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「この指とまれ」ミニプロジェクト試行

FAB23が終わってから1カ月間は、今までのファブラボCSTの活動を振り返り、何ができていて何がてきていないのかを整理し、さらに12月のプロジェクト協力期間終了までにできることと、どうしてもできないことを整理する期間だったと思っています。その整理結果一端は、『開設1周年を迎えたファブラボCST』の中で披露し、それにもとづいて、前回noteではpi-topブートキャンプを取り上げました。

でも、これらの記事の中では明確にしきれていない課題があります。それは、「利用者の持ち込み企画が低調」であることです。

8月は新入生オリエンテーションを全員に行うなど、ファブラボを知ってもらうことには相当なエネルギーを費やしました。でも、これって歩留まりが悪い。工科大学であるCSTにおいて、ファブラボCST開所から1年が経過しても、その間すでにCSTに在籍していた学生のうち、5割はファブラボに一度も来たこともない、関心のない学生です。

それでもこうして1年生全員をオリエンテーションでカバーする取組みを行ったので、ファブラボに来たことが「一度もない」と回答する学生の割合を引き下げることはできました。近隣のアルラ医学アカデミーなんか、ほぼ全学生をカバーしていると思われます。

しかし、これがもし、オリエンテーション以外でのファブラボ利用の有無を問う質問だったとしたらどうでしょうか。おそらく、「ある」と答える学生は相当数に上るでしょう。しかし、これに「どのような目的でファブラボを利用したか」という質問が加わった場合、「研修」と答える学生の割合が断トツに高く、「製作」と答える学生の割合は、まだ少ないでしょう。

CSTで1年間参与観察をしてきて、大学から「卒業研究」や「ミニプロジェクト」などの課題を課せられた場合や、外部のスポンサーがついて課題解決型プロトタイピングのコンペなどが開催される場合は、「製作」目的の学生がファブラボにやって来ます。メイカソンやアイデアソンなど、ファブラボCSTの主催イベントも、それなりに参加学生がいます。

こういう光景が見られるのは、イベント絡みか、学期末近くになってきた時に限られる

そして、その頃になると学生はファブラボに殺到します。1年間を振り返ってみて、ラッシュがすごかったのは、ファブラボ主催イベント開催時を除けば、4月中旬から6月上旬にかけて、大学側から課せられた課題提出期限や外部からの持ち込みオープンイノベーションイベントが集中した時期でした。

1日のサイクルで見ると、学生が講義に出ている午前中や、実習や個別指導に出ている午後3時頃までは、ファブラボは閑散としています。テンジン君や私によるほぼ貸切状態です。また、テンジン君自身も授業や実習を担当したりするので、午後は不在になる時間帯があります。

土曜日も、ユーザーズフォーラムとか、ワークショップとか、私たちファブラボ側が企画して何かイベントを仕掛けた時は学生は来てくれます。でも、イベントが終わるとサーッと学生はいなくなります。「入り浸る」という表現が当てはまるような、マニアックな利用者はまだ輩出できていません。

平日の日中に、大学構内の利用者を増やすというのは至難の業だと思いますが、平日夕方や土曜日の利用者来訪をもっと増やすにはどうしたらいいか、この1カ月悩みました。

悩んでいる間にも、プロジェクト終了は刻一刻と迫っており、それと反比例するように、終了時に向けて、やることがどんどん増えていきます。正直言うと、私自身も、あれやりたい、これやりたい、と思っていた個人プロジェクトで、着手できていないものがけっこう残っています。

こうして私が感じていた日々の問題点を2つ掛け合わせてみて、そこで思いついたのが、「この指とまれ」プロジェクトです。

その名の通りです。「オレ、これ作りたい」とアナウンスして仲間を募集するのです。1人でやることも可能だったのですが、あえてそれをオープンにして、できれば複数学科、複数学年の混成チームを作り、何か実装できるものを短期間で作り上げるというものです。ファブラボ憲章(Fab Charter)でも慫慂されている「一緒にやれ(Do It With Others)」ですよね。

そうすることで、土曜日に集まって作業しようといった空気も生まれます。各々が知っているスキルや知識を持ち寄り、教え合う、そんな中に技術移転の要素も入れて、上級生が下級生に知っていることを教え、下級生にはまずはプロジェクトの文書化に取り組んでもらう。

単なる《インストラクターから受講者へ》の一方通行的研修ではなく、ピア・ツー・ピアで相互学習が進むし、文章化も進められる。特別なオープンイノベーション・イベントを企画しなくても、プロトタイプの製作実績が作れて、ラボ内ですぐに展示もできる。そして、私の長~い「やることリスト」から、1項目を「済み」として消すことができる。

そこで選んだ最初の「指とま」は、「夜間点灯するLEDサインボード」でした。これなら、試験は暗いところで行う必要があるので、平日であったとしても夕方からの作業には向いていると思います。

LEDテープは日本で買って持って来ていました。スリットを覆う和紙は、ティンプーのジュンシ製紙工房で購入していたブータン産和紙のストックもがありました。いずれも「いつか使おう」と思って買いためてあったものですが、このままでは使わないうちに任期終了を迎えてしまう。

今回の指とまで、持っていたストックを使い切るというところまでは行けません。でも、プロジェクトを宣伝することで、「LEDテープ」や「和紙」のストックに光が当たればいいと思います。まだその種のストックがけっこう残っています。

初めての「指とま」募集は、8月31日(木)、ファブラボCSTのウェブサイトおよびFacebookページ上で行いました。応募締切は9月4日(月)夕方とし、機械操作をやったことがない子でも応募可能としました。

多数の応募が来ないかと期待しましたが、8月31日夜、計装制御工学科2年生N君から応募があり、それ以降パタッと途絶えました。N君のメールには、彼自身の他にも2人やりたいと言っている友人がいるとのことでした。

結局、締切までに関心表明があったのはN君だけでした。同じ学科の学生ばかりで集まったらあまり面白くないなと思っていましたが、背に腹は代えられません。9月6日(水)のキックオフミーティングに現れた3人の中には、土木工学科2年生A君も含まれていました。AutoCADを使える学生が1名、はんだ付けができる学生が1名、プログラムコードが書けるという学生が1名。まあいいチームかなと思いました。聞けば、彼らは学生寮のルームメイトなのだそうです。ただ、彼らは木工旋盤やレーザーカッターは使ったことがないとのことだったので、そこはファブラボの私たちがサポートしました。

【9月6日(水)夕方~キックオフ】
キックオフミーティングでは、手元にはどのような材料があるか、LEDテープや和紙の他に、アルミホイルやベニヤ板の在庫の有無などを確認し、私がどのような作品イメージを考えているのか、どのような場所で、どのような時間帯で使おうとしているのかなどを話し合いました。その上で、今後の作業日程を確認し、作品完成の目標時期を9月9日(土)と決めました。

【9月8日(金)夕方~POC】
2日後、彼らは過去に作ったベニヤ製の小箱を持って再びファブラボに集まりました。実寸大のの文字をカットしてみて、①和紙を通してもLED点灯文字はくっきり見えるのか、②LEDテープ上のLEDの間隔で発光時に光度のムラが出ないか、③何色が最もクリアに見えるのか、などを確認しました。箱の内側にはアルミホイルを一面に貼付、近距離で反射したLED光のムラは、これで制御できること、赤色が最もクリアで見やすいことなどを確認。

他のプロトタイピングコンペで使った小さな箱を使ってLEDの見え具合を確認してみる
やっぱり赤がいい

実際に設置候補場所に置いてみて、外からどう見えるかも確認しました。その上で、設置場所と設置方法を決め、それから採寸に取りかかりました。A君がデザイン担当するとのことだったので、ライトアップする文字やシンボルマークのデザイン方針を議論し、箱についてはMakerCaseのプラットフォームを使ったらどうかと、私はA君にアドバイスしました。

【9月9日(土)~本格製作】
翌日は、朝10時から作業がはじまりました。私は別の研修をホストしていたため、午前中の木工旋盤やレーザーカッター使用は、テンジン君が学生を指導して進められました。ベニヤ板カット後は、内側にアルミホイルを貼り付け。この作業が終わった時点で13時。昼食は私のおごりでした。

おそるおそる合板をカットしてみる
デザイン担当は土木工学科のA君
レーザー切断は彼らにとって初めての経験
組み立てる前に、合板の裏面をアルミホイルで覆う作業

14時からはじまった午後の作業は、LEDテープの内側への貼付でした。彼らが箱の寸法に合わせてLEDテープを切断しはじめたため、大丈夫なのかと思いましたが、はじめてしまった以上見守るしかありませんでした。その後、結局切断したLEDテープを銅線ではんだ付けしてつなぎ直す手間が発生しました。LEDテープをカットせず、何周回かにして内側の壁に貼り付けるだけでも、ある程度の効果は得られたでしょう。

はんだ付けはD君の担当作業

このはんだ付けで大幅に時間がかかってしまい、テスト点灯ができる状態になった時点で、18時を回っていました。暗闇の中でテストしましたが、照度は十分でした。

正面板の裏側のLEDテープのはんだ付けが未了だというので、作業は週明けに持ち越されることになりました。今のままでも十分だとは思いましたが、そこは彼らが納得いくまで仕上げさせてあげたいと思います。

なお、彼らがはんだ付けに没頭している間、私はボックスの裏面に貼付する、製作者名をレーザー刻印する銘板のデザインを済ませ、さらにZoom会議をホストしていました。

ほぼ出来上がったサインボックス

【9月12日(火)~仕上げと実装】
月曜日も少しはんだ付けの作業に来てくれた3人。結局月曜日は時間切れで十分作業ができず、翌日も来て仕上げの作業を行ってくれました。出来上がった作品のテスト点灯のビデオをご覧いただきましょう。

やったぜベイビー!

出来上がったサインボックスは、翌水曜日に日中2~3時間点灯させてみて、問題なくついていたので、木曜日から本格運用開始したいと考えています。色は何色かに変えることができますので、日替わりにしてみます。

全員が2年生であったこと、もともと3人が学生寮のルームメイトで、話し合って手を挙げたこと、文章化が未了であることなど、思っていたのとちょっと違う形となりました。彼ら3人と私たちとの役割分担を考えれば、文章化は私がやってもいいのかもしれません。

1回やってみてまあまあうまくいったので、今後も私の任期終了までに1つか2つ、「指とま」プロジェクトは試行してみたいと思います。

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