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詩誌「三」67号掲載【絵】飯塚祐司

一人の画家が海の絵を描いていた
肌寒い岬に座りキャンバスを立てて
春の太陽が今まさに顔を出そうとする瞬間
手前は緑の絵の具が塗られ
奥に行くほど色は深く濃い藍色になっていく
海面に映る朝の光は太い輪郭の飛沫に砕け
朱色が花びらのように散らされた
空は透明感のある薄い黄色
荒々しく力強い刷毛の跡が
海風の音を紙の上に刻み付けた
そこに
画家は一艘の船を加えた
眼前の海には船などどこにもなかったが
画面の右下
どこかへ向かう途中なのか
それともどこかへ帰る途中なのか
影を背負うように浮かぶ小さな船だった

2022年9月 三67号 飯塚祐司 作

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