ルビンの壺が割れた(著:宿野かほる)

『ルビンの壺』というものをご存じでしょうか。

ご無沙汰しております。本は読んでいるものの、感想というものを書く事からとんと離れておりました。

さて、話を戻しましょう。

『ルビンの壺』と言いますのはデンマークの心理学者であるエドガー・ルビンという方が考案されたひとつの絵と言いますか、多義図形の総称の事です。

この言葉には馴染みがなくとも、是非調べていただいてそこに出てきた絵図には「なんだ、これか。」と思われる方も多いかと思います。
簡単に説明しますと、二色に分かれた影絵のような模様となっており見え方がふた通り。一つはその名の通り中央に配された壺のようなもの。もう一つは左右の両端から向かい合う二人の横顔のようにも見えるというもの。

前置きが長くなってしまいました。
私が読んだ『ルビンの壺が割れた』には、結論から言えば壺もこの絵も出てきたりはしません。

簡単なあらすじとしては、ある男がSNSで偶然にも昔の恋人を見つけメッセージを送るのだが…という大変シンプルなものです。
その特性上、物語はいわゆる書簡形式で進んでいきます。
つまりメッセージの書き手が「書いたことだけ」が情報として読者に与えられる、というわけです。
この限定的な視点と情報というのがどうやらこの作品の少し厄介なポイントのようです。

先程、私は『この作品には壺も、絵も出てこない』と言いましたね。
それでも作中において「壺が割れる」その瞬間は確かにあったと私は思っています。
何を言っているんだ?と笑われるかもしれませんが。

いつ、どの場面でルビンの壺は割れたのか。
そしてそのバラバラに砕けた壺の中から、何が、どんな真実がまろび出るのか。
それは良ければ、あなたご自身で確かめてみてはいかがでしょうか。


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