はじめるために必要なことは、はじめてみることだ。【ハチ飼育員の手記 4月】
4月1日(月曜日)曇り時々晴れ
年度が変わった。新年号も発表された。
今日は巣箱の設置にふさわしい日だ。
めでたい日ではあるが、気持ちを引き締めないといけない。すでに心配点がいくつかある。
お隣さんの窓
ひとつは、隣の建物の窓があいていること。
この会社に引っ越してきたときからずっと気になっているが、ここの窓は真夏も真冬も、いつもあいている。
ここの大家さんは暑がりなのか。それともつねに空気を循環させたいのか。一度ご挨拶にいったときに、それとなく「あきっぱなしの窓」のことについて触れてみたが、「そう。あけてる」と、あまり気にしていない様子だった。
ただもしハチが来た場合、確実にこの窓の中には何匹も迷い込むだろう。注意しないといけない。
室外機
次に心配なのは室外機だ。狭い屋上には、所狭しと室外機が置かれている。室外機の風が当たらない場所は無い、といってもいい。室外機は夏に強い熱風を、冬に強い冷風を出す厄介な存在である。ハチの引っ越しの邪魔にならないといいが。
営業部長の市川聡が巣箱の設置を手伝ってくれた。
彼は実家が長野県で、「蜂の子は一番のごちそう」という認識のまま大人になったという。たのもしい存在だ。
準備にとりかかる。
黄色いのはミツロウ。巣に塗りつけることで、ハチが「この巣になじみがある感」を演出できるようだ。塗りやすいようにドライヤーで熱するといいらしい。
塗りつける。この匂いはハチにとって、おばあちゃん家のように落ち着く匂いなのかもしれない。
仕上がりはこんな感じ。これが塗りすぎなのか、塗らなすぎなのかもわからない。
ルアーを装着。「ルアー」というのは、キンリョウヘンというハチ寄せの花の、誘引成分だけを合成したもの。ポケモンGOをやったことがある人なら、ルアーがおびき寄せるものというイメージはあるだろう。
設置場所は迷った。風雨にさらされないように屋根の下にするべきなんだろうが、屋根のある場所には室外機が並んでいる。
かろうじて見つけたスペースがここだ。
半分は屋根の下だが、半分ははみ出している。おまけに写真にはうつってないが、わきには巨大な室外機があって、ビュービュー冷風が吹き付けている。こんな場所でいいのか。悪いのか。判断がつかない。だがここしかない。
雨も降ってきた。あとはいったん様子を見ることにする。
飼育員 橋本圭右
橋本圭右(はしもとけいすけ)
1974年東京生まれ。サンクチュアリ出版編集長。主に山と電車とファミレスで活動。編集した本。好きなものはゲーム、ジムニー、ベイスターズなど。
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