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3Dプリントミル「CR30」の操作探求

今から1年ちょっと前、3Dプリンタユーザーの間で話題になっていたのが、Creality社のリリースした新型3Dプリンタ「CR30」です。Z軸がベルトコンベアになっていて、高さ無限大の3D出力が可能だと言われています。

1.なにゆえブータンに?

日本に帰ったら、どこかで使わせてもらおうと楽しみにしていたところ、以前何かの記事でnoteで紹介した元ファブラボブータンのスタッフのケザン君から、「2台購入して1台は自分が使おうと思っているんだけど、もう1台について誰か買いたい人を知らないか」と訊かれ、3カ月ほど迷ったあげく、自分で購入することにしました。

当時、3Dプリント自助具の普及がなかなか進まないのはそもそも身近にプリンタがないからではないかとの迷いが自分の中にはあり、実際プリンタを置いてみたら彼らはちゃんと動かすのかどうか、一度見てみたいとの思いがありました。

そして、首都ティンプーのブータン脳卒中財団(以下、BSF)の事務所に置かせてもらい、ふだんは彼らにも自由に使ってもらい、私が上京して何か出力が必要になった際には、このCR30を使わせてもらうということで話をつけました。使用頻度が高ければ離任の時にはBSFに寄付、低ければティンプーからプンツォリンに移送して、ファブラボCSTで使うつもりでした。

納品は3月前半に行われ、同月下旬に上京した際に、BSF事務所で組立作業を行いました。操作説明もその場で行い、付属のフィラメントはできれば私の一時帰国中の2週間で使い切るよう、BSFの事務局長には伝えました。

4月中旬にブータンに戻った際、私はBSFに立ち寄り、彼らがどの程度使ってくれているか確認しました。いろいろ言い訳されましたが、結果としてはほとんど使われていませんでした。彼らが求めている3Dプリント自助具を出力するには、CR30はセッティングの仕方がちょっとトリッキーで、正直言ってこれまで3Dプリンタにさわったことがないような人にとってのエントリーモデルとはとてもいえません。

もうしばらく様子を見ることにして、さらに3カ月待ちましたが、やはり最初の付属品の小さなフィラメントを使い切れるほどの使用頻度ではありませんでした。結局、いきなり上級モデルではしんどいというのと、BSF自身も同じCreality社のEnder-3を導入する考えがあるようだったので、彼らの了解のもと、10月中旬にCR30をファブラボCSTに移送しました。

2.開梱時の初期状態

ケザン君から納品を受け、それを開梱、セットアップする作業は私自身で行いました。その時点でわかっていたのですが、開梱した時点で、X軸のアクセスリミットスイッチのネジが4本中1本しか梱包されていませんでした。言いたくはないですが、往々にしてパーツの数が足りないという事態は起こりえます。BSFに置いてある間はこの件での善後策は取ることができませんでしたが、さすがにCSTに移送した時点でレベリングをやろうとしてこの問題は看過できなくなり、直近で日本から来られる知人にネジを持ってきてもらうことにしました。(このネジはブータンでは入手できません。)

もう1つ、これも言いたくはないですが、開梱時に付属していたパーツや工具、マニュアル類を紛失されたのはショックでした。これ以上追及はしたくないので、その事実だけを記しておきます。

3.最大の難関はレベリングだった

ファブラボCSTに移送したあと、最初に行ったのはヒートベッドのレベリングでした。これは、前述の通り、X軸のアクセスリミットスイッチのネジが欠けている状況に起因するものです。Creality社はYouTubeでレベリングの仕方についてチュートリアルをあげてくれていますが、ノズルが45°の確度付きで据え付けられているので、紙を挟んだときにノズルの先端が引っかかるのか、ノズルの円錐形の底部の部分が引っかかるのかがよく見えませんでした。そのあたりの説明はサラッとしかされていなかったので、チュートリアル自体は大まかな参考にしかなりませんでした。

いつもPrusa MK3を使っていてオートキャリブレーションに慣れていると、マニュアルでレベリングを行う機種は最初戸惑うところがどうしてもあります。これを毎回使用する時にやるのかなと思うと、少し気持ちが引けます。

4.スライサーにもちょっと慣れない

Creality社のプリンタは、スライサーとしてCURAを使用することが多いと思います。初めてまともに人前で3Dプリンタを操作した際、私が利用した機種はCR10Sだったので、当然スライサーはCURAでした。直感的に操作できたのをよく覚えています。

CR30については、まだCURAでは機種登録ができないようなので、Creality社のウェブサイトでCreality Slicerをダウンロードし、これを使用するよう推奨されています。操作性はCURAとあまり変わらないような印象ですが、ここでもPrusa Slicerに慣れすぎていたので、いくつかのパラメータの変更で戸惑う場面がありました。

オーバーハングはあるけれど、サポート無しで印刷してみることにした

1つめはノズルの角度です。45°で決まっているのかと思っていたら、ノズル角度もパラメータ変更できるようになっています。スライサー上ではできるかもしれませんが、CR30はノズルの角度を変えられるのでしょうか。

2つめはスライスの厚さ(Print Setting)です。デフォルト(ノーマル)が0.2mmになっていて、それ以外の厚さは自分で決める必要があるようです。これもMK3との比較になってしまいますが、MK3の場合はデフォルトが0.3mmで、そこから0.05mmまでの間にいくつかのオプションをメニューから選ぶことができます。Creality Slicerの場合もマニュアルでいくつかのオプションを作ってしまえばいいだけの話ですが、後述する所要出力時間の関係で、気軽に試す気持ちになれずにいます。

3つめは、サポート材をつけるかつけないかの判断をどのように下したらいいのかがすぐにわからないという点です。CR30の大きなメリットは、オーバーハングがある印刷物をサポート材なしでもある程度出力できてしまう点にあると言われていますが、サポート材なしでも出力できるかどうかの判断では、慣れるまでに相当苦労しそうだなという気がしました。

4つめは、印刷所要時間の表示が相当不正確だという点です。スライサー上で「3時間」と表示されているからといって、実際に「3時間」で印刷終了できません。経験としては、スライサーの表示の約1.8倍の時間が実際にはかかっているように思いました。

スライサー状では「18時間」だったものが、実際は32時間かかっている

5つめは、コピー量産時の設定に関するものです。何ミリ間隔で何個複製するかは指定することが可能ですが、指定してもスライサー上の画面ではそれは表示されませんし、よってフィラメント使用量も自分で計算する必要があるようです。

5.出力開始時の留意事項

ノズルに45°の角度がついているので、出力開始後の最初の数層があまりきれいに出力できないというリスクがあるようにも感じました。気になる場合は、出力対象物の頭の部分に意図的に「バリ」をつけて、印刷終了後にそれを剥がすような工夫をする必要があるのかなと思います。

最初の数層の出力がイマイチな気がする

6.やはり無限Z軸は魅力、というか、あって助かった

ファブラボCSTには現在Prusa MK3が3台、UP mini ESが1台、そしてCR30があります。実はPrusa MK3の1台はサーミスタが不調で、現在修理に向けてスペアパーツの到着待ちの状況です。UPについては、エクストルーダーのギアが不調で、ちゃんとフィラメントをフィードしないという問題を抱えており、これも今の仕事がひと段落したら補修しようと思っていました。

そんな中、11月に突入し、CSTの電気工学科や建築学科で、3Dプリント出力が必要なミニプロジェクトが課題として出されたようで、今月に入った途端に学生の3Dプリント需要が急増しています。

使ってくれるのは嬉しいのですが、一時期にどっと需要が増えて3Dプリンタの前に行列ができ、利用者が「夜間もファブラボに居させてほしい」と要求しはじめ、スタッフが19時過ぎても帰宅できないという、今年5月に起こった状況がまた再現されるのか―――あの悪夢が脳裏をよぎりました。

でも、そんなタイミングでCR30を導入できたので、本当に助かりました。出力に時間がかかりすぎるので、ベストなフォーミュラを見つけ出すまでには紆余曲折もありそうですが、取りあえずスライサーに全部造形物を乗っけて、週末ずっと出力させるとか、そういう使い方ができそうです。

もちろん、無限Z軸で長いものでも出力できるとか、前述の通り、多少オーバーハングがあってもサポート材なしで出力できるとか、そういうメリットはCR30にはあります。

以上は取りあえずCR30を使いはじめてみての最初の感想です。もし新たな発見があったら、随時加筆していきたいと思います。

学生諸君も興味津々


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