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【SS】願わくは2 穀雨

 もとは父親がふんぞり返っていた書斎から父親の本をほとんど追い出して、本棚を客間に移し、私の城を作っている。
 台所で使い物にならなくなった電化製品を納戸に運び出して、近所のホームセンターからキャンプ用品をくすねて調理台に置けば、食材の調達を考えれば食うにはほとんど困らない。
 困らないのだが、退屈は敵だ。一般家庭にしては上等なソファに身を沈めて本から目を離して窓を見れば、濡れそぼった芝生が雲の切れ間からの光で宝石のようにきらきらと輝いている。
 なにやってんだか、と喉まで出かけた希死念慮をすっかり冷めて水になった白湯で流し込んで、ナントカという上等なティーカップを眺める。
 世間体という宗教に身を包み、私を他者と比べては嘲笑する親の顔が浮かんだので、窓からティーカップを投げ捨てた。
 雨が上がったら、本屋と雑貨屋と図書館に行こう、本当になりたかった自分になりに行こう。可愛いもので身を固めよう、読みたかった本を好きなだけ読んで、誰に見せるでもない、私のための私になろう。


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