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映画「ニューヨーク 眺めのいい部屋売ります」− 5 Flight Up

これまで何回の引越しをしてきただろうか。

大学進学で実家を出てから、私の引越し人生は始まった。
さらに結婚してからも、国内外合わせて10回以上は引越しした。
転勤先でも大家が急に家を売るから、とか
会社が新しくマンションを作るからそちらへ移るように、など
自分の意思ではない引越しも多かったような気がする。

映画「ニューヨーク 眺めのいい部屋売ります」の夫婦は41年もブルックリンのアパートに住んでいる。
売れない画家の夫のアトリエからはウィリアムズバーグブリッジが見えるとても眺めのいい部屋。
広くはないし、普通の部屋だけど元教師の妻が使いやすそうな、ちゃんと整えられた部屋。
だけど、エレベーターがない5階。二人は年をとった。
ブルックリンのウィリアムズバーグは昔は倉庫街だったが今ではとてもおしゃれな地区で二人のアパートも高額で売れそうだ。
住み替えを考えて、オープンハウスをすることからこの映画のストーリーは始まる。



2014年の映画だけど、その背景にある問題になっている点は
今もあまり変わらない。
二人が結婚した当時は黒人との結婚ということで、母からも祝福されなかったことが描かれている。二人が新しく家を買おうとした時には、売主から黒人の夫は心無い言葉をかけられた。
今年また悲しい事件が起こり動き始めた「BLM」だがアメリカでは2012年にフロリダで黒人の高校生が白人の自警団の男に射殺された事件をきっかけに盛りあがった運動だ。
ずっと、訴え続けているのに状況が変わらないのはどうしてだろうかと思い続けている。私たちが考えるよりずっと深く根深い問題なのだ。

映画の中では、黒人差別だけではなく9.11以降イスラム系への差別も描かれているが、アジア人である日本人の私も海外では差別を受けたことは何度もある。あからさまに、言われることもあったし、アジア人のグループは人目につきにくい場所にしか通してくれないという噂の店だって耳にした。
今また中国とアメリカの関係が悪化しつつあるので、この状況でアメリカに住むと危害を加えてくる人がいないかちょっと心配だ。二人の夫婦がどの人に家を売って、新しい家はどうするのかという本筋の背景には、このような様々なアメリカの状況が映し出されている。

姪の不動産屋さんや、オープンハウスに来る人達はとても個性的でいかにもアメリカらしい。
飼い犬の主治医や、アパートの1階の人達はとても親切で、夫婦が41年間そこに住んでお互い信頼できる関係であることがわかる。
同じ場所に住んで、街の移り変わりを見ながらともに成長するなんて、憧れの夫婦だ。とても羨ましいと思う。
いざとなったら、妻の意見を尊重して、きっちり行動に移すモーガン・フリーマン演じる夫は理想的だ。

奇しくも、先月NYで家探しをしていた。
新型コロナの影響で、リモートワークが進んだ結果
マンハッタンから郊外へ引越しする人が多く
私たちが希望するエリアも人気となり、
ただでさえ賃貸物件が少ない中、物件の争奪戦となった。
オープンハウスどころか、中の様子もわからないまま
ロケーションだけで、とある一軒家を契約した。
かなりの冒険だったが、こういう時に躊躇していると家を借りられなくなるので、賃貸ということもあり判断した。
映画の中でも、時を追われるような、駆け引きのようなハラハラ感があるが
現実もまさにその通りだ。本当に一刻を争うのだ。
本当は、オープンハウスを何件か巡ったりして、住んでいる人に家のことを聞いたりしながら家を決めたかったのだけど。
そこには、いろんなドラマがありそうだし。

今はまだ、visaの関係で日本に足留めされているけれど、
次に住むあの家のインテリアを考えたりして、
新しい生活を楽しみにしている。
1ヶ所に長く止まって歴史を積み重ねた主人公の夫婦はとても素敵で、
そうなりたいと願うけれど、
私の場合どうもそうはいかない運命らしい。

主人公の夫婦も言っていた。
「どうして引越しをするのか?いい人生だったのに?」
「場所はどこでもいい、二人でいい人生を。」と。
私も、そして誰もが
どの国でどこに住んでいても、引越しをしてもしなくても
「いい人生」を家族とともに歩んでいけばいいのだと思う。
たとえ、今の制限のある暮らしでも。
足元を見つめなおす、とても温かい良い映画だった。
もう一度 見てみようと思っている。
いや多分これから何回も見返すだろうと思う。

最後に、
主人公の妻役のダイアン・キートンがさりげなくお洒落で。
あんな風に歳を重ねたいな、と思った。
グレーのベレー帽がとても似合っていた。
早速、グレーのベレー帽を編んでみたいと思った。
NYに行けるようになるまでに編み終えることができるかしら。


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