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涙のROCK断捨離 68.MANIC_STREET_ PREACHERS「KNOW YOUR ENEMY」

マニック・ストリート・プリーチャーズ「ノウ・ユア・エネミー」/MANIC STREET  PREACHERS「KNOW YOUR ENEMY」
2001年

初期2枚のアルバムのアート・ワークはとてもセンスを感じて気に入っていたものの、実はデビュー時点ではあまり聴いていませんでした。
デビューした時の尖がった言動や、ギタリストが失踪した後にソフトなイメージになって商業的に成功したという程度の情報は耳に入りましたが、単純に、この頃(90年代)の優先順位の上位は他のアーティストが占めていたからなのでしょう。
避けていたわけでは無いので、2001年にこのアルバムが出た時に、「聴いとかないとな」という感じで手に取ったわけです。

ただ、このアルバムで初めてちゃんと聴くマニック・ストリート・プリーチャーズに、その当時の私は消化不良をおこしてしまいました。
どんなバンドなのか、受け止められなかったのです。
激しいノイズ・ロックあり、センチメンタルなスローナンバーあり、ポップな曲やディスコっぽいものまであります。
なんだか方向性の定まらないバンドだと感じても、仕方がないと思えました。

ところが今回、改めて聴き直して、以前の印象とは少し違うものを感じました。
他のアルバムも聴いて、彼らの全体像や歴史を振り返ったときに、はじめてこのアルバムの立ち位置が見えた気がしたわけです。

もともと彼らは、音楽的なバリエーションも美的センスもある、実力派バンドでした。
初期は、後に心を病んで失踪してしまうギタリストのリッチー・エドワーズによる貢献が大きく、音の面では彼のギターを大きくフューチャーしたものになっています。
そして、パンクっぽさ全開の初期のアルバムでも、キラリと光るポップ・センスは垣間見ることができます。
この段階で、かなりイケテるバンドです。

その後、サウンドの要でもあったギターを失って制作された「エブリシング・マスト・ゴー」「ディス・イズ・マイ・トゥルース・テル・ミー・ユアーズ」が皮肉なことに商業的な成功をもたらし、そこから少し間をあけて発表されたのが、この「ノウ・ユア・エネミー」なわけです。

サイケデリックな魅力でデビューしたピンク・フロイドは、バンドの柱であったギタリストのシド・バレットを精神疾患によって失った後に制作した「狂気」で大成功します。そしてその後、揺り戻しのように内省的なアルバム「炎」を作りました。
シアトリカルな魅力でデビューしたジェネシスは、その肥大化する世界観の中で「幻惑のブロード・ウェイ」という傑作を作り上げます。アルバム制作時点で崩壊していたバンドからリーダーのピーター・ガブリエルが脱退し、残ったメンバーは、その後、自己探求するような「トリック・オブ・ザ・テイル」「静寂の嵐」「そして三人が残った」を作ります。

改めて「ノウ・ユア・エネミー」を聴いて、これはピンク・フロイドの「炎」であり、ジェネシスの「そして三人が残った」なのではないか、と思ったのです。
これらのアルバムは、バンドの経緯みたいなものを知ったうえで聴くのと、全く知らないで聴くのでは、趣が異なるように思うのです。
これは、アルバム自体の良し悪しとは別の話しで、聴く側の持つ情報や思いによって、受け取り方には影響があるに違いない、という検証しようがない仮説です。

なので、「ノウ・ユア・エネミー」には、過去から今までの全部、荒々しいギター・ロックも、親しみやすいポップ・ソングもセンチメンタルなスロー・ナンバーも全てが詰め込まれて、その中で自己確認をしている過程なのではないかと思えるのです。

アルバムとしての完成度は高くないと思えます。
でも、ピンク・フロイドの「炎」も、ジェネシスの「静寂の嵐」も大好きな私としては、この「ノウ・ユア・エネミー」も決して低評価ではありません。

いろいろな顔を見せてくれるバンドなだけに、ファンの求めるものも多様だと思います。
でも、このアルバム以降は、そんなことは吹っ切って、新しいマニック・ストリート・プリーチャーズとして再出発すれば良いのです。
そして、実際に彼らはそうします。

デビュー時に成功したバンドでは珍しいケースなのですが、私自身は、再出発後(つまり、このアルバムの後)の成熟したマニック・ストリート・プリーチャーズが好きなのです。

なんだかはぐらかしたような感じですが、要するに、初めての人は別なのを聴いた方がいいということです。


Spotifyでも聴けます。


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Photo by Hugo Jehanne on Unsplash