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アフリカでNo.1のSaaSを目指すSENRI

サムライインキュベートの起業家へのインタビューシリーズ、第7回は、営業/販促活動効率化プラットフォームを運営するSENRIの創業者、永井健太郎氏のインタビューをお届けします。

SENRIは、アフリカの製造業・卸売業の受発注管理・顧客管理・営業活動の支援を行うクラウドベースのサービスを提供しています。アフリカでは、未だ伝統的な小売店(KIOSKなど)を通しての流通が主流となりますが、小売店のオーナーの多くはITスキルが高くないため、消費財メーカー各社は人員を割いて流通管理・営業活動を行っており、結果として流通網の拡大が困難となっています。SENRIは、このような企業がより効率的に流通網を構築・拡大するためのサービスです。

そんな永井氏が、どのような経緯で会社を設立したのか、また、永井氏自身や会社について、今後どのように考えているのかを伺いました。

(第6回インタビュー: 融資プラットフォームを構築するナイジェリアのEvolve Creditはこちら⬇︎)

1. アフリカでの起業に至った理由

新卒でJICA(国際協力機構)に入社し、主にアフリカ市場でインフラ関連のプロジェクトに4年間ほど従事していたのですが、その中で、人々の衣食住にかかわる社会インフラの重要性を改めて認識することが多々ありました。新興国の成長において、学校などの教育機関は国が作らなければなりませんが、民間から社会インフラを上手く利用しない限り、経済成長に結び付かないと感じました。アフリカ諸国が成長するために、企業が成長することはとても重要なことだろうと思い、そこに何らかのアクションを起こしたいと思ったことが、起業のきっかけです。

事業の起案に関しては、前職(コンサル)時代に休みを取ってウガンダを訪れ、現地企業とコミュニケーションを交わし、事業検証を進めながら考えていきました。ウガンダで今のSENRIが持つ課題にたどり着きはしたのですが、市場規模の面で頭打ちを感じ、1年が経過する前にケニアへ拠点を変えたところ、事業がうまく伸びました。元々日本で起業することは考えておらず、最初からアフリカで勝負をすると決めていました。

また、事業検証も兼ねて、去年からインドネシアでの事業拡大を進めています。アフリカと東南アジアにおける営業や流通の課題は、細かな違いはあれど、共通している部分が多いと感じています。同じような課題解決を東南アジアでもできた方が、事業としての成長のスピードは速くなるはずだと考え、インドネシアにも進出しました。

SENRIの永井健太郎氏

2. SENRI(営業/販促活動効率化サービス)事業展開のきっかけ

ウガンダで様々な製造業の企業とミーティングをする中で、課題抽出のためのワークショップを行う機会がありました。その中で優先順位について意見を出し合ったところ、最終的に、みんなが口を揃えて「営業が問題です」と言っていたのですが、自身のコンサル時代の経験では、メーカーが「営業が一番大きな課題だ」というケースは殆どなかったので、なぜ営業が問題なのか、背景をよく理解が出来ませんでした。

より詳しく状況を知りたいと思い、現地の企業の営業に同行し、実際の営業活動を見に行きました。そこでは、営業担当者がボロボロの紙に一生懸命、「今日はこの店舗に行って、こういうことをやりました」というレポートを書いていました。これは無駄でしかないし、なぜそこに課題があるのかも見えてきたので、もう少し深堀りしてみようということから、今のサービスにつながりました。

現地の小売店(KIOSK)側のIT化を図るのではなく、サプライサイド(消費財メーカー)側に向けたサービスに決めた理由は、SENRIのサービスを立ち上げるタイミングで行った調査が元になりました。メンバーと共にウガンダの2都市とケニアの3都市でキオスクを100店舗ほど調査に回り、売上規模や従業員の性質、サービスに対しての需要度などを徹底的に調査しました。もちろんキオスクには多くの課題があったのですが、多くのキオスクが1店舗あたりの売上が小さく、そこで働く人たちのITスキルも高くはないことから、今ではないと考えました。それよりも、組織として努力して事業を伸ばしていく姿勢が強く、かつ小売店に対して影響力が持てるような消費財メーカーや卸売業者にフォーカスし、流通のIT化を進めていく方が、将来的にサプライチェーン全体にインパクトを与えることが出来ると考え、今のサービスに辿り着きました。

3. SENRIユーザーの生の声

基本的に営業マンは自分たちの行動が細かく管理されるのは好きではないので、確かにSENRIを使いたくない人は多いです。しかし、自身の努力が正当に評価されることに喜びを感じ、ズルをしている人たちと同じ扱いを受けるのは不当だと思っている人も実は存在しています。

ポジティブな意見として、業務報告が簡単になったことや上司とのコミュニケーションが取りやすくなったこと、商品の値段改定などの情報がより入りやすくなったこと、など様々なベネフィットが受けられるようになったことに好感を持ってくれているユーザーはかなりいます。初期段階でしっかりとサービスのメリットを理解してもらい、サービス導入のハードルをまず1度超えることが大事で、ここにはしっかりとリソースをかけています。SENRIのカスタマーサポートのチームも現地に行き営業マンへトレーニングを行い、その後、毎日のように営業さんに電話をかけ、「ちゃんと使ってますか?」という確認を行い、1カ月以内の定着を促しています。

SENRI サービスイメージ

4. 外国人起業家としてアフリカで事業をすることの難しさ

SENRIは現在、アフリカ・アジアの計9ヵ国の顧客が利用しています。複数国で事業展開する中で、メンバーに対してこちらが意図することが上手く伝わらないケースが多々あり、心の底から共感してくれる状況に持っていくのは、やはり外国人であるが故に何層にもギャップがあります。また、トップダウンで物事を押し付けるやり方はうまくいかないので、チーム内しっかりと議論して、「これが重要だ」と思ってくれる状態まで持っていくか、もしくは逆にチームがこういうことをやったほうがいいという提案をしてくれる状態にもっていかないといけません。目標に向かって一緒に走っていく目線合わせと納得感を得るプロセスは、日本より遥かに難しいと思います。

また、目指すべきロールモデルが少ないという点も新興国ならではかもしれません。例えば、現在私たちは、ナイジェリアで従業員の増加に伴い、営業チームのプロセスをより細かく管理していく方向に動いています。しかし、BtoBの営業組織で社員数が30人以上在籍しているような組織で働いたことがある人は社内にいませんし、そもそもナイジェリアにそのような組織はほとんど存在しません。日本だと、「リクルートでこれをやっているから、うちもやったほうがいいのでは?」と言うと、「確かにそうかもね」となりますが、指標となるようなロールモデルやリーディングカンパニーが存在しないために、「こういうことをやろう」という提案に対して、何を言ってるのかがよく分からないという状況になるのです。

現在取り組んでいるのは、会社の方向性とビジョンを繰り返し説明して、チームで同じ目標を目指すことができるチーム作りです。これはアフリカだからというより、SENRIのチームマネジメントとして、改善していかなければならないと感じています。

5. 異文化環境でのチームビルディングをする上で意識していること

最も重要なのは思い込みを排除することです。「この人たちはこういう風に考えるんでしょ」という思い込みを極力排除したいと考えています。各国のチームメンバーが私のインプットを想定外の受け取り方をすることもまだまだ多いので、指示を出すというよりは私の思考プロセスを共有しながら、チームでじっくり考えてもらう時間を取るように努めています。

そのような日々のやりとりに加えて、カルチャー作りとしては、日本の企業文化でも現地のカルチャーでもない、それらが融合された価値をSENRIとしていかに作っていくか、を考えています。その一環として、チームで作った「コード・オブ・コンダクト (行動規範)」の浸透に努めています。具体的には、顧客第一主義であること、みんながフラットに意見を言い合える環境を作ること、日々成長するための努力することの3つで、これらを日々のコミュニケーションの中でいかに浸透させるかが重要だと考えています。

国民性や考え方、意思決定のプロセスは国によってかなり違いますし、国の中でも民族ごとに思考のパターンがかなり違うのですが、なるべく全ての意思決定を現地のチームだけに委ねて自立した組織を目指すべく、この違いをどのようにうまく組み合わせていくか、試行錯誤しながらパズルをはめていく作業です。

6. 起業を通じて最もやりがいを感じる瞬間

一番働いていて良かったと思う瞬間は、アフリカのチームメンバーから事業を伸ばすための予想外な提案をされた時です。それはチームが一丸となって売上を上げて企業を成長させていくという同じ目線に立ち、日々様々なことを一生懸命考えている証拠だからです。私が考えもしなかった提案が来ると、その国の人たちのポテンシャルや能力の高さに刺激を受けます。

また、SENRIの顧客が具体的な売上の成長軌跡を共有してくれたり、サービスを使うことのポジティブな波及効果、営業マンを更に雇う意思決定に繋がったと報告してくれるのもとても嬉しいです。顧客にしてもSENRIのメンバーにしても、私が想像していないことを提案してくれるという事は、私たちが起爆剤となって一つの進化が起こっているので、それが面白いです。

時には、私たちが作ったSENRIの機能が全く想定してない形で顧客に使われていることがあり、とても見ていて面白いし、その国や企業の成長を思わぬ方向でサポートできていることは大きなやりがいです。

7. 起業家としてのマインド:多国間事業展開をする上で重要な事

ひとつは、考えても仕方がないことに関して強制的に思考をリセットするようにしています。夜に「こうすれば良かったな」とか「あいつ大丈夫かな」みたいなことを考えたところで、翌朝になっても何の解決策にもならないので、いかに思考をリセットするかが大事です。

あとはとにかく体力をつけて、疲れてうまく立ち回れない状況を作らないことです。アフリカでの事業は体力勝負だと思うので、出来る限り運動量を増やして、食生活に気をつけ体調を崩さないようにすることが重要です。

何かつらいことがあった時に踏ん張りきれるかがアフリカでやっていけるかの分かれ目になると思います。その為に出来る事は限られていて、体力をつけることは単純な話ですが、かなり大事だと思っています。そういった部分はとても原始的ですね。

8. 今後の展望

アフリカでナンバーワンの、最初に成功したSaaSを作ろう!と日々チームを鼓舞しています。アフリカではSaaSで数十億円規模のARRを実現している会社はほぼありません。事業の成長を通して、アフリカやアジアの流通の効率化に貢献する組織を目指していきたいと考えています。

SENRIは、消費財メーカーの仕事を容易にする為のサービスですが、流通にまつわるあらゆる課題を解決する上で、現状SENRIのサービスだけで対応出来ているのは、恐らく全体の中で1割、2割程度です。SENRIとしてより深く流通全体の課題解決に関与できる状態になっていきたいし、そこからインパクトが出せるような状態になることを目指しています。


<編集後記>

最後まで読んでいただきありがとうございました!
日本・ナイジェリア・ケニア・インドネシアに拠点を持つSENRIだからこそ見えてくるチームビルディングの難しさ、自立した組織の作り方などは、今後他国展開を検討している弊社の投資先にもぜひ知見を共有していきたいと思います!