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[企画シリーズ] 北朝鮮に吹くマーケティングの風 - 連載をはじめるにあたって


チョン・ビョンギル  Yes innovation首席コンサルタント 元「統一と分かち合い財団」事務局長

北朝鮮は広報目的で複数のソーシャルメディアアカウントを運営しており、その中には平壌の女子大生が登場するYouTubeアカウントもある※。投稿された動画には、アイスクリーム屋で新しいアイスクリームの味を紹介したり、遊園地に行ったり、大同江のほとりでジョギングをしたりする様子が収められている。

※2023年7月ごろには日本でも韓国での北朝鮮公式のものと見られるYouTubeチャンネルが話題となったが、その後YouTube側により閉鎖に。
いっぽうTikiTokでのチャンネルは現存する。その他中国内でのSNSには
アカウントが存在との情報も。

またハンバーガーを食べたり、美容室に行って髪を整えたり、店に行ってさまざまな商品を買い物をしたりする様子も見られる。店に陳列された商品を見ると、以前より北朝鮮で生産される工産品の種類が多様になり、パッケージもスタイリッシュになっているようだ。まだごく少数ではあるが、「資本主義の華」と呼ばれるブランドとマーケティングに徐々に慣れてきているようだ。

北朝鮮の広報用ソーシャルメディアアカウントに登場する若い女性たちの話は、実際には平壌に住む一部の人々の暮らしを代弁しているにすぎない。北朝鮮では、平壌に家族全員が住み、子どもを育てられるということが大きな特権の一つとなっている。

今後の投稿では、平壌にある店舗やそこで販売されている製品が多く紹介されるだろう。これは北朝鮮の特権層を代弁したり、北朝鮮政権を広報するためのものではない。北朝鮮自体が徐々に内部に吹き始めている「マーケティングの風」を分析するためのものだ。北朝鮮は政治的自由と人権が制限された世界最貧国の一つであるため、ブランド商品の使用を最小限に抑えてきた経緯がある、あるいはそれを拡大できる人は限られている。このような基本的な条件を備えた人々は主に平壌市民だ。

何より「北朝鮮」と「ブランド」は似合わない組み合わせだ。北朝鮮内にブランドの風を吹かせるということは、彼ら自身にも負担感がある。特に海外ブランドよりも「北朝鮮国内のブランド」に際しては場合はなおさらだ。韓国内でこの組み合わせについて話が及ぶと、社会主義と全体主義の要素を持つ体制でどのように自由な企業活動が可能なのか「資本主義の華」と呼ばれるブランドとマーケティング、広告が北朝鮮で現実的に可能なのかと尋ねられることが多い。

北朝鮮は閉鎖的な国家だが、内部の経済システムの改善に対する関心と意思は明らかにある。技術革新を通じて生産量を増やし、資源の無駄を減らし、流通をより効率的にしたいと考えている。またスタイリッシュなデザインを通じて消費者の心をつかみたいと思っており、住民たちのニーズ(needs)を理解したいと思っている。

外部世界が注視する急進的な変化ではないが、北朝鮮当局は体制を維持しつつ部分的に自分たちの好みに合わせて改善することを望んでいる。このため北朝鮮は一部の大学に経営学を導入し、青年と女性のための起業家精神プログラムを導入した。しかしまだその恩恵を受ける人は多くない。

また北朝鮮の主要な生産現場では、品質改善教育と遠隔学習(eラーニング)プログラムが実施されている。かつてないほど多くの消費財を生産しており、オンラインショッピングモールとデジタル決済サービスを導入し、ブランドの知的財産権、製品パッケージ、デザインに関心を払っている。

北朝鮮は海外進出と輸出を促進するため、国際社会に商標登録を続けており、毎年5~10個の商標を世界知的所有権機関(WIPO)に登録している。今後、北朝鮮、さらには韓国は、近づいてくる統一時代に備え、北朝鮮ブランドを育成し、韓国のブランドと協力しなければならない課題を抱えている。

この連載で扱おうとしている内容は、硬い理論の羅列ではない。まず多様な事例を基に事例を分析し、見えないものを見る能力である想像力を基に、将来起こりうることを見ていく。

(続く)

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