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「韓国側と激しい応酬」 この年末 北朝鮮で何が起きていたのか <所長コラム>

筆者=チェ・ギョンヒ(SAND南北コリア研究所所長)

2024年の新年早々、北朝鮮の金正恩はこう述べた。
「北南関係は、もはや同族関係、同質関係ではなく、敵対的な二国間関係、交戦国関係である」
「有事の際は核の兵力を動員して韓国全土を制圧するための大事変の準備に拍車をかけよ」

金正恩はまた、2023年12月26日から30日まで開催された朝鮮労働党中央委員会第8期第9回全員会議において「朝鮮半島で戦争が現実的実体として近づいている」と述べ、韓国に対する武力戦争の可能性を脅かした。

北朝鮮の韓国への脅迫は昨今のことではない。しかし核兵力による韓国への赤化統一の意図を露骨にした好戦的な発言は今回が初めてのことだ。これは金正恩政権下で最も強度の高い韓国に対する戦争脅迫発言として、新年の朝鮮半島情勢の激変を予告している。

金正恩の妹、金与正が3日間における発言を通じて、北朝鮮の核ミサイル開発の高度化が尹錫悦政権の対北政策のせい、という不適切な発言をしたことも、情勢悪化の責任を韓国に転嫁し、挑発の口実を積み上げようとする動きと見られている。

特に、金正恩が南北関係で民族の同質性を否定し、韓国を敵国と規定したことは、先代の統一方針である「高麗連邦制」と「我が民族同士」という名分まで廃棄したことを意味し、「朝鮮半島情勢の変曲点」となる重大な変化だ。これまで北朝鮮は核開発が「アメリカの侵略を抑制するための防衛であり、民族を守る宝剣である」という弁解をしてきた。北朝鮮は核兵器の能力高度化と新冷戦の流れに乗じて、民族同士の仮面を脱ぎ捨て、民族の頭上に核を撃つと公言したのである。

以前、金正恩は朝鮮戦争休戦協定締結67周年である2020年7月27日の老兵大会で、「(朝鮮戦争で南への進軍が進んでいた時)我々は銃が不足して(韓国領土南部の)南海を目の前にした洛東江で死した戦友たちを埋め、涙を飲んで立ち去らなければならなかった。その同志たちの恨みを忘れたことはない」と述べ、核兵器の強化の必要性を強調した。それが完成すれば韓国を核兵器で征服するという野望を早々と明らかにしたのである。

国内経済を放棄し、核ミサイル開発にのみ執着してきた金正恩の好戦的な核兵力の誇示は、昨年(2023年)高まった。大陸間弾道ミサイル(ICBM)を5回発射し、2回の失敗の後、3度目にして軍事偵察衛星の発射に成功した。「核兵力の高度化」を憲法に明記し、韓国に対する核先制攻撃も法制化した。

ソ連崩壊は「核兵器がないから」ではなかった

さらに金正恩は先月18日、固体燃料大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星-18型」の発射訓練を視察し、「ワシントンが我々を相手に間違った決断を下すとき、我々がどのような行動に迅速に備えているか、どのような選択をするかを明確に示した契機になった」と述べた。有事の際には米国本土を核で攻撃することによって脅迫したのだ。おそらく北朝鮮は今年4月の韓国総選挙と11月の米国大統領選挙を狙って、7回目の核実験と偵察衛星の追加発射など、挑発の度合いを高めるだろう。

一部では、北朝鮮の核の脅威にはこんな分析もある。ロシアによるウクライナ侵攻後、ロシアが米国など西側の直接的な軍事介入を阻止するために核兵力使用を「脅迫カード」として利用している点に倣った、というものだ。ロシアによる核兵器使用の言及だけで国際社会がひるみ、直接介入を避けて間接支援する姿を見て、核の脅威を通じて朝鮮半島で韓国に対する主導権を握り、米国の直接介入を阻止し、韓米日連携を分断する意図だという。

しかし、このような金正恩の好戦的な核兵器による脅迫は決して成功しえない。むしろ核兵器の脅威の増大は尹錫悦政権の北へのスタンス、および安保強化に対する心理的動揺を認めた証拠だと言える。

尹錫悦政権は韓米ワシントン宣言や核協議グループ(NCG)新設、米国戦略資産の朝鮮半島展開および韓米日連合訓練などで北朝鮮の核脅威に徹底的に対応している。北朝鮮は外交と経済を放棄し、そうしてまで作り出した「核のカード」が無力化したのである。

一方、北朝鮮内部には韓国の国際的地位の向上と北朝鮮に流れ込む韓流の流入が北朝鮮民衆の心理的変化を促進し、体制内を脅かしている。 金正恩の好戦的な発言は、このような国内外の状況に対する恐れの表れだ。よく言うではないか。「弱い犬ほどよく吠える」と。

韓国の経済規模の60分の1しかない北朝鮮は、核ミサイル開発が急速に進展するなど、軍事競争の渦に巻き込まれ、経済と市民生活は抜け出せない泥沼に陥っている。

金正恩はこの度の全員会議で「昨年、すべての経済分野の目標を100%以上達成した」と発表したが、具体的な数字がない統計は虚構に過ぎないというのが、韓国の北朝鮮の経済専門家たちの一般的な見解だ。 にもかかわらず、金正恩は権力者たる自身に対して一言も反省せず、偽の統計データで自画自賛を続けている。

人が重い岩を持ち上げる時、表情は平然を装えても顔は赤くなる。 北朝鮮が自国を強国とすることは、妄想に過ぎない。 核を持っていないことがソ連崩壊の原因ではなかった。何千もの核兵器を持っていても、深刻な経済の不振と過度な国防費の支出によって国力が衰退したためだった。 このように崩壊した旧ソ連の姿が、生活経済を立て直すどころか、権力維持のための核開発にしか没頭しない金正恩の未来と一致するのは明らか。 今からであっても金正恩政権は無謀な核の脅威と南北統一の戦術によって韓国を揺るがそうとする試みを止め、非核化、民族・世界の平和、協力の道に進まなければならない。


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