結的なものとして、円運動するものとして仕上げた。

 天体(太陽系)は宇宙の時間を区分し、見張るものとなった。

 神は宇宙の中に、神々からなる天の種族(天体)、翼をもち飛ぶ種族(鳥)、水中を泳ぐ種族(魚)、陸地を歩行する種族(動物)、の四つの種族を作ることにした。

 神は天体(神々)を火から作り、宇宙に似せて球体とし、円運動させた。大地(地球)は最初に作られた天体である。天体(神々)は不滅である。

神々は死すべき種族(残りの三種族)を作った。最初の生物はみな男に生まれるが、快苦・エロス・恐怖・怒りなどに捉われると、来世で女や獣として転生する。

 神々は、肉体の頭部を球形に作り、四肢を奉仕するものとして作った。そして、第一器官として光を感じる眼を作った。眼は思考(知性)に奉仕する。

 知性の対象は、父なる形相、子なる四元素、その媒体として母なる場(コーラ)である。

 四元素(火・水・風・土)は、三角形を面とした立体である(プラトン立体:正多面体)。プラトン立体には、正四面体(火)、正六面体(土)、正八面体(風)、正十二面体(神が宇宙を描写するのに用いた)、正二十面体(水)の五種類が存在する。

 人間の身体は、不滅の魂の容器である。知性を司る不滅の魂が、情念を司る死すべき魂に汚されないように、球形の頭部と胴体を首によって区別して配置し、横隔膜より上に勇気・気概を与え、横隔膜より下に獣的なものを配置した。

 身体と魂の病気の原因は、身体と魂の不釣り合い・不均衡である。体育と学問によって身体と魂の両方を動かし、両者の均衡を保つことが必要である。

 魂は輪廻転生する。男として生まれた後、臆病に生きた者は女に生まれ変わる。天体(神々)を信じず、目に見えるものしか信じない男は空を飛ぶ鳥に生まれ変わる。知性を使わず、情動のままに生きた男は地を歩く獣に生まれ変わる。最も愚かなものは地を這う蛇類に生まれ変わる。


◆『クリティアス』の内容

 かつて、ヘラクレスの柱(ジブラルタル海峡)の彼方(大西洋)に、アトランティスがあった。9000年前(現在から12000年前)、アトランティスとアテナイは戦争をし、アテナイが勝利した。アトランティスは地震のために海に沈没した。アトランティスはリビアやアジアよりも大きな島だった。

 アトランティスはポセイドンに与えられた。彼は人間の妻を迎えた。彼女(クレイトオ)はアトランティスの山の中に住んでいた原住民であった。ポセイドンは妻の両親が住んでいたところに、環状の都市を建設した。二人の間には、5組10人の双子が生まれた。それぞれに10の地域を分けて治めさせた。長男はアトラスといった。それゆえ、この大島は「アトラスのもの」という意味の「アトランティコス」(アトランティス)と呼ばれた。

 子孫たちは何代にも渡り支配し、周辺の島々をも支配し、地中海領域にも進出してきた。アトランティスは天然の地下資源オレイカルコス(=オリハルコン:山の銅の意)が豊富に産出された。彼らは環状の島の中央のアクロポリスに壮大な王宮を建設し、その城壁をオリハルコンで作った。アトランティスは豊富な資源と巨大な軍事力を誇る国であった。その軍事力は、84万の兵と1万台の戦車、1200隻の軍艦と24万人の乗組員であった。

 アトランティスは大きさは以下である。

東西3000スタディオン(555km)
南北2000スタディオン(370km)
中央の島:5スタディオン(925km)
第一環状水路:1スタディオン(185m)
第二環状島:2スタディオン(370m)
第二環状水路:2スタディオン(370m)
第三環状島:3スタディオン(555m)
第三環状水路:3スタディオン(555m)
その周りは大平原

海岸から中央の島まで50スタディオン(8880m)
直径4995m

橋の幅1プレストン(約29.6m)
水路の幅3プレストン(約88.8m)
水路の深さ100ブース(約29.6m)
ポセイドンの神殿:縦1スタディオン(185m)、横3プレストン(約88.8m)

 しかし、神々の血を継ぐ王たちは、次第に人間の血が濃くなって堕落し、富と財に溺れて支配欲を満たすために侵略を続けた。そして地中海に乗り出した時、アテナイはアトランティスと勇敢に戦い、これを打ち破り、地中海の自由を防衛した。こうして戦いに敗れたアトランティスに、遂に天罰が下った。ゼウスは三度の地震と洪水をもたらし、アトランティスは一夜のうちに沈没してしまったのである。


◆1601年 イギリスの哲学者フランシス・ベーコンの『ニュー・アトランティス』

 ユートピア小説。架空の理想郷の島ベンサレムと、その学門府ソロモンの館を描く。この中で、アメリカ大陸はアトランティスの残骸とする説が書かれている。これが一部の人に史実と勘違いされ、アメリカ大陸=アトランティス説が信じられた。


◆1870年 フランスの小説家ジュール・ヴェルヌの『海底二万里』

 SF小説。海中に沈没したアトランティスの姿を描き、大衆文化にアトランティスの概念を広めた。


◆1882年 アメリカの政治家イグネイシャス・ロヨーラ・ドネリーの『アトランティスー大洪水前の世界』

 アトランティスを史実のミステリーとして書いたことから、大衆のオカルト熱に火をつけた。


◆1888年 神智学創始者のヘレナ・ブラヴァツキーの『シークレット・ドクトリン』

 この中で、スピリチュアリズムの霊性進化に関して超古代史を取り上げ、アトランティスは高度な科学技術を持っていたと主張した。

 以後、ルドルフ・シュタイナーの人智学、薔薇十字思想などに浸透し、アカシックレコード(人類の過去の転生情報の保管場所)からの霊視を行って、アトランティス人の記憶として詳細な情報が書き記されていった。これにより、元ネタのプラトンの記述からは想定できないような、現在のアトランティスに関するイメージが形成されていった。

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