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中高生に送る夏の文庫フェア本


こんにちは。夏といえば文庫本フェア。本日は中高生の方に向けた文庫本フェア登場作品紹介です。文庫フェアの冊子は書店で無料でもらえますから、もらってきて見るといいと思います。文中敬称略。ではいきましょう。


カドフェス2020

最初は角川文庫の「カドフェス2020」。特集ページはこちらです。

角川はメディアミックスに強いので、昔からメディアミックス系の本が多く紹介されています。ということもあって、比較的若者向けという感じがいたしますね。


米澤穂信『氷菓』

これは古典部シリーズの最初の話ですよね。氷菓はアニメ化されているので、そちらで古典部を知った方も多いのではないかと思いますが、原作読んでないよって方はぜひぜひ。中高生って、児童書だと物足りないけど、大人の本はまだちょっと面白さがわかりづらい時期だと思うんですが(私がそうだったということですが)、米澤穂信はその橋渡しとしてとてもいいと思います。古典部が気に入ったら別のシリーズも読んでください。


宗田理『ぼくらの七日間戦争』

これ私も中高生の頃読みまして、めっちゃ面白かったんですが、今の子が読んでどんな感想を持つか興味あります。「大人に逆らうなんてコスパ悪い」的な実利的な発想をする子が最近はけっこういるなあと勝手に思ってるんですが、この本はどう読まれるんだろう。本は感想を語りあうのも楽しいですが、自分ひとりで大事に感想を持つのも楽しいものです。「この登場人物、好きだなあ」と思ったり。明日から夏休みというところから始まるので、夏休みに読むにはとてもいいです。


あさのあつこ『敗者たちの季節』

これは私は未読です。あさのあつこは小中学生向けの国語の教材にしょっちゅう出るのですが、それはあくまで抜粋でして、一冊読んではじめてわかるおもしろさも絶対にあるはずです。伏線を引いたり、登場人物の変化を描いたりね。正直教材を見るたびに「またあさのあつこか!」と思っているところもあるんですが、しかし「おもしろいなあ」と思ってしまうのも事実。通しで一冊読みましょう。


夏目漱石『こころ』

高校の国語の時間に読みました。『吾輩は猫である』は小学生のときから読んでますが、『こころ』はそのとき初めて読んだんですね。ミステリっぽくて面白くてびっくりしました。そこで自分で買って読んだ次第です。登場人物に「うじうじしてんじゃねーよ」とお感じになる方もいらっしゃるでしょうが、「孤独とどう向き合うか」というテーマは、これから生きていくと考えざるをえないのではないかと思います。人間って悩みがあるときはうじうじしてしまうし、うじうじしてないカラっとした人生だけが素晴らしいのだとは私には思えません。古典は20年後に読み返すかもしれない本で、読み返すと印象が違っていたりして楽しめます。そのためには若いときに読んでおかなくてはいけませんからね。20年後の自分と感想を語り合うために読むのも面白いかもです。


新潮文庫の100冊

次は新潮文庫の「新潮文庫の100冊」。こちらは伝統的に名作志向かなと思っていたんですが、最近は若い人を取り込もうという動きも強いです。「新潮文庫nex」という、比較的若者向けと思われるレーベルも作られていますし。

特集ページはこちら。


安部公房『砂の女』

『砂の女』読んだっけ?私は読んでない気がします。『壁』は読みました。安部公房はいいと思います。我々の日常生活を、何らかの意味で超えているというか、吹っ切っているんです。周囲の大人(親や教師)が言ってくることって、決まりきってるじゃないですか。勉強しろとか、もっと頑張れとか、友達と仲良くしろとか。それって結局「美味しいものを食べて、いい服を着て、現世で快楽を貪る」の延長線上にあるものでしかありません。あなたも快楽主義者になったらどうですか、というのが「勉強しなさい」の意味するところだとしたら、それを完全に置き去りにした世界が本の中にはあります。とりわけ安部公房のような作家の本にはね。


上橋菜穂子『精霊の守り人』

児童書としても大変すぐれている本ですが、もちろん中高生や大人が読んでも大傑作です。短槍使いのバルサの強さにきっと憧れることと思います。でもそのバルサも多くの悲しみを背負っていて、とても背負いきれないものを背負いながら、大事なものを守ろうとがんばってるんです。そういう意味で、大人のかっこよさが存分に描かれていると思う。本物の大人って、実はけっこうかっこいいんですよ。


小野不由美『月の影 影の海』

十二国記の最初の話です。はっきり言って前半が暗いです。十二国記ファンの間での合言葉は「ネズミが出てくるまでがんばれ」ですから、私もそのように申し上げたいと思います。でも、前半の閉塞感に自分を重ねて、そこに救いを見出す人がきっといるんだとも思います。「国とは何なのか」が十二国記の大きなテーマになっているんですけど、コロナウイルスのニュースを見て「国っていったいなんだろう」という問いを抱いた中高生もいると思うのです。そういう方にもおすすめです。


サイモン・シン『フェルマーの最終定理』

この本は三浦しをんさんのエッセイで知りました。記憶に基づいて書くんですけど、三浦さんは電車内で、この本を読んでいる人が泣いていたのを見たのです。そして「えっ、数学の本?数学の本なのに泣けるのか??」と思って自分で読んで泣いたんです。私もその三浦さんの話を聞いて「数学の本なのに泣けるのか??」と思って自分で読んで泣きました。さて。読んでみてください。


加藤陽子『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』

歴史の先生が中高生に明治から太平洋戦争に至るまでの歴史を講義する内容です。歴史は「事件と人名をひたすら記憶する」ことだから嫌い、要するに暗記モノ、と思っていらっしゃる方も多いものと思います。でも、そうじゃない。学問は答え(知識)が面白いということもあるかもしれませんが、そこに至る問いが実は面白いんです。哲学も、科学も、歴史もそうです。それがわかると普段の勉強も俄然面白いはずです。この本にはそういう問いがたくさん詰まっています。「歴史学観」を変えるかもしれない講義を聞きに行きましょう。


カフカ『変身』

カミュ『異邦人』

「不条理」と言われる二冊の本です。『変身』は目が覚めると自分が毒虫に変わっていた男の話。『異邦人』は太陽のせいで人を殺しちゃう男の話です。不条理って、条理を前提に存在する概念なのですが、果たしてなぜ条理が条理だと思うのか。『変身』や『異邦人』の方が実は条理で、我々の方が不条理だという可能性はないのか。「わけわかんない、こんなの読んでも別に役に立たない」と思っているその感想は条理なのか不条理なのか。そういうことを考えるのもいいんじゃないでしょうか。それも、日常のスパイスとしてではなく、本気で考えてみるといいと思います。そうしたらどうなるってものでもないですが。


ドストエフスキー『罪と罰』

この本を10代のうちに読めることは幸福なことのはず、です。10代で読んだときにだけわかる面白さが、たぶんこの本にはあるからです。ドストエフスキーは前半がものすごくつまらないというか、煩瑣というか、冗長というか、なんですね。ファンでさえ、「後半の面白さを思って前半のつまらなさに耐える」というほどです。しかし、後半の面白さは世界最高レベルです。「こんなに面白い本がこの世にあったのか」と思いました。分厚いですが、読まずに死ぬのはもったいないと思います。


梨木果歩『西の魔女が死んだ』

梨木果歩は上手い作家だなあ。最後の最後で「うわああああ!そうだったのか!!!」と叫んでしまう本を書ける人です。派手な話ではないんですが、「自分の人生を生きる」ことが描かれていると思う。とてもいい本です。


ナツイチ

最後は集英社文庫の「ナツイチ」。特集ページはこちら。


冊子をめくってみて、ちょっとやっかいなことに気づきました。


私が読んだことのある本、一冊もない!!


(他社と重複するいわゆる古典を除く)


最近の本を読んでないことがバレてしまいますね……。じゃあ読みたい本とか好きな作家について語ります。ちなみにナツイチの冊子は読書メーターの感想が載っております。現代的。


壁井ユカコ『2.43清陰高校男子バレー部①』

壁井ユカコは元々ライトノベルを書いていらした方で、最近はスポーツを主題にした小説を多く書いておられるように思います。私はデビュー作の『キーリ』を読んで、うまいなあと思っておりました。あまり熱くない、体温の低そうな男の人がかっこよかったんですが、スポーツ小説はどんな作品か、気になります。


宮下奈都『太陽のパスタ、豆のスープ』

宮下奈都は『スコーレNo.4』と『羊と鋼の森』を読みました。ものすごくよかった。食材にこだわって大事に料理された食べ物をゆっくり食べているみたいでした。中高生が読んでも面白いと思うんですが、30代くらいになったらきっと読み返したくなると思います。でも中高生で宮下奈都に出会えるのもうらやましい。


ということで、楽しい読書時間をお過ごしください。

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