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よろしく親不孝-2

前回はここから

居酒屋“かすり”に向けてハンドルを捻っている間に色々な事が頭を巡らした

ヤクザなんてもんは映画でしか見たことがないし生のヤクザはどんな人物なのか、金はたくさん持ってるのか

人を殺した事もあるのか鉄砲とか持ってんのか

なんて事を田舎の田んぼ道を駆け抜けながら三好とは何も喋らず
頭ん中がグルグルしてたのを覚えている

ほどなくして10分くらいかな、かすりに到着したのはこの時俺はというと好奇心と少しの恐怖心で震えながら

いつもと同じ居酒屋かすりの引き戸に手を伸ばし勢いよく開けた

三好:「お疲れ様です!!!!!」

三好がいつものトーンとは違う声で叫んだ
それに釣られて俺も声が裏がえりながらも

薫:「お、お疲れ様です!初めまして!薫と申します今日はどうぞよろしくお願いします!!!!」

なんて言ってたなぁ

目の前を見るとこの人が本当にヤクザなんだろうかと目を疑うくらいの若い兄ちゃんが座席で日本酒を酌み合いながら1人の女と向かい合っていた

女は全身が墨まみれで金髪の中年くらいの女性
一目で彫師だとわかった

そしてその男が俺らの目を見ながら口を開いた

男:「君が薫くん?よろしくね俺、(以下全文仮名)里枝市の関口組3次団体の猪田宗家(いだそうけ)って組で若頭補佐やってる田嶋和希(たじま かずき)ってんだ、こいつ(三好)から話は聞いてるよシノギ探してんだって?」

薫:「はい、よろしくお願いします!まだ中学生でそちらの業界に関しては右も左もわかりませんが、やる気だけはありますので是非よろしくお願いします!!」

そんなこんなで俺は人生で初めて本物のヤクザと自己紹介をし合った
これから先どれだけ血と涙を見ていくかも知らずに俺らは4人で小さいテーブルを囲ってタバコに火をつけた

彫師:「和ちゃんにまた舎弟が出来たじゃんよかったね〜」

この和希と言う人物に俺みたいなパシリが他にもいることに俺は驚いた、そして
彫師がそんな事を言うもんだから和希は得意気に自身の愛タバコ、マイルドセブン通称マイセンをふかしはじめた

和希:「早速だけど俺がやっているシノギを明日から手伝って欲しいんだよね、内容は的屋(てきや)ってわかる?祭りの屋台なんだけど俺は焼きトウモロコシとジャガバターを各地で祭日に開いてんだけどそれが俺のシノギって訳、人手が足りないから薫くんみたいなツッパリを雇ってた時期もあるんだけどそいつらの年齢が上がった時に別のシノギ任せちゃってるから今手伝いがいないんだよね」

俺はその内容を聞いた時、案外真っ当な仕事だとこの時思った

祭りの屋台がどんな人がするのかは当時検討も付かなかったが
まさかこのようなヤクザ屋さんがそういう仕事をしているのかと感心した

実のところもう少し“シノギ“とは悪い内容だと思っていてブツを運ぶとかヤクを売るとか、みかじめ徴収だとか、水商売の用心棒だとかアングラな世界だと思っていた分拍子抜けしたが、この人に雇われて鑑別や年少にぶち込まれる事もないだろうと安堵もした

その手の仕事もあるらしいが15歳のカタギのクソガキにそんな大仕事を任せて
失敗でもしたら子指が飛ぶらしくとてもじゃないが任せられないと笑ってきたがもちろん俺としてもそんな危ない仕事は高給でも絶対にやりたくはなかったから安心した

俺は当時15歳で三好が一個上の16歳だった、三好は高校も行かずに
実の父親のコネで鳶職に勤めていた為に和希の危ない仕事の誘い(一発20万円の高給)の案件を一度断ったのだと言う、その内容は今でも正直気になっている

三好:「和希さんがこう言ってくれてんだからよ、お前明日から頑張れよ?何かあったらいつでも言ってこい相談くらいは乗ってやるからよ」

薫:「三好くんありがとうございます!和希さんも!明日ですねわかりました!一度実家の方に帰って準備しますので今日のところはここらで失礼します!明日からどうぞよろしくお願いいたします!」

そう言って俺は和希とメールアドレスを交換して居酒屋かすりを後にした
そして俺はほぼ絶縁状態の実家に帰ったんだ

ほぼ半年間くらい実家に帰っていなかった為、いきなり帰るとわかると監禁されてもおかしくない故にその日は家族にバレないようにこっそり自分の部屋で休んだ

そして次の日の朝6時に目を覚まし
和希と地元にある蛇玉神社で合流することになった

蛇玉神社の鳥居の下で待ち合わせをして5分かそこらで

和希の愛車トヨタクラウン・ロイヤルサルーンがお出ました

そして昨日と変わらず若い兄ちゃんのようなヤクザがこっち見ながら手をあげてドアを開けた、その瞬間に俺は大きな声で挨拶をした

薫:「おはようございます!今日からよろしくお願いいたします!」

和希:「おはよー今日からウチで働く訳で色々教えていくけど正直見た目がまだガキくさいからウチらの大元の猪田外商組合(いだがいしょうくみあい)の補佐から突っ込まれると思うんだよね、一応この商売悪い奴がほとんどだけど、年齢だけは厳しくて祭日は“デコ助“も回ってるからさ、財布とか今日は俺に預けておいて、もし補佐とかデコ助に突っ込まれたら18歳って言い切って何も持ってないって突っぱねてよ」

薫:「すいません、デコ助って何ですか???」

和希:「あぁ、デコ助って警察だよ、俺らの的屋ってシノギはシマ持ってる組が大体を動かしてるから祭日とかになるとマル暴の野郎どもがいっつもうるせえんだよ」

そんな話もしながら屋台の組み方を教えてもらいおおよその骨組みも完成してきて屋台一つ完成させるのに10分とかからなかった

そして俺はマル暴と言う組織の知識もまるでなかったからすごく興味があったんだ、当時も今もマル暴とはヤクザよりヤクザらしく言葉も行動も全てがヤクザ以上と有名らしい

俺は好奇心が抑えきれず現実世界のマル暴とはどんな奴らなのかワクワクしながら聞いてたんだ、詳細はこうだ

マル暴とは県警察刑事部捜査第四課といい主にヤクザと渡り合う刑事達だ
和希曰くはマジでめちゃめちゃに怖いらしい
だがそんなマル暴もヤクザのコネは沢山広げており、ヤクザを買収したり
逆にヤクザが丸暴を買収したりで、よその組と情報戦を四六時中しているらしい

後日談だが、和希は実はそこまで偉いヤクザではなく三下の鉄砲玉と言われる
半グレに肩書きがついたような下っ端なのでそのような話は回ってこないらしい
居酒屋かすりで若頭補佐をやっていると言うのは和希の…まぁ嘘だったわけだ

和希はいつもそのマル暴達にきっちり詰められて参っていたらしいが
この和希と言う人物の見た目は本当にヤクザらしくはなく真夏でも長袖で墨は隠れている一般人に紛れ込んだ本当に若い兄ちゃんなので一見でヤクザには到底見えない

だがどうやら、よその組が和希達の組のシマを奪おうと躍起になっていたらしく
そのよその組の者がマル暴を買収した後に和希の属している組、猪田宗家の情報を流したらしい

和希:「じゃあそう言うわけで俺今から会合行ってくるからタバコでも吸って待っててよ」

そう言って和希は蛇玉神社を後にした
しばらく暇になるかと思い神社周辺の砂利道を散歩しながらお決まりのダッセェzippoで赤マルに火を付けた

あの時は本当にヤクザに雇われてしまった事に不安も快感も同時に押し寄せてきて俺はすごく気持ちよくなっていたと思う

ほどなくして屋台に戻り、携帯でいろんな奴にメールを返していたら
突然ドスの効いた声で怒鳴られた

?:「おい、オメェどこの組の舎弟だよ!!」

この時俺はこの声の主にこれから3年間をヤクザだらけの渦中に引きずり込まれるとは思いもしなかった…

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