-IT起業家-
私が恋した相手の中で、いわゆる「成功者」と呼ばれる人がいる。
IT業界において、いち早くその地位を築いた彼もその一人だろう。
知り合った当時は、私がその業界のことに無知であったため、彼は単なる起業家の一人でしかなかったが、10年経った今、彼が開発したシステムは私ですら知る程の知名度を有していた。
彼とは、友人と六本木のクラブで知り合った。
友人同士がいい感じになり、必然的に2組に別れた。
4人で賑やかに食事した後、彼に連れて行かれたのは、全体が水槽で囲まれた幻想的なバー。
ブルーに揺れる照明の心地よさもあって、彼に心揺れるのは簡単だった。
「俺たちってお似合いだと思わない?」
と顔を寄せて、水槽に映る二人を指して彼は言う。
静かに揺れる水の動きが、私を夢の中へ誘う。
彼の部屋も、まるで現実味がなかった。
マイナスイメージはあまり脳に入れたくない、という理由で外界からの情報をシャットアウトしていると言う。
無機質で、なんとなく寂しかった。
彼から財布を失くしたと連絡を受けたのは、私の誕生日の数日前だった。
つい「私の誕生日プレゼントは?!」なんて口を突いて出てしまったのは、我ながらわかりやすいなと反省する。
ある程度成功した人が、社長という肩書や稼いでいるお金目当ての女性は相手にしないとよく言うが、彼も例外ではなかった。
私だって、こんな女ごめんだ。
私に幸あれ。
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