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ユリシーズの戦略

ユリシーズの冒険譚の中にセイレーンの物語がある。

海中の岩礁に美しい魔物セイレーンがいて
魅惑の歌声で水夫をいざない、座礁、沈没させてしまうというもの。

だからこの海域にさしかかったら乗組員たちは全員耳にロウを詰めて
何も聞かずわき目もふらずひたすら早くここを通り抜けるべく
全力で船を漕がねばならない。
そこでユリシーズは船のマストに身体を縛り付けさせて
そこを通り過ぎるまでは自分が何を言っても従ってはならない
と乗組員たちに命じる。

さて、セイレーンの歌声を聴いたユリシーズはたちまちのうちに虜になって
今行くからねすぐ行くからね船をあっちへやれ縄をほどけこら放せー!!!
などと大いに騒ぐも、無事にそこを通り過ぎることができた、というお話。
一説には、縛られた人が騒いでいる間はセイレーンの声が聞こえている
ということで、危険を測るセンサーにしていたとか。
うーむ、ハザード回避のための正しいリスク管理というわけだ。

危険と「戦う」のではなく「回避」する戦略。
はみ出せないように「枠」を作っておく。
誰でも危険と戦えるわけがないし
危険を回避するための判断・行動を
その時になってすべての人ができるわけじゃない
そういう現実を踏まえた戦略だと思う。
ユリシーズは危険と戦ってみたいという気持ちとともに
負けたときの備えとしてマストに縛り付けてもらった。
これは完璧な、と感心したが
どちらかというと
センサーとして一人縛り付けておくという手段が秀逸だ。
ユリシーズは好奇心からセンサーやりまーす!
と手を挙げたのだな。

ちなみにセイレーンはサイレンの語源であって
「そこの車左に寄って止まりなさい止まりなさい止まれ止まれー」
「うわ、セイレーンだ、早く逃げろー!」

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