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「○○が こえる/かえる話」のはなし

この記事は「みんなの北星 Advent Calendar 2023」に寄せたものです。

ご注意

今回は「こういうのがっ、好きっ、なんですよ!」っていう本とか映画とかのはなしを書こうと思います。内容の核心部やオチにはふれないようにしますが、テーマ的にネタバレっぽくなるのは避けようがないので、そのへんご注意ください。この後、この記事内でとりあげる作品の一覧を書きますが、リストとして並ぶことで各作品の方向性がうっすら透けて見える可能性もありますので、ネタバレ断固反対派の方はリストも見ないでこの記事を閉じていただければと思います。

記事のタイトルでも方向性についてのキーワードである「○○」のところは伏せておきました。作品リストを書いた後に、「○○」の中身を埋めたタイトルを改めて示そうと思います。


作品リストへ



記事の中で出てくる作品のリスト(内容にはまだ触れてません)

  • 村上春樹「かいつぶり」(小説)

  • 東野圭吾「悪意」(小説)

  • 江戸川乱歩「鏡地獄」「人間椅子」「人でなしの恋」(小説)

  • 清水義範「迷宮」(小説)

  • 景山五月「コワい話は≠くだけで。」(漫画)

  • 道満晴明「メランコリア」(漫画)

  • クリストファー・ノーラン「メメント」(映画)

  • Paul Fricker「dockside DOGS」(TRPG)

■以上の作品のネタバレっぽい内容を踏みたくないひとはここでストップ■






本題:「○○」の中身

ということで、ネタバレが嫌いな方のために少し長めにスペースを取ってきましたが、ここから本題です。

記事のタイトルで伏せていた「○○」の部分ですが「ことば」です。つまり、この記事のタイトルは「「ことばが こえる/かえる話」のはなし」です。

個人的な嗜好として、書くことや語ることをきっかけに世界の見え方やあり方が変わるような物語がめちゃくちゃ好きです。上記のリストに含めた以外にもいろいろとあると思うのですが、とりあえずここ数日で思い出せた分を挙げました。

以前、怪談が好きという話を書いたのですが、怪談にもそういう側面を感じます。話を聞いた後では、これまで何とも思っていなかったものに恐怖を感じて、存在が揺るがされるようにすら感じる。話の中身が「実話」であってもたとえそうでなくても、ことばを引き金に想像したものが世界を作り変えてしまうという分かりやすい例だと思います。

それぞれの作品について

ここから、それぞれの作品について触れて行こうと思います(上に示したリストと順番は違います)。物語の核心やオチにはできるだけ触れずに、構造と自分にグッとくるポイントだけでなんとかまとめられればと思ってます。


江戸川乱歩「鏡地獄」「人間椅子」「人でなしの恋」

「語ること」や「書くこと」を手掛かりにゾワゾワさせてくれるっていう点で乱歩は安定の面白さです。書き手/語り手が前面に出てくる話も多い。

「人間椅子」はいちばん「書き手」という存在が作品の中のカギになっている話です。作家の女性のところに分厚い原稿用紙の束が封書で届き、開いてみると「奥様」という呼びかけで始まる長い手紙のよう。読み進めると最後にはある告白がされて……という物語です。あまりにも有名な話なのでもうどういう内容か知っている人も多いと思います。

「鏡地獄」は「語り手」が出てきます。数人で怖い話や珍しい話を語り合っていた時に、友人の一人が「珍しい話をとおっしゃるのですか、それではこんな話はどうでしょう」と語り始め、その話が「異様に私の心をうったのである。話というのは…………」という形で始まる話。短い話なので、友人の話の中身が気になった人はご自分の目でどうぞ。

「「誰かが○○という話をする」ことについての話」というストーリーになっているので、物語が「入れ子構造」になってるのですが、「人間椅子」と「鏡地獄」は入れ子の組み立て方がちょっと違ってそこも面白いです。

「人間椅子」の場合、外側の物語にいる女性作家の視点から始まって、内側の物語を語る手紙の書き手の視点に降りて、最後はまた女性作家の視点に戻ってきて外側の物語で終わる形です。「鏡地獄」の場合は、友人の話を聞く「私」の視点(外側の物語にいる人物)から始まって、内側の物語を語る友人の視点で話が続き、そのまま外側の物語の視点に戻らずに終わります。

ちなみに、「人でなしの恋」は女性が自分の身の上を語る形で書かれてますが、身の上を語るときそこには「聞き手」が想定されるわけで、登場人物としては「聞き手」は出てきてないし、「外側の物語」も書かれていないけど、小説全体がずっと「内側の物語」として進んでるって感じですね。

思いのほか長くなってしまいましたが、私は別に文学の専門家ってわけじゃないのでただただ私的な理解の仕方です。私は「鏡地獄」が好きです。


東野圭吾「悪意」(小説)
清水義範「迷宮」(小説)

上のリストではわざと離して書きましたが、自分の中でこの2つの物語には相通じるところがあるなって思います。どこまで根幹に触れるか難しいのですが、ざっくりいうと「犯罪」と「記録」がテーマになっている作品ですね。

東野圭吾の「悪意」は、加賀恭一郎シリーズの1つで、殺人事件の容疑者の手記と、刑事である加賀の記録や独白が交互に並べられて物語が進んでいきます。何が書かれて、何が起こるのか、物語にどう影響していくのかが楽しいやつです。

清水義範の「迷宮」は、犯罪記録・週刊誌報道・手記・取材記録・手紙・供述調書と並べられて構成されています。書かれたものを順に読んでいくことで物語が進んでいく形ですね。清水さんは文体模倣を使ったコミカルな小説が多いですが(「国語入試問題必勝法」とか)、文体模倣を生かしつつこんな物語にも仕上げられるんだなというのがすごいやつです。

この2つはもう、四の五の言わずに読んでない人には読んでほしい……。


村上春樹「かいつぶり」
いろんな人にお勧めしたいやつのあとには、ただただ自分の嗜好にぶっ刺さってるやつを挙げます。ということで、村上春樹の短編「かいつぶり」(『カンガルー日和』所収)。

村上春樹を知らないってことはなかなかないと思うのですが、村上春樹の最初の方の短編はなかなかしっちゃかめっちゃかで夢の切り貼りみたいで愉快愉快です。中でも「かいつぶり」はもう楽しさしかない。「なんやねんこれ」って怒られそう。

仕事の面接にたどり着くために建物の中をさまよっている男、やっと部屋に着いたら覚えのない「合言葉」を求められて……、という話。あらすじ言っても魅力は伝わらないので、短い話だから読んで、読んでから怒ってください。

ここまでに挙げてきた作品群とは「ことば」が世界を変えたり超えたりすることの方向性ががらっと違います。語り手とか書くことの意味とかそういうんじゃないんよ。問答無用。


ここまでは小説だったんですが、以下は小説以外です。


景山五月「コワい話は≠くだけで。」(漫画)
今年(2023年)知った漫画で、あんまりおもしろいのでお勧めしたい気持ちが高まってます。「漫画家が自分を主役にして書いたエッセイ漫画」みたいなよくある雰囲気で始まり、主役の漫画家がいろいろな人に怪談の聞き取り取材をして「こんな話でした」という内容がエッセイ漫画の中に埋め込まれてるんだけど、取材を進めるうちに聞き取った話が結びついていって……という大筋です。「外側の物語=エッセイ風の部分」「内側の物語=聞き取った怪談・怪奇体験」という構成の効かせかたが良くって、エッセイ風の部分がそれっぽい画風なのも良いですね。

モキュメンタリー作品(ドキュメンタリー風のフィクション映像)と通じるところもあるなと思いますが、漫画でうまいこと表現できてるのが素敵。そういえば、今年はモキュメンタリー作品の話もしばしば目にした(耳にした)印象ですが、また流行の波がきてるんですかね。


クリストファー・ノーラン「メメント」(映画)
せっかくなので記録と世界の見え方に関する映画の話をと思って、映画に詳しくないのでこれしか出てきませんが、「メメント」です。

妻を殺された事件以降、ショックで10分しか記憶を保てなくなった男が、犯人を探し出すために、10分間で得られた限りの情報をポラロイド写真や自分の身体へのメモで記録に取り続けるというストーリー。映画自体は、10分間の男の行動を追いかけ終わったら、「その前の10分間」に男が何をしていたかを追いかけて、そのシーンが終わったらさらにその前の10分間の行動を追いかける……というシーンが時間を逆行していく構成で、男の手元に残っていた写真やメモの記録がどのような経緯で残されたものかが少しずつ明かされていくという、頭ごちゃごちゃになるやつです。

この映画では、「書き手」(記録を残す人)も「読み手」(記録を見る人)も同じ人物っていうのが特殊です。主人公は何を明らかにしていく(明らかにしてきた)んでしょうか、という話。


道満晴明「メランコリア」(漫画)
上下巻の短編連作集です。「書くこと・語ること」がメインテーマになる物語ではないんですが、短編連作という形態が好きなのと、最近追いかけている漫画家さんの作品なのでここに紛れ込ませときたいなと。

彗星の地球への衝突が迫っている終末世界を舞台にした、基本はテンポの良いコメディです。一話一話は別々の登場人物が出てくる独立した話ですが、世界設定は共通で、出てくるキーワードや物品もところどころリンクしています。

とにかくいろんな意味で「ループすること」がテーマになっているようで、時間がループして戻ったり、捕食するものとされるもののループがあったり、原因と結果がぐるぐるループして繋がってたり、軽いタッチだけど話の構造自体はかなり複雑だと思います(正直よくわからんところもいっぱいある)。その「ループ」の中に「書くものと書かれるもの」のループも入っているので、この記事のテーマに沿っていると言ってもよさそうです。

既に述べた通り短編連作集ですが、「書く」ことがメインテーマになっているのは上巻第3話、ホテルのメイドが部屋に缶詰めにされて小説を書く話です。彼女の小説についての話題は連作のあちこちで他の登場人物によって話題にされているので、「書く人」が「他の人によって語られる対象」にもなっている感じですね。



Paul Fricker「dockside DOGS」(TRPG)
ここ数年、配信などでTRPG(Table-talk Role Playng Game) をよく見ているので、最後に取り上げておきたいと思います。体験型ゲームという性質上かなりネタバレに厳しい界隈のようなので、内容には入らずに済ませようと思います(今回の記事で長々と前置きを書いた一因)。

元シナリオは英語で書かれたもので、草の根的にファンの人が日本語に訳したものを生配信でプレイしている方がおられます。最近見たものの中ではトップレベルに自分の嗜好に刺さる構成だったので、これを紹介したいがためにこの記事を書いたと言えるかもしれません。いろいろなプレイヤーの配信のアーカイブをラジオ的に何度も聞き返し(見返し)てます。

プレイヤーが演じるキャラクターたちは、怪盗団のメンバーとして別々に仕事を済ませ、波止場にある古い倉庫で落ち合う。ボスのところへ運んでくれる船がくるまで、各々の成果を見せ合おうとするが……という導入です。

これ以上は触れづらいのですが、この記事のテーマやここまで上げた作品の雰囲気が好き、気になるという方は、こちらの作品もプレイするなりYouTube等で見てみるなりをお勧めしたい……!(私は見る専です)


しめくくり

ということで、自分はこんな物語が好きだ!という、特に効能とか啓発とかのない「好きモノ語り」でした。さくっと書くつもりだったのに妙に盛り上がって長くなっちゃいましたが、雪に降り込められたりしがちなこの時期、時間を持て余した誰かが思い出してくれたら、あわよくば一人くらいどれか読んでくれる or 観てくれるなんてことがあればうれしいです。

付け足すなら

記事を公開する直前に、これも書きたかったな、関係あるかもな、っていう本を思い出したので、自分の備忘録的にここにリンクを貼っておきます。


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