マガジンのカバー画像

ワンシーンだけ小説を

11
物語の描きたい場面だけを書く
運営しているクリエイター

#チラシの裏

お母さん、あのね。

お母さん、あのね。

まだ私がランドセルを背負うようになる前の話だ。
私の通っていた幼稚園では父兄によるお楽しみ会と呼ばれる行事が一年に数回あった。文字通り親たちが自分の子どもと楽しむための会で、歌を歌いながら踊ったり、大きな積み木を重ねたり、大人と子どもが入り混じって園庭でかけっこをしたり、その時々に合った内容を親子で楽しむといったものだった。
この時は大人たちが人形劇をするらしいということを前もって知らされていた。

もっとみる

リミッター

人に対して強い感情を抱くのは、途方もなく労力のいることだと思う。にもかかわらず彼女はいつも僕に対して主張してくるし、おかげで僕自身はいつでも都合のいいときにその体を味わうことができている。大学の友人たちは僕のことを羨むけれど、彼らは僕がどんなに傷ついているかなんて知らないのだ。彼女はとてつもない労力をかけて僕に治らない傷をつけようとしている。

「あなたが好きよ」
まつげにいくつも涙をちりばめなが

もっとみる

if

「歳下は趣味じゃない」
と自分が言ったのが聞こえた。目の前には先ほどまで無邪気な笑顔を浮かべていた君が、そのままでいるべきか泣くべきか迷ったあげく不自然な表情で固まってしまっている。数秒の間をおいて押し出されたのは、何の温度もない「そっか」という一言だった。健気なやつ、犬みたい。とんでもなく非道いことをした相手にこんなことを思いつくなんて、とうとう私もずるい大人になってしまったな。そうひとりごちな

もっとみる