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「成功はアート、失敗はサイエンス」を理解すると、マーケティングの成果が変わると思う。

コインチェック マーケティング部の岡田(@sampling2x)です。

マーケティングで成果を出すために、重要なことは?

という問いに対して、

  • 成功事例やトレンドな施策をインプットすること

  • 高速でPDCAをまわすこと

という回答は珍しくないです。

たしかに重要な考え方ですが、間違った解釈によって、疲弊しているマーケターも多いように思います。

そこで本記事は、ミスリードされがちな2つの考え方と、良い距離感で付き合っていくために、私が意識していることを書いていきます。

また運の要素が強い成功より、自らハンドリング可能な失敗に重きを置く「成功はアート、失敗はサイエンス」という考え方こそ、マーケティングで成果を出すために重要ではないか?という、私の考えをお伝えできたらと思います。

1 成功事例を一般化しない


「成功事例やトレンドな施策をインプットすること」に関して、陥りがちなミスは、表面のみ模倣することです。

以下は陥りがちな失敗例です。

  • 業界メディアで紹介されてトレンド新施策をまねる

  • 競合他社の成功事例を後追いする

  • 「DX」「MA」「ブランディング」「CRM」などバズワードに飛びつく

なぜ失敗するか?

記事で取り上げられる成功事例は、該当企業の環境だからこそ、成功したからです。

つまり複数の要因が上手く掛け合わり、成功したに過ぎず本来は一般化できるものではないのです。

その企業と競争環境、資金力、ブランド力が同じですか?
今のタイミングで上手くいきますか?

否です。

ゆえに表面だけ模倣しても、前提が違うため、失敗します。

ではなぜ成功すると勘違いしてしまうのでしょうか。

一番の原因は「偏った情報しか摂取していないことに気付かない」だと思います。

「TVCM」に100社挑戦して、97社失敗している事実に反して、担当者が3社の成功事例しかインプットしなければ、失敗確率が高いですよね。

上記のようなことが往々にして起こるので、「成功事例」の取扱いは、要注意です。

私は以下の2点を日頃から意識しています。

  1. 成功事例と同時に、失敗事例を探す

  2. 同テーマで、別カテゴリに属する人の主張を探す

1.1 成功事例と同時に、失敗事例を探す

私の実体験として、TVCMの例を紹介します。

そもそもTVCMは情報がオープンではなく、情報の非対称性が大きい領域ですよね…

ベンチャー企業では、TVCMのノウハウが社内にないため、まずは情報収集からスタートすると思います。

私は以下の3つの経路で情報収集しました。

①「成功した人・企業」からヒアリング
②Google・note・マーケティング関連媒体で検索
③代理店からヒアリング

①は「成功した人」の意見しか聞かないことになりますし、②も検索すると基本は成功事例しかヒットしません

③も構造的に成功事例を紹介されることが多いです。

このように偏った情報のみを摂取し、一か八かで高額なTVCMを放映して、多大な財務インパクトを負ったベンチャー企業は少なくないでしょう。

私もある企業の決算資料を見ていた際に「良いクリエイティブ作ってるのに、獲得件数もCPAも改善してなくない?」と偶然にも失敗事例を見る機会があり、その時はじめて成功事例のみで意思決定をしようとしていることに気づいた経験がありました。

失敗事例も同時に見ることで、今までは「どう良いクリエイティブを作るか?」が自然と目的になっていたが、「クリエイティブは重要だが、成功するためには他の変数の方が重要でないか?」と考えを一歩前に進めることができました。

この経験以来、成功事例を見て意思決定する時は、意識的に失敗事例を見るようにしています。

1.2 同テーマで、別カテゴリに属する人の主張を探す

次は成功事例を一般化しちゃうランキングがあれば、上位に入るであろう「ブランディング」を例にして考えてみます。

マーケターがよく陥る現象として「広告クリエイター」が書いた「ブランディング本」しか読んでいないため、過去のAppleやNike等の超成功した広告キャンペーンが「ブランディングで成功するためにMUST」と捉えてしまうというやつでしょうか。

しかしブランディング本は「広告クリエイター」だけでなく、「研究者」「デザイナー」「経営者」「広報・PR」等、多様な出自の方が執筆されています。

「デザイナー」はやはりロゴやUX改善によってブランド価値を高めた経験を書きますし、「広報・PR」はパブリックリレーションの経験がメインです。

ここでお伝えしたいのは、出自の良し悪しではなく、どの手段が適切かということでもなく、それほどに情報には偏りがあるということです。

そのため常に「同テーマで、別カテゴリに属する人の主張を探すこと」を、意識することで、インプットのバランスが取ることが重要です。

2 施策の数・スピードを目的にしない


さっそくですが、マーケティング界隈にいたら耳タコな「高速でPDCAをまわすことこそ重要」という意見は果たして正しいでしょうか?

私はこの意見もミスリードされやすい危険なワードだと考えています。

そもそもなぜPDCAを回すのか?の目的ですが、

LTV>CPAが成り立つチャネルを育て、継続的にグロースする仕組みを作る。
つまり「(LTV-CPA)×ユーザー数」が長期的に最大化されることです。

OOHをハックしてSNSでバズることでも、最速でMicrosoft広告やPinterest広告をスタートすることでもないです。

重要なのは、PDCAの先に「継続的にグロースする仕組みを作ること」が視野に入っているか否かです。

「単発の施策を成功させることでなく、長期的な成果最大化にフォーカスしたチャレンジかどうか」と表現するとわかりやすいでしょうか。

「高速でPDCAを回す」に対して、私が違和感を感じるのは、以下2点です。

  1. 施策のスピードが目的化している

  2. 施策のが目的化している

上記2点が多発するミスリードであり、多くのマーケターを疲弊させていると考えています。

2.1 重要度とコントロール性で仮説を立てる

思いつきのアイデアではなく、「目的を達成するための仮説」を試めすことが重要です。

たしかに施策のスピードが、目的を達成するために重要な変数になり得ることもあります。

しかしスピード自体が目的になってしまうと本末転倒です。

理由は2つあります。

1つ目は「目的達成のための重要度を定義しないと、無駄打ちが増えるから」です。

施策のスピードを最優先にするということは、100個ある施策候補を、1→100まで順番に、最速で試すという行為と等しいです。

いくら最速で施策を実施したとしても、100番目の施策が最も成果が上がる施策だった場合、1-99番目は無駄打ちになり、途方もないコスト(お金も時間も)を失うことになります。

100個施策を並べると、大体の場合では、重要な10個には絞れると思うので、その10個を試す方が、効率が良いことは目に見えています。

しかし「高速でPDCAを回す!」が脳にこびりついていると、成功事例を知った際に「とりあえず最速で試して、反応を見よう!」と反射的に手を動かしてしまうので要注意です。

2つ目は「仮説がないと検証の効率が悪いから」です。

さあ、重要度を定義して、施策が10個に絞れたので、1→10を順番に試そう!だと同じことの繰り返しです。

改めて目的のおさらいです。

マーケターが達成するべき目的は、LTV>CPAが成り立つチャネルを育て、継続的にグロースする仕組みを作ること。つまり「(LTV-CPA)×ユーザー数」の長期的な最大化です。

そのためには今あるリソースで、どのKGI・KPIを改善して、目的を達成するか?の仮説がまずは必要です。

  • LTV(平均購入単価×平均購入回数)

  • CPA(インプレッション単価×認知率×CVR)

  • ユーザー数(インプレッション数×インプレッションの質)

ではどのKGI・KPIを改善するのが筋が良いでしょうか。

ここではコントロール性という考え方が重要です。

つまりコントロールしやすいKPIと、コントロールしづらい(またはできない)KPIを分けて考え、コントロールしやすいKPIにリソースを集中しましょうということです。

例えばD2C洗剤ブランドのマーケターだとして、平均購入回数はコントロール性が高いでしょうか?

答えは否です。

なぜなら人が洗濯をする回数・一度に使う洗剤の量は大体決まっているからです。

そのため平均購入回数をKPIに置いてしまった時点で、すでに負け戦の可能性が高いです。

そしてこれはLTVというKGIも、筋が悪い可能性があります。

なぜならLTVのもう一つの構成要素である、平均購入単価を上げること、つまり値上げが難しいためです。

人間は相対的にしか価値を判断できないので、一度200円で購入すると、同じものを購入する時、300円は高いと感じます。既存価格の値上げにはそれなりの理由がいるのです。

LTVではなく、CPA or ユーザー数にフォーカスして、改善すると決めれば、100→10と絞ってきた施策が、5になっているかと思います。

そのためまずは改善しようとしているKPIがコントロールできるものなのか?の仮説を持ち、勝ち戦に挑むという意識を持つことが重要です。

2.2 「選択と集中」をして、質を高める

「高速でPDCAを回す!」のミスリードの1つ目が「施策のスピードを目的化する」でした。

2つ目は「施策の数を目的化すること」です。

重要度とコントロール性という考え方を持ち、ここまで施策を5つ程度に絞ってきました。

しかしこの5案をとりあえず実行するべし!という数をこなす思考ではなく、ここからは施策のが重要だという考えを書いていきます。

その理由は、5案までの絞り込みは、競合企業にマーケティング思考を持っている人材がいれば、比較的容易に辿り着けるからです。

そのため5案の中でも、今持っているリソースをどこに、どれくらい使うべきか?という「選択と集中」の考え方が必要になります。

以下の図Bを見てください。

競合のリソースが100に対して、80のリソースしか無いのにも関わらず、「選択と集中」をすることで、3つの戦局で勝利しています。

引用 : USJを劇的に変えた、たった1つの考え方 成功を引き寄せるマーケティング入門

特にベンチャー企業では、競合企業と比較して、リソースが潤沢ではないです。

そのため上記画像のように、5つのチャネルの中でも、仮説を持ち、「選択と集中」をするべき局面が多いはずです。

ただ実際のマーケティング現場では、1つのチャネルの解像度を極限まで上げて、徹底的にやり切るより、あれもこれも施策を試すということが、本当に良く起こっています。

これは私の体感値ですが、施策のスピードや数で劣ったのではなく、成功できる質まで施策の精度を上げられなかった…と反省することの方が圧倒的に多いです。

ここで改めて目的に立ち戻ります。

LTV>CPAが成り立つチャネルを育て、継続的にグロースする仕組みを作ること

ここで注目したいのは、継続的にグロースする仕組みを作ることの部分です。

上記の重要性を、D2Cがビジネスモデルとまで定義される理由から考えてみます。

  • LTV向上(利益率向上)

    • エンドユーザーへ直接商品を販売することで中抜きコストの圧縮

  • CPA低下

    • 可処分時間を大量に奪っており、インプ数が多い&インプ単価が安いInstagram広告の登場(オーガニックも)

    • ビジュアルメインな出面であり、有形商材を魅力的に見せやすい

上記の条件が揃ったからこそ、LTV>CPAを成り立たせることができたのです。

つまりInstagramを圧倒的に極めることで、低CPAで一定規模のユーザーを獲得できたため、ビジネスモデル(=継続性があるもの)とまで言われているのです。

今回はD2CのInstagramを例にしましたが、どのビジネスにおいても、LTV>CPAを成り立たせることができ、かつ規模感(ユーザー数)を出せるチャネルは?と考えると、1~3つしかないはずです。

これはパレートの法則と定義されていて、多くの企業で8割のユーザー獲得は2割のチャネル(1-3つ)に収束しているかと思います。

「80:20の法則」ともいわれ、「売上げの8割は2割の社員に依存する」といった傾向をさす。集団の報酬や評価が一部の構成員に集中するという経験則。

パレートの法則 by NRI

そのためあれこれ手を出さず、継続的な成長を目的として、規模感を出せるチャネルはどこか?のPlan(仮説)を持つ。

そしてそのPlan(仮説)こそが、Do(実行)して、Check(検証)&Action(改善)のリソースを突っ込む価値のあるものだと思います。

※最近はD2C勃興により、インプ単価の高騰&CVR悪化(=CPA悪化)でLTV>CPAが成り立たなくなっていきていると言われてますが、今回は例として記載してます

3 「成功はアート、失敗はサイエンス」


ここまで色々書いてきましたが、まとめると冒頭の「成功はアート、失敗はサイエンス」です。

「成功はアート」とは、成功は複数の要因が上手く掛け合わさり、成功しているケースが多いです。

つまり成功事例は、アート要素が強く、ただ模倣するのは、危険ということを意味しています。

そして「失敗はサイエンス」とは、失敗には再現性があるということを意味しています。

たとえば先ほど例に出した、D2C洗剤ブランドの平均購入回数のコントロール性が低いことは、ダブルジョパディの法則として、統計的に証明されています(参考 : 【5分に要約】ブランディングの科学

そのためダブルジョパディの法則を学んでおけば、平均購入回数をKPIに置く失敗は回避できます。

ダブルジョパディの法則のような一般論を学び、失敗回避に努めることはもちろん重要です。

しかし本noteで一番お伝えしたいことは、自社の「市場構造」に向き合い、失敗を積み重ねながら、地道に成功確率を上げていく思考こそ、マーケティングで成果を出すための核ではないか?です。

なぜなら同じ前提(市場構造)で「失敗」を積み重ねることができるので、自社努力で失敗確率を減らしていくことができるためです。

以下「市場構造」の定義です。

市場構造とは、ある商品カテゴリー(例えばシャンプーやスタイリング剤などのヘアケア市場)における、人々の意思と利害と行動が積み上がった全体としての業界の仕組みのことです。消費者、小売業者、中間流通業者、製造業者など、ビジネスに関わる全てのプレイヤーの思惑と利害がミクロレベルで様々に衝突し、それぞれの力関係に沿ってある一定の「やり方」に収束していきます。市場構造とは、つまり簡単に言えば「その市場における全体としての人々のやり方」のことです

参考 : 確率思考の戦略論

仮説を持ち、実行。
失敗したら、なぜ失敗したのか?を分析する。

なぜ仮説と違う結果となったのか?消費者のインサイトは?などをドキュメントに残すことで、チームに引き継ぎ、形式知化する。

この繰り返しです。

しかしマーケティング界隈では、Howが持てはやされる傾向があり、前提が全く違う業界の成功事例を、自社の市場構造でも成功すると勘違いすることが多いと思います。

Howだけ見るということは、自社の市場構造と向き合っていないということであり、それが失敗の最大の原因です。

自社に関わるステークホルダー全ての意思・利害を放ったらかしにして、成功に辿り着けるはずがありません。

成功に飛び道具はありません。

他社の成功に逃げず、自社の市場構造とひたすら向き合い、仮説を立て、リソースの選択と集中をして、やりきる。その結果を着実に形式知化していく。このPDCAを最速で回す。

地味ですが、この「成功はアート、失敗はサイエンス」のマインドセットこそ、マーケティングで成果を出すための核だと、私は考えています。

ここまでの内容は、マーケティング経験者とって、基礎的な内容だと思います。

しかし基礎が一番大事ということで、改めて言語化してみました。

皆さんの参考に、少しでもなれば幸いです。

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