2013年のこと③

えずき感があらわれるようになったこの年の9月、この体調不良の原因もおそらく鬱からきているのだろうなとは思っていた。何となく元気がでないし目標をもって何か努力しようという気もわいてこない。6月に受けた資格試験に再挑戦しようという気にもならない。

加えていろんなことに対する興味がなくなってきて、それまでの前のめりに沢山のことを知ろうとか、興味のあったものをもっと深く掘り下げようとかいう探求心みたいなものもなくただただ仕事をしてそれ以外の時間はだらだら昔のお笑いの動画をiPadで見るという生活が続いた。何も生産的なことはしなかった。というかできなかった。

えずき感は強く出る日もあったが、だいたいは全くないか症状がでてもほんとにうすい感じの日がほとんどで仕事に支障をきたすほどではないし、食欲もあるしあまり気には留めていなかった。実際にえずいてしまうこともなかったから気楽に構えられていたんだと思う。

10月に入り翌年5月まで続く仕事に取り掛かり始めた。その仕事のリーダーというか取りまとめ役に選ばれ、以前までの自分ならやる気満々で頑張ろう!と思えていたのだろうけど、いかんせん気力の低下とえずき感で少し不安だった。これをやり遂げられのか?もし自分が倒れてしまったらどうするのか?とても弱気になっていた。

それでもそんな胸中を誰にも相談できず、その相談できなかったのは弱い自分に見られたくないとの思いからで、今考えるとそれは自分を守る行動としては間違っていたのだけれど。

仕事に取り掛かるにあたり、それに関与する人間がとても多いので、本社の方や取引先担当者との合同会議で顔合わせをし、とうとう始まってしまったわけである。顔合わせの時の挨拶もとてもしんどかったことを覚えている。ほんとにやり遂げられる自信がなかった。仕事そのもののプレッシャーが直接因となっているわけではなく、自分の身体の不調があるからで「これからこの人たちに迷惑をかけてしまうだろう」と気が重かった。

そして11月2日の土曜日。この日は忘れもしない。
休日出勤で会社にでていたのだけれど、直属の上司も仕事があって出勤されていた。差し入れということでブラックコーヒーを買ってきてくれた。
元々コーヒーは好きだけどブラックで飲むとえずき感にしばしば見舞われていたので、この時は少し不安だった。今のようなえずき感が出やすくなっている状態で、それを誘引させるものは体に取り入れたくなかった。
しかし隣に座る上司の手前飲まない訳にもいかないので、恐る恐るゆっくりと飲んだ。飲み干した。

数時間後からにわかににえずき感が出てきた。
やっぱりか、、と思った。
しかも今日のえずき感はこれまでのものとは違う。だんだんとそのえずき感はきつくなり、少しのどに力をいれると実際にえずいてしまいそうだった。

えずいてしまえば楽になるのにと簡単に捉えられる性分だったらよかったのだけれど、自分は“嘔吐恐怖症”を抱えている。吐くという行為に名状しがたい不安と恐怖を感じており、幼少の頃からそれとは最大限距離をとってきた。何故そんな神経質な不安を抱えるようになったかは全く分からない。しかしとにかく怖いのである。

そんな感じなので絶対にえずくまいと唾液や空気を飲みこんで、何とかえずき感を抑え込んで仕事は耐えた。
しかし楽になることはなく帰宅しても強いえずき感のために、食欲が全くない。ほとんど受け付けずそのまま眠前の薬を飲んで早めに寝た。

翌日から会社の宿泊研修だった。暦上では日曜祝日で二連休だったので正直ゆっくりしたかったが。
一晩寝て、前日の今にもえずきそうという感覚は和らいでいたが、少しまだ芯みたいなものがるように感じられる。

一日目の研修。研修中から少しずつえずき感が強まってくる。
そして研修会後の食事会。えずき感を抑えるために空気を飲みすぎてお腹の膨満感が苦しくて食欲がない。せめて酔ってえずき感が和らいだらと思うも飲んでも一向に改善せず、食事会終了後は早く休む。明日は研修もなくただ帰るだけ。何とか乗り切ったという安堵感とともに。

翌日。起きるとえずき感は昨晩と変わっていない。なので朝食のバイキングも食欲がなくてほとんど食べられない。
午前中の早いうちにホテルをチェックアウトし帰宅する。
帰宅しても症状は変わらずしんどい。
翌日から会社でいよいよ任された仕事が本格的にスタートするが、もう全くやりきる自信なく、ただこの原因不明のえずき感の苦しさが強まり、同時にひたすら怯えていた。

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