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【雑感】ブータン開発協力オンライン月例懇話会、第20回を迎える

2022年3月、首都ロックダウンの最中に私が勝手にはじめた「ブータン開発協力オンライン月例懇話会」も、今月で第20回を迎えました。私が道楽ではじめた企画ですし、続けてほしいとか継承したいとかいった声は今のところないので、私が12月に離任すると、たぶん自然消滅することになります。

そんな懇話会に、一度でもお越し下さった方はおよそ100人にのぼります。それぞれのテーマにご関心があったりなかったり、また話題提供をお願いした方の関係者やお友達だったりで、特定回しか出られなかったという方を含めてのこの人数です。決して大きな勉強会ではありません。それでもテーマに関わらず毎月出て下さった方もいて、大変心強く思っていました。この場を借りて御礼申し上げます。

そもそもこれを勝手にはじめた背景をお話しします。このアイデアを思いついた時、個人情報保護の観点から、当時ブータンにおられたJICAの関係者の方々全員のメアドは教えてもらえず、かつメーリングリストのようなものもありませんでした。そこで、当時のJICAの事務所の方に以下のような趣旨説明で、メール案内を転送して下さるようお願いしました。

 首都ではまたしてもロックダウンがはじまり、先の見通せない中、不安が募る毎日を過ごされていることとお見舞い申し上げます。
 前回のロックダウン中、関係者間の横のつながりも必要だと考え、Zoomで座談会や飲み会を企画させていただきました。ご参加下さった皆様、感謝申し上げます。
 さて、この先どうしようかと考えていたのですが、できれば月例のオンライン勉強会を開いて、過去のJICA事業の経緯だとか、現在実施中のJICAの事業とか、はたまた皆様のお一人ひとりのご活動についてのお話をうかがうとか、そういう機会を設けていけたらと思っています。
 事務所の業務分掌はスキームや分野課題別になっているため、ややもすると自分の近くで行われている別のJICAの事業を知らなかったりして、本当は連携できたら良かったのにできなかったとか、そういう事態が起こります。

「ブータン開発協力オンライン月例懇話会(第1回)のご案内」(2022年2月24日付)

最初のきっかけは、やはりロックダウンです。当時は宿舎での缶詰状態が1月中旬から続いていて、身動きがとれないのはとても大きなストレスとなっていました。ブータンは日本大使館がブータン国内にないため、大使館からの在留邦人に対する声かけなどはされていませんでしたし、私たちの派遣元も、時々事務連絡はいただきましたが、「大丈夫ですか?」というちょっとしたひと言も、いただく機会はありませんでした。(ひょっとしたら、協力隊員の方々に対しては、事務所の調整員の方が声かけをやっておられたかもしれません。)

この放ったらかし状態には相当不満があったのですが、ふと、「人に頼ってないで、まず自分から率先して何かはじめよう」とひらめく瞬間がありました。それで、勝手にオンラインで座談会をやったり、関係者飲み会をやったりしはじめたのでした。

でも、その先にずっとやりたいと思っていたことがありました。それは対面での懇親会を定期的に開き、それに関係者のどなたかのレクチャーを組み合わせることでした。

このような定期懇親会は私がJICAの仕事で初めて駐在したネパールでは1990年代後半、すでに行われていました。出席者から会費を集め、ホテルのスペースを借りて、講演会と懇親会を組み合わせるというたてつけで、四半期に1回ぐらいの頻度で開かれていたのです。

他の事務所員が担当している案件に属する技術協力専門家の方からお話をうかがうのは、担当者でもない私にとって勉強になったし、そうやって他の案件について学んで専門家のことも知っていたことにより、担当所員が出張や休暇で不在の時に副担当として一時的に案件担当を務めるような場合にも、スムーズに対応することができたと思います。

しかし、その後駐在したインドやブータンでは、このような定期懇親会はありませんでした。いや、まったくなかったわけではなく、忘年会や新年会といったものはありましたし、協力隊員の方々が赴帰任される際に隊員有志で企画される歓送迎会は、そういう交流の場として機能していたと思います。

また、ことブータンに関しては、専門家の方々が時々ティンプーで集まって情報交換をされていたというのを、かなりあとになってから知りました。当時は地方にも専門家がおられたので、定期的に集まることは難しかったのです。でも、この集まりはJICAの事務所とはまったくつながることもなく、インフォーマルに続けられていた専門家の集まりでした。

自分がJICAの技術協力専門家としてブータンに派遣される際、諸先輩方が細々とでもやっておられたインフォーマルな「専門家会」を、自分も開きたいと考えていました。実際、2021年5月の派遣開始以降、パンデミック中の安全対策措置としてプンツォリン入りを認められずティンプーでくすぶっていた間、JICAが専門家や協力隊員の派遣を再開して初期に派遣された関係者で時々集まり、情報交換を行っていました。ほぼ全員がティンプーかパロにいたので、集まりやすかったのです。

しかし、そうした定期的な対面「飲み会」もロックダウンに入るとできなくなりました。飲み会自体をオンラインに切り替えたりもしましたが、この際だから定例化して、自分の構想のもう1つのポイントだった、「勉強会」もはじめちゃおうと考えたのです。

それが、気づけばなんと20回にまで到達しました。11月にもう1回残していますが、以下が21回までの開催日とテーマの一覧です。

21回も続けたら、それだけでも大きな知識の蓄積になりますよね

はじめた当初は、コロナ後の協力隊員や専門家の派遣再開から1年足らずといった時期だったので、これからすぐに帰国されるという方は、JICAの事務所員以外にはいらっしゃいませんでした。そこで、初期のうちは、すでに終了した技術協力プロジェクトの関係者や、帰国されていた協力隊員の方に話題提供をお願いしました。さらにはこれからはじまるという草の根技術協力事業や科学技術協力(SATREPS)プロジェクトの方々に、デビューだと思って事業紹介をしていただく場を設けたりもしました。

お話しいただいた方の中には、日本在住の方も、ブータン東部在住でふだんとても対面ではお目にかかる機会のない方もいらっしゃいました。横のつながりが対面の場合よりも広くとれるとか、諸先輩方と現在派遣中の関係者の間での時間を越えたつながりとか、オンラインでやることでいろいろな可能性が見えた数カ月でした。また、私自身も2022年4月末からようやく任地入りを認められて生活拠点をプンツォリンに移したので、「ブータン開発協力オンライン月例懇話会」は、ティンプーやパロに在住の関係者の方とお目にかかることができる、貴重な場となっていたと思います。

さらには、JICA事務所の方にお願いして、個々の関係者の活動には直接関係しないけれど、活動をする上で知っておいた方がいい情報やスキルの習得の機会も作るようにしました。例えば、「全国総合開発計画2030策定プロジェクト」や「留学生支援プログラム」、「帰国研修員同窓会」、「五カ年計画」、「GNH全国調査」といったものです。

私のように地方在住の専門家は、ふつうに暮らしていれば留学生支援のことも訊かれるし、地域の住民などから「こんなことできない?」と訊かれて、実は大使館の草の根無償資金協力に申請したらどうかと思うようなことはよくあります。自分が派遣されているプロジェクトで成果を出すことはもちろんですが、それだけにとどまっていてはいけない、「開発協力の地域コーディネーター」なのだと常に思っていました。そうした問題意識を反映させ、JICAの事務所の方には、誰にとっても有益と思える話題をご提供いただきました。(大使館の草の根無償資金協力のご担当者には、この月例懇話会とは別の機会にお話しいただく機会をJICAの事務所が設けて下さいました。)

後半になってくると、離任される所員や専門家、協力隊員の方々がチラホラ出てきたので、総括活動報告とか、その中でも特定テーマを切り出して、その件でお話しいただくような機会も設けられるようになりました。パンデミック明けの派遣再開後ほぼ2年が経過し、離任されるという方はこれからもっと増えていく見込みですが、多くの方をカバーできなかったのはちょっと心残りです。

そして、各回とも発表部分だけは録画して、これを編集して映像アーカイブ化しました。あまり時間が経つと賞味期限が切れてしまいますが、特に、ブータンの保健医療や教育分野に関しては、それらを概観できるいい発表もあったので、これからブータンの開発協力に関わる可能性があるような方にとっても、有用な情報資産になることと思います。

ただ、これらのラインナップは結果論でしかありません。本当はこうしたかったという悔いは少しだけあります。

例えば、もう少し国際開発コンサルタントが実施を請け負った技術協力プロジェクトとか、実施促進業務を請け負った無償資金協力プロジェクトとかもカバーしたかったのですが、何しろコンサルタントがいつどの案件で来られているのか、知るすべがなかったので、これについてはまったくとっかかりを作ることができませんでした。(もっとも、コンサルタントにはこういう勉強会でしゃべってもらうことはJICAとの業務実施契約で明記などされていないので、頼んでも断られるか後回しにされる可能性はあるわけですが。)

私の方でJICAのHPを調べて、あのプロジェクトはそろそろ協力期間終了じゃないかと目星をつけ、それでJICAの事務所の方に紹介してもらうようお願いしたりして、なんとか1件実施にこぎ着けたというケースがありました。

もう1つの心残りは、後半の参加者数の低迷です。最初は物珍しさもあったのか20人台でスタートできましたが、後半はずっと15人弱が続き、一時は二桁もキープできないかもというところまでに至りました。これは、オンラインで定例会をやっている別の集まりでも見られた傾向で、パンデミックが終わったらオンラインよりも対面コミュニケーションが選好される状況はどこでも同じなのかもしれません。ただ、少ない参加者では発表を引き受けて下さった方々に本当に申し訳ない気持ちでした。

個人的な反省としては、司会進行役も務めていたのに自分でしゃべりすぎたことです。なんか、本当に自分で勝手にはじめて勝手に盛り上がっていた感じで、やってて空回り感があったことも否めません。後半の参加者数低迷の原因の1つは、私がしゃべりすぎたことにあるように思えてなりません。オンラインで勉強会をやっていると、フロアからの発言があまり活発ではないと感じることが多いです。その時の対処として、場をつなぐために司会者が自分で質問するのはいいとしても、自分が質問したあとに他の質問が出てきていないというケースもけっこうあって、その時の場つなぎの仕方でちょっと悩んだところもあります。

ともあれ、勝手にはじめた企画なので、自分がどう満足しようと、どう反省しようと、まあ自分の自由ということでお許し下さい。首都から車で4時間かかる遠方の1人任地で暮らしてきた私にとって、いちばん嬉しかったのはこういったつながりの機会でした。オンラインじゃないと絶対に会えないという人も大勢いらしたわけで、私個人にとっては貴重なつながりの場を自分で作って維持し続けたという点には達成感を感じています。

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