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プロジェクトへの自己評価(2)

前回、「プロジェクトへの自己評価(1)」という記事を書いた時、私はまだ、JICAに提出するよう求められている「プロジェクト業務完了報告書」のうち、第Ⅲ章までしか書いていませんでした。

第Ⅳ章が未執筆のまま残っていたのですが、ここはプロジェクトの達成した目標が、ログフレーム上の「上位目標」に到達するための条件を論じた箇所です。さすがに、雇われ専門家の身としては、「プロジェクト目標」の達成には責任は終えるけれど、「上位目標」となるといろいろ条件がつき、私自身では責任が負えないと思い、CSTとJICAブータン事務所に書いてほしいと駄々をこねたのですが、結局私が折れ、大半を私自身でまずドラフトしました。今日は、それを和訳してご紹介します。

ただし、それでも第2節「上位目標達成に向けたブータン側の実施体制の構築計画(Plan of Operation and Implementation Structure of the Bhutanese side to achieve Overall Goal)だけは、自分にはどうしても書けないので、CSTの学長に逆「丸投げ」をしています。現在スリランカ出張中の学長が、いつ書いて下さるのかはわかりません。

以下の業務完了報告書のうち、第1節と第3節は、12月7日に行われたファブラボ利用者向け報告の中でも、かいつまんで述べさせていただきました。

CSTマネジメントに対しては、相当厳しいことを述べた


1.上位目標達成に向けた展望

  1. R/D(協力覚書文書)によれば、プロジェクト終了後、CSTは、「デジタルファブリケーションによる社会的課題の解決」がブータンにおける技術教育のテーマとして取り上げられるよう各所に働きかけることが期待されている。プロジェクト完了までのファブラボ利用者の実績から判断すると、デジタルファブリケーションが社会的課題の解決に貢献するには、以下を担保する必要がある:
    ①ファブラボの利用者(デザイナー)が、デザインプロセスにおいて、ソリューションの潜在的な受益者あるいは「ニーズを知る人(ニードノウア)」と交流することで、後者の視点や要望がソリューションに十分に反映される。
    ②そうしてプロトタイプされたソリューションが、社会に実装される。

    この15ヶ月間、プロジェクトが独自にオープンイノベーションイベントを企画・開催する際は、この2つの仕組みを組み込むよう意識してきた。しかし、プロジェクト終了後、ファブラボCSTの専任スタッフだけで同様のデザイン共創イベントの企画・実施を引き受けられると期待するのは非現実的である。上位目標の達成は、CSTの大学全体としてのコミットメントにかかっている。

  2. 実際のところ、ファブラボでは、学生が来て取り組もうとしているプロトタイプの全体像を把握するのが難しい。彼らはプロジェクトの中の一部の部品を作るためにファブラボを利用する。プロジェクト全体の概要をファブラボに提供し、プロジェクトを文書化プラットフォームで記録し、その後プロジェクトがどう実装されるのか、どこで展示されるのか(あるいは課題終了後は廃棄されるのか)をトレースする必要があろうとも、これらについてファブラボスタッフだけで学生利用者に周知するのは難しい。最終学年の卒業製作プロジェクトや下級学年のミニ・プロジェクトで、学生を受益者と引き合わせ、交流させる取り組みをすでにはじめている教員も中にはいる。大学としては、プロジェクトが上位目標にどう貢献するか説明する説明責任措置として、そのような事例の把握に努める必要がある。

  3. CSTの学生の大半はすでにファブラボの利用者であるが、教職員向けオリエンテーション参加後、頻繁に利用するようになったCSTの教職員は少ない。これは、各教員が自らの研究よりも学生への教育をはるかに優先している中いたし方ないことだとは理解する。しかし、上記1-①と②のメカニズムを機能させるには、技術教育の遂行に携わる教職員の意識改革が必要である。この2つのメカニズムは、ファブラボの単独努力で簡単にインストールできるものではない。教員からは、学生利用者が課題提出期限ギリギリになるまで製作に取りかからず、特定期間にファブラボの機械の前で交通渋滞を引き起こすのは、学生が利用規則や手続を理解していないことが原因だと主張する。しかし、そのような学生の多くは、ファブラボ利用に関するオリエンテーションや機械操作のハンズオン研修を受けたことすらないことが多い。これを学生自身の落ち度だと片付けるのは簡単である。しかし、プロジェクト終了後のファブラボ側の作業負担を考えると、教員が学生に課題を与える際に、利用規則を守ること、機械操作のハンズオン・セッションを修了することを、学生に周知徹底するのは、意味あることかもしれない。

  4. CSTを超えたプロジェクトのインパクトのスケールアップに関しては、コミュニティベースのファブラボからの技術普及の経路としては、以下の5つが考えられる:
    ①地理的、分野・課題の拡大と、現在の対象地域でのサービスの深化: プンツォリン、チュカ県南部に限定されてきた活動を、チュカ北部やサムチ県に拡大すること。既存サービス対象地域への更なる浸透と、コミュニティ内のより多くのステークホルダーへのアウトリーチ;
    ②ファブラボCSTで生まれたグッドプラクティスの全国への展開:自助具技術の推進とSTEAMカリキュラムへの統合、pi-topコーディングと3Dプリントに関するユースセンターとの協力;
    ③ラボを利用した研究開発の深化:自助具技術など、CSTが比較優位性を持つ分野での活動の拡大;
    ④ブータンの国際公約とのアラインメント: ファブシティ・グローバル・イニシアティブへの貢献、プラスチック再加工機;
    ⑤ファブラボグローバルネットワークとの関係維持: 日本や南アジア地域のファブラボ、FAB23参加者との関係維持。JICAが過去に支援したファブラボとのネットワーク構築。FAB24(メキシコ)、FAB25(チェコ)、FAB26(ボストン)、FAN6(マレーシア、2024)、FAB7(オーストラリア、2026)などへの参加策の検討。

  5. 上記の5つのチャンネルのうち、①、③、④については、ファブラボCSTとCSTカレッジ全体でそろってプロジェクト実施後の説明責任を果たす必要がある。彼ら自身の単独能力、既存の制度的枠組み、あるいはファブラボCSTの収入によって行動を起こすことが求められる。設備や人材への新たな投資に財政的・技術的な外部資源が必要な場合、プロジェクト助成や研究助成の機会を積極的に探し、応募しなければならない。以下は、ファブラボとカレッジが取るべき行動である:
    ①ファブラボCSTとカレッジがより多くの利用者をカバーし、惹きつけることができるよう、メイカソンやその他のプロトタイピングイベント、技術技能研修などの成果を、さらに多くの観衆や地域のステークホルダーと共有するための地域フォーラムを開催すること;
    ③プロジェクト期間中に得た知識と経験に基づき、以下の方法で自助具技術を主流化する: (ア)コミュニティにおけるプロトタイプ自助具のさらなる実装、(イ)学生の卒業研究プロジェクトでの研究開発、(ウ)教員による研究開発、(エ)各学科のカリキュラムへの自助具技術の統合、(オ)ブータンの文脈における自助具技術に関する国家認定カリキュラムの開発。
    プラスチック、アルミ、木材、紙廃棄物の資源循環を、ラボレベルと大学キャンパスレベルでインストールし、それら廃棄物がそのドメインから流出し、周辺地域に環境圧力をかけないようにする。その取組み経験を、他のファブラボ、王立ブータン大学傘下の他のカレッジ、その周辺地域と共有する。

  6. 一方、ファブラボCSTやCSTカレッジが、全国にスケールアップできるグッドプラクティスを共有するのに積極的だったとしても、上記4のチャンネル②は、彼らの単独努力だけでは機能しない可能性がある。まずは自らのウェブメディアや他のウェブプラットフォームを通じてグッドプラクティスを掲載し、その存在感を示すべき。しかし、自らの情報発信にとどまらず知識共有の場を作るためには、第三者の責任ある行動も必要。ファブラボは単一のラボ施設だけではなく、ラボのネットワークのこともさす。ファブラボCSTとCSTカレッジだけでは、ファブラボブータンネットワークにおいて主導的な役割を果たすことはできない。ネットワーク会合はどのくらいの頻度で開催されるのか、会合は参加者が自分たちの懸念を共有し、集団行動に向けた建設的な議論を行うのに十分な時間が確保されているか、この会合のアレンジは、DHI/JNWSFLのリーダーシップと公共的行動にかかっている。また、ネットワーク会合の開催頻度をブータンへのプログラム円借款のインパ クトモニタリングのKPIの一つとするようブータン政府に要請したのJICA側であることから、グッドプラクティ スの共有と全国展開の促進において、JICAは極めて重要な役割を果たすべきである。JICAは、DHI/JNWSFLへの働きかけに加え、プロジェクト終了後も、首都における 公開セミナーを開催し、国政選挙後の新閣僚や選出議員、政策立案者に対して、プロジェクトの成果や今後の課題について打ち込む場を設けるよう検討すべき。また、JICAは、現在実施中あるいは将来実施予定のプロジェクトをフネットワークメンバーとつなげ、様々な分野課題におけるソリューションのプロトタイピングで協働が促進されるよう努めるべきである。

  7. ブータンにおけるファブラボネットワークの維持に加えて、ネットワークメンバーは、困難な時にそれらに秀でた他国のラボや個人のファバーに相談できるよう、ネットワーク維持に努めなければならない。ファブラボCSTとCSTカレッジは、既存のソーシャルメディアとウェブプラットフォームを活用し、情報発信に努めることでこれを行うことができる。支援技術に関しては、ファブラボCSTは2023年7月のファブブータンチャレンジで目覚ましい成果を上げ、"People's Choice Award "を受賞した。FAB24では、FAB23で製作されたプロトタイプのその後12ヶ月間での展開の模様やその他の関連活動の進捗状況を報告する義務を負っている。一般的に、開発途上国のファブラボは、グローバルネットワークとのつながりを維持するにしても、国外のファブイベントに直接参加する機会をつかむことが難しい。しかしながら、もしファブラボCSTがブータンにおけるユニークで活気のある場として世界の聴衆の注目を集め続けられるならば、世界中の関心のあるファブラボと個々のファバーは、ファブラボCSTとCSTカレッジが主催するオープンイノベーションイベントに自分の旅費で来て参加することを選ぶかもしれない。このような情報発信は、プロジェクトのカウンターパートが単独で始めることができる。


3.ブータン側への提言

  1. ファブラボCSTの長期的な事業の持続可能性:CSTは、ファブラボの運営体制を適宜見直し、人員配置と財務の面で持続可能なものにすべきである。ファブラボとテック・インキュベーションセンターの統合、運営業務の民間委託、スタッフ不在の時間帯における学生への運営委託、運営時間の見直しとネットによる機械予約の周知など、長期的な事業継続性を確保するための方策を検討すべき。助成金の事業提案作成や外部パートナーとの関係構築に関しては、教員が主導的役割を果たし、ファブラボを彼らの教育・研究プログラムに関与させるよう仕向けるべきである。

  2. 教職員の巻き込み:CSTは、ファブラボの利用を教員の業績指標に統合することを検討すべきである。ファブラボの利用は、教員主導で行われたオリエンテーションや機械操作研修の有無、教員がソリューションのデザインのために学生とニードノウアの交流を促進した事例の有無、ファブラボCST主催イベントへの教員の参加の有無で測定することができる。

  3. 設備投資と輸入消耗品の調達: 新しい機械や人材育成に必要な投資資金へのアクセスには限りがあるため、ただちに対応する必要はないかもしれないが、CSTは機械や輸入消耗品を迅速に調達する方法を早く見つけるべきである。これには、ファブラボブータンネットワークで長らく懸案となっていた共同調達に関する議論の加速も含まれる。この議論には、教育省やSTEAM教育の推進役を担っているユースセンターも関与すべきである。

  4. 情報発信: CSTとファブラボCSTは、ファブラボで開催するイベントの情報をウェブサイトやソーシャルメディアなどのウェブプラットフォームに迅速に掲載し続け、地域のステークホルダーや国内の他のファブラボ、世界中のファブラボや個人のファバーの注目を集め続けることが必要。

  5. ファブラボブータンネットワーク:ブータン王国政府は、JICAの円借款の受益者として、ネットワークの活動状況を監視し、ネットワーク会合がブータンのSTEAM教育と社会経済開発を促進する貴重なプラットフォームとなるよう担保すべきである。ネットワーク会合と「ファブフェスティバル」を毎年開催できるよう、開催経費への予算投入を検討すべきである。これは、政府が地元のファブラボの能力と懸念を理解するのに役立ち、JNWSFLがあまりにも多くのプログラムを実施することでかかるプレッシャーを軽減することができる。


4.事後評価に向けたモニタリング

このセクションは、JICA が実施するプロジェクト終了後のモニタリングの計画に関するものと理解している。今後、CSTとJICAブータン事務所との間で協議されることになるが、プロジェクト終了後JICAが行う事後現況モニタリングについて、プロジェクトからの提案をいくつか挙げておきたい:

  1. デジタルヘルスプロジェクト :ファブラボ技術協力プロジェクトは終了したが、今年はじまったデジタルヘルス技術協力プロジェクトでは、専門家チームが人体からバイタルデータを収集するウェアラブルデバイスのプロトタイピングについてCSTと協力する予定がある。デバイスの研究開発のために、このプロジェクトはファブラボを利用する。このプロジェクトの進捗モニタリングの一環として、JICAはファブラボプロジェクトの事後現況確認のために時折CSTを訪れることができる。これは、CSTとJICAが、大学とファブラボCSTが取るべき措置の実施状況について話し合う機会になるかもしれない。

  2. ファブラボブータンネットワーク会合: ブータンに対する円借款の資金提供者として、JICA はファブラボブータン ネットワークの推進について発言する権利がある。JICAはブータン政府に対し、参加者がグッドプラクティスを共有し、集団的行動に向けた共通課題を議論できるよう、ネットワーク会合が定期的に開催されるよう求めることができる。これはまた、JICAがCSTやファブラボCSTで行われる活動の状況をモニターする場ともなりうる。

  3. メキシコで開催されるFAB24 :ファブラボCSTは2023年7月のファブブータンチャレンジでPeople's Choice Awardを受賞したため、2024年8月にメキシコで開催される次回世界ファブラボ会議(FAB24)で進捗状況を報告する責任を負っている。JICAブータン事務所は、FAB24において、プロトタイプ自助具の実装や自助具技術の主流化に関する彼らの進捗状況のアップデートをフォローする責任を負うわけではないが、JICAは、FAB24でファブラボCSTが発表する内容をJICAメキシコ事務所を通じて聴取することができる。

  4. 日本のファブラボネットワークからの進捗状況聴取: コミュニティベースのファブラボを活用した開発協力の主な特徴のひとつは、ラボが相互に接続され、地域だけでなくグローバルなネットワークとして機能することである。これは、JICAを含む主要な開発パートナーによる開発協力の従来のツールとは大きく異なる。つまり、JICAがプロジェクト終了と同時にファブラボへの関与を失ったとしても、日本にはJICAが支援した途上国のファブラボとつながっているファブラボがあり、プロジェクト終了後の活動の進捗を見守ることができる。ファブラボCSTの場合、ファブラボ浜松とファブラボ品川は現在も関係性を維持している。JICAが過去に支援した他のファブラボも、つながりを維持している日本のファブラボ関係者は多く、彼らが各々のラボの現状をJICAよりもよく承知している。このような状況であれば、JICAがそれらのファブラボや日本のファブラボ関係者と会合を開き、すべてのファブラボの進捗状況を訊くという枠組みもあり得るだろう。しかし、これを実現する前提として、JICA本部のどの部署がネットワークハブとしての役割を果たすか明確にする必要がある。


寂しさを感じさせるプロジェクト最後の数日間

12月7日の報告会は、本当はもっと多くの利用者に聴いてもらいたかったのですが、CSTの期末試験が7日まで行われていて、早く終わった学生からとっとと帰省してしまったので、あまりいいタイミングでの開催ではありませんでした。しかも、成績評価会議は12月12日かららしいので、成績評価を付け終えた教員は、今はひと息ついているところで不在の人がかなり多く、かつラボ専属技師などのCST職員は、13日からはじまる王立ブータン大学傘下カレッジスポーツ対抗戦の会場設営に追われています(以下動画参照)。それ以前に、ラボ専属技師は教員の指示がないと動けません。

結果的に、報告会に来たのは7日まで残っていた学生ばかりで、教職員といったらプロマネとテンジン君、テックインキュベーションセンターのコーディネーターぐらいでした。まあ、そんな中でしたので、なかなかファブラボの持続可能性に関する学内検討をはじめなかったCSTのマネジメントには、相当厳しいことを申し上げました。

私のCST離任の日は12月11日と決まっていますが、再三その日程をお伝えしていたにも関わらず、学長のスリランカ出張からのお戻りは12日だそうです。プロマネのカルマケザン先生が明日送別会を開いて下さいますが、最後の最後までワークショップの開催やプロジェクトの経理処理などに追われ、ゆっくりプンツォリンを味わう時間がなくなってしまったのは残念です。

なお、11日から数日間、ティンプーで過ごす予定です。

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