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涙のROCK断捨離 45.DAVID_GILMOUR「On An Island」

デヴィッド・ギルモア「オン・アン・アイランド」/DAVID GILMOUR「On An Island」
2006年

静かなアルバムです。
人生の終盤に向けて、ささくれだったものを納めて、穏やかさを取り戻す。ピンク・フロイドや自分のギターのファンに向けてというよりも、自分自身のために作られたような抑制された楽曲が並びます。

彼自身は、もうお金や生活の心配は無いでしょうし、自分の人生を振り返って達成感もあることでしょう。特に挑戦的なことをここでやる必要性も無く、ただありのままに自分の想いを紡ぎ出すだけで、クオリティの高いものを生み出すだけのセンスとスキルを備えています。この音楽を否定することはできません。
ピンク・フロイドを長く愛してきたオールド・ファンもまた、年齢を重ねて、この音楽と自然と寄り添える人も多くいることでしょう。

しかしながら、自分は少々違いました。
曲や演奏が悪いわけではありません。心細くなったので、Amazonのレビューを観たら、高評価ばかりでした。
自分の現在の精神状態が、こうした幸福感に満ちた音を受け付けなかっただけで、いつか、このアルバムをしみじみと聞けたら良いなと心から思います。ただ、今、聴いていて正直なところ、聴きどころのない、退屈でつまらないアルバムだなと思ってしまったのでした。

袂を分かった、かつての盟友ロジャー・ウォーターズは、デヴィッド・ギルモアよりも3歳年上ながら、この10年後に、怒りに満ちたアルバム「イズ・ディス・ザ・ライフ・ウィ・リアリー・ウォント?」(これが私達が本当に望んだ人生なのか)を発表しました。
老境に入った二人の作品から、人間の幸せとは何なのか、考えさせられます。

アルバムを通して、ドキドキ・ハラハラして血圧が上がるようなことはありません。ワクワクするような期待感や、ウキウキするような高揚感もありません。多少のロックっぽさや抒情性を感じる曲はあるものの、感情が高ぶるようなことは起こらず、落ち着きのある肯定感に満ちています。
安定と静寂。スローなテンポ。優しく、愛に満ちた歌声とギター。
ただ、初期のピンク・フロイドで聴くことができた幻想的なトリップ感とは違い、あくまでも地に足が付いている大人のサウンドです。
素晴らしい作品なのですが、若く性急な心には、老いて衰えた音楽ともとられかねず、万人にお薦めできるわけではありません。
私も、まだこの境地には遠そうです。


Spotifyでも聴けます。
https://open.spotify.com/album/3hhRkf54AIQsdKLMWTxVLg?si=PKRUkg0_Q36Q86WdCmz6zA


写真の使用許諾に感謝します。
Photo by El Salanzo on Unsplash