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涙のROCK断捨離 106.MORRISSEY「SOUTHPAW GRAMMAR」

モリッシー「サウスポー・グラマー」/MORRISSEY「SOUTHPAW GRAMMAR」1995年

ソロ活動も7年経ち、レコード会社を移籍して発表された5作目。
ザ・スミスの活動期間が約5年ほどで、残したオリジナル・アルバムが4枚なのに対して、ソロのキャリアの方が長く、アルバムもコンスタントに発表し続けているのを意外に感じてしまう自分がいます。
というのもやはり、「ザ・スミスモリッシー」という印象が強く残っているからでしょう。

労働者階級の若者の体制に対する不満を詩に乗せて歌うというのは、その音楽スタイルが変わっても、イギリスでは常にムーブメントを起こすポイントだと言えます。
怒りの感情を爆発させるのか、シニカルに諧謔精神を表すのか、バンドの性格や音楽トレンドによって傾向の変化はありますが、この時代のイギリスのバンドにとって音楽と歌詞は密接な関係にありました。
歌詞の面では、「さあ、この広い大空へ飛び立とう!」などと能天気なことを歌にしている気楽さはありません。
音楽的にも、伝えたい言葉がある時には、プログレやグラム・ロックのようなスタイルよりも、シンプルでストレートな形の方がマッチしていたのでしょう。
80年代以降のブリティッシュ・ロックが装飾性を排していったのは、それだけ若い世代にとって状況的な厳しさがあったと考えることができそうです。

この時代のイギリスのリスナーにとって、歌詞はサウンド以上に重要だった面があるかもしれません。歌の力で一躍スターとなったモリッシーは、こうした中にあって、まさに特別なアーティストでした。

白状してしまえば、私の英語力やイギリス文化の知識では、モリッシーの本当の魅力を理解することはできていないでしょう。
ですから、音楽的にはザ・スミスの頃が良かったなーと思ってしまうところがあることを否定できません。

しかし、このアルバムは意欲作でした。
全8曲、50分弱の作品ですが、冒頭とラストに10分を超える曲を置いて、アルバムとしてのシリアスさを高めています。
中盤では、冒頭から2分半もドラムソロが繰り広げられるポップ・ロック・ナンバーもあります。
軽快なサウンドに辛辣な歌詞を乗せて美しい声で歌ってみせる、という得意の形だけではなく、アルバム全体での音楽作りがしっかり意識されているようです。
ただ、ボーカリストのソロとしては、もっと歌を聴かせてもらえた方がファンは喜んだかもしれません。

今、改めて聴いてみて、曲作りも歌唱も流石に上手く、良いと思います。
ただ、当時の私にとって特別な思い入れを持つまでには至りませんでした。

このアルバムが個人的に重要なアルバムになり得なかったのは、発売された時期の問題があったかもしれません。
このアルバムが発売された頃、ブリット・ポップのメイン・プレーヤーはオアシスブラーでした。
私の関心は、「ザ・スミスでは無いモリッシー」には向いていなかったのでしょう。
歌詞の理解はイマイチながら、音楽として響くリアリティは、オアシスの方が刺さっていました。

個人的な思い入れを除いて評価するなら、全て捨て曲の無い、クオリティの高いアルバムだと思います。
タイミングの合った人にとっては、特別なアルバムであったことでしょう。
まあ、タイミングだなぁ・・・。

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