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涙のROCK断捨離 111.METALLICA「METALLICA」

メタリカ「メタリカ(通称:ブラック・アルバム)」/METALLICA「METALLICA」
1991年

私としては、メタリカの中でベストであり、ハードロックが到達した最高のアルバムの一枚だと思っています。

ただ、スラッシュ・メタルの信奉者は、困惑したかもしれません。

1曲目の冒頭からクリーンなアルペジオが流れた時は、これはメタリカなのか?と思ってしまいます。
重く、シリアスにサウンドはうねり始めますが、スピードは上がりません。
曲の構成は分かりやすく、一緒に歌えそうなほどキャッチ―です。
中間部ではギターソロまであって、盛り上げまで見事に演出されています。
素晴らしい曲ですが、これまでのハードロックとは異なるスラッシュの早さや様式をこそ好んでいたファンにとっては、「これでは凡百のロックバンドと変わらないではないか」と、怒りの感情が湧いてきたかもしれません。

2曲目は、さらにテンポを落とした重量級の曲。
ヘッド・バンキングではなく、もっと低い重心で身体が動かされます。
曲の途中でミュートして、そこからドンと音が鳴らされる展開など、聴かせどころもあり、非常に魅力的な曲です。
それでもファンとしては、「遅いうえにエモな展開は不要だ」と、落胆したかもしれません。

3曲目で、いつものスピード感ある曲が始まって、ファンは「これだよ」と思ったかもしれません。
ただ、中盤以降、ギターソロなどの展開を聴きながら、「なんか違う」とも感じたかもしれません。
疾走感よりも楽曲としての構成を重視したような作りが、違和感の要因だったのでしょう。

そして、スラッシュ・メタルのファンのストレスは、4曲目で爆発します。
なんと、スロー・バラード。
ギターは抒情的なアルペジオとソロを奏で、ヴォーカルは抑制を効かせてしっとりと歌い上げます。

この後も、スラッシュ・メタルの約束事(?)に縛られることなく、ヘヴィ―でグルーヴィーなミドル・テンポの曲(スロー・バラードも)が続き、
全12曲、約1時間の演奏で幕を閉じます。

どの曲も完成度が高く、一緒に歌えそうです。
演奏するなら、このアルバムの曲の方が以前のアルバムの曲よりも楽しいかもしれません。

スラッシュ・メタルの魅力である速さと攻撃性は、その魅力を際立たせるために、メロディの高低差が失われ、叫ぶような歌になったり、16分音符、32分音符などの連なりは、単調な展開に感じられたりすることがあったと思います。
もちろん、それが魅力なのですから、そのスタイルが悪いわけではありません。
ただ、私のようなオヤジには、どれも似た曲に思えてしまうということも否めないのです。

バラードが入って日和ったと感じるファンがいるかもしれませんが、これまでとの音楽性の違いはアルバム全体に言えることなので、バラード云々だけの話しではありません。
エモーショナルなアプローチとしては、前作でも「...And Justice for All」や「One」「To Live is to Die」のような曲はありました。

この「通称:ブラック・アルバム」と、これまでのアルバムとの違いは、疾走感が失われた代わりにメロディが魅力的になり、楽曲の構成に変化が生じ、個性的で完成度の高い曲が集まったことです。
重さを増した演奏はもちろん、ヴォーカルの魅力は、これまでのアルバムを大きく凌いでいるように思えます。
身体が動き出すようなノリに関しても、速さよりもグルーヴ感が大切だと再認識させられます。
これらによって、アルバム全体を最後まで集中力を切らすことなく聴くことができるのです。

これまでメタリカのファンというほどではなかった私には、これがバンドにとっての進化だったのか、退化だったのかは分かりません。
ただ、私はこのアルバムが気に入りました。

アルバムのアートワークが示すような漆黒で巨大な重力を持つサウンドは、近づいてしまったら最後、何もかもを引き寄せて抜け出すことができなくなるブラックホールのようです。
ロック史に残る名盤だと思うのですが、ほめ過ぎでしょうか?



Spotifyでも聴けます。



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Photo by Kevin Bosc on Unsplash