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検察庁法改正案に抗議します まとめ

2020年05月、今国会に提出され審議がなされている「検察庁法改正案」について、様々な意見や批判が、一般人・著名人問わず各方面からそれぞれの声が飛び出している。大手メディアでも連日報道されており、ツイッターでは「#検察庁法改正案に抗議します」とハッシュタグが付けられた投稿が500万件にも上るとされた。

しかし、上げられた声は抗議のそれだけではない。”抗議している人々”へ対して、注意喚起を促す中立的視点からの意見を発する者も少なくなかった。

「検察庁法改正案」の具体的な中身などは、専門的な見解は新聞各社等大手メディアに任せるとして(以下、参考記事はリンク紹介します)、本記事では、一般人・著名人・専門家、国会など、広く見渡した現状と、起こった現象を考察し、05月13日までの出来事をまとめていきたい。

指摘された問題点

今回提出されている「検察庁法改正案」には、2019年秋頃から検討されていた”検察官の定年の65歳への引き上げ”や、検事長などの検察幹部が63歳で一般検事となる”役職定年”が盛り込まれており、それ自体には野党側も一定の理解を示しているようだ。だが、改正案の内容には、「内閣が定める事由があると認められるときには、1年を超えない範囲で要職にとどまることができる。さらに、内閣の定めるところにより1年を超えない範囲で期限を延長(最長3年まで)できる」という追加された部分を問題視する声が上がったことで、今回の騒動になったと見られる。

これは、内閣が検事総長らの定年を最長68歳まで延長できるということであり、検事長などの”役職定年”も最長3年間延長できるということだ。つまり、内閣に認められた者だけが役職に着き続け、居残る現象が起こり、検察庁が内閣に忖度が生じるおそれがあると懸念された。それが、まず問題視された点の1つである。

続いて、この「検察庁法改正案」に関連するとして名前が挙がっている人物として、「黒川弘務 東京高検検事長」の存在がある。
黒川氏は、2020年01月31日に政府が国家公務員法81条の3に定められた勤務延長制度に基づいて、黒川検事長の勤務延長を閣議決定していた。そして、黒川氏はこれまでの検察官としての仕事の中で、政府与党に忖度があったのではないかと言われている。
黒川氏が担当した主な不起訴事件は下記の通り。

・小渕優子 元経済産業相 = 政治資金規正法違反
・松島みどり 元法務相 = うちわ選挙区配布問題
・甘利明 元経済再生担当相 = UR都市再生機構 口利き疑惑
・下村博文 元文部科学相 = 加計学園パーティー券200万円不記載問題
・佐川宣寿 元国税庁長官(他37名) = 森友学園 公文書改竄問題

このような経緯のある人物を、次期検事総長に据えるつもりではないのか、との懸念が問題視された2つ目の点だ。が、この点に関しては特に問題にはならないとの解釈もある。(後述)

さらに、なぜ新型コ口ナウィルスへの対応が急がれるこの次期に、十分な議論がなされていないと言われている改正案を何故出してきたのか。公務員法は検察庁には適用されないとされてきた中で、何故突然それを覆してまで強行するのか。という政府与党への不信感が問題視された3つ目である。

抗議の声を上げた人々の主張は、大きくは上記の3つのうちのいずれかを訴えるものが多かった。上記では簡単に概要のみを説明したが、この問題点について、東洋経済新聞が5ページに及ぶ詳しい記事を出しておられるので、じっくり読んで詳細を知りたい方は、お読みになられると良いだろう。

また一部では、黒川氏が「定年延長」された後に”検事”としての仕事をこなしてきた中で、「定年延長」が無効になってしまった場合に問題が起こる可能性も指摘されている。”検事”の身分に無い者が、検察官の仕事をしてきたことになるのではないか。という問題だ。

こういった様々な観点から巻き起こったのが、今回の「#検察庁法改正案に抗議します ツイッターデモ」だ。

このツイッターデモには、多くのタレント・著名人も参加した。一部のタレントとファンの間で問題も起きたようだが、本件の趣旨から外れるので割愛したい。そして、国会の中での答弁も一進一退が続き、丁寧な審議や慎重な議論を求める声も見受けられた。その様子についても、同じく東洋経済新聞が詳しい記事を出している。

慎重論と、問題点の整理

著名人や専門家、法律家の中には、今回の改正案を慎重に見る方々もいる。
三権分立の観点から、行政である検察に「与党への忖度」が生じる懸念については、「元々検事総長は内閣が任命している」とし、検察自体がそもそも完全に独立している行政機関ではない。と説く者もいる。さらに、民主的に選挙で選ばれた者が政治家を務め、その中で選ばれた者が内閣を担っているのだから、内閣が検察庁に口出しできるのは(間接的にだが)十分民主主義の理に適っている。という意見まである。

黒川氏の絡みに関しては、あのオウム真理教の事件で有名なジャーナリスト2名も注意を促していた。

江川紹子氏はこう言っている。
「黒川東京高検検事長ひとりを強大な悪者にして、”冤罪から政治家の事件もみ消しまで、悪いのはすべてこいつだーー”というシンプル思考がTwitter内を駆け巡っています。多くの人がそういう発想に汚染されてしまえば、組織的な問題がかえって覆い隠されると懸念します。」

有田芳生氏も、こう語る。
「黒川氏の職務権限がない事件についても黒幕であるかのような根拠なき噂話だけが肥大化しています。安倍政権が無法に推し進める検察庁法”改悪”案の問題は論外で許されません。しかし個人批判は根拠ある事実を基本にしなければなりません。」

黒川氏については、今回の改正法案の施行日は2022年4月1日であることを踏まえ、今国会の検察庁法改正法案の成否は、黒川氏の人事の行方とは法的には一切関係がない。とされている。
黒川氏が検事総長になるかどうかは、そもそも施行されていない改正検察庁法の問題ではなく、自身の年齢と、むしろ(現)稲田検事総長の退官次第であり、言い換えれば、今回の法案が否決になったとしても、黒川氏が検事総長になる道はすでに開かれているということである。
(詳しくは、上記 東洋経済新聞 1つ目の記事の3ページ目 参照)

東洋経済新聞の記事をはじめ、他のメディアの報道、専門家の意見などを見ると、黒川氏の絡みが問題の主ではないように見えるが。

考えなければならない問題は、三権分立と民主主義を崩さずにおくために、今以上の”内閣の行政への干渉”を止めるべきと見て改正案に反対するべきなのか、それとも、是正するために賛成するべきなのか。ということ。
そして、時期的な問題の方はどうか。先にも少し触れたが、「公務員法は検察庁には適用されないとされてきた」と閣議決定したものを覆してまで、今推し進めなければならない理由とはなんなのか。

まだ国会での審議は続いている。今後は上記の点に注意して見ていきたい。

世論と民主主義

ツイッターで起こったデモ活動について、次のような検証がなされている。
「500万件以上のツイート」は、実際の人数は10分の1程度である。というものだ。この検証はツイッターの公式発表等ではなく、外部の方の調査によるものだが、私も概ね同意見である。

大手メディアが「500万件以上のツイート」として取り上げたとき、”件”というのが気になっていた。
偶然にも私は、トレンドタグが300万件以上のカウントを超えてしばらくした頃、突然、数万件に落ちた瞬間を見ていた。そこで一瞬思い浮かんだのは「重複投稿のカウント圧縮」だった。
つまり、最初は”件”で数えていたものを、途中で”人数”の集計に切り替えたのでは?と考えた。そしてそのままツイートデモが終息していくうち、妥当な数字と思われる範囲でカウントは落ち着いていったのだ。詳しく調べたところ、同一人物の連続投稿や、"bot"といった自動投稿などを省くシステムが作動し、件数ではなく、より”人数”に近くなるよう処理が働いたらしい。

とはいえ、「50万人のツイートデモ」というだけでも大した数字である。
50万人が、今の政治のワンシーンへ「No!」を突き付けたのだ。国民全体や有権者の全体から見れば、まだまだ大多数とは言い難い数字かもしれない、しかし、インターネット利用者の中の、さらにツイッター利用者の中の、という限定された条件下での約50万人である。

2019年のSNS利用者の調査では、日本のツイッター利用者は約4,500万人とされており、年齢では10代が約400万人。有権者の年齢だけで見ると約4,100万人だ。50万 / 4,100万 = 0.012。つまり、ツイッター内にいる有権者の1.2%。日本全国の有権者の数から見ると、さらに半分以下になる。

それだけを見ると、さすがに世論であるとは言い難い。しかし、上記で述べたようにツイッター利用者に限られていること、「検察庁法改正案」について国民への周知が十分なされていないこと、国政選挙のように国民の意識が向いているわけではないことなどを考慮するならば、その条件下で声を上げたのが50万人いたという現実は、無視すべきではないとも考えられる。

しかし、政府は「世論とは受け止めていない」らしい。

05月13日、自民党の泉田裕彦衆議院議員がツイッターで発言をした。
「私、国家公務員法等改正案を審議している衆議院内閣委員です。今、一部委員退席のため休憩中です。検察庁法の改正案は争点があり国民のコンセンサスは形成されていません。国会は言論の府であり審議を尽くすことが重要であり強行採決は自殺行為です。与党の理事に強行採決なら退席する旨伝えました。」
「強行採決をすべきでない。との声が届くのかわかりませんが、内閣委員をはずされることになりました。」


さて、国会で審議中の「検察庁法改正案」、三権分立と民主主義には本当に影響は無いのか、なぜ強行採決も視野に入れ急ぐのか、今一度、冷静に考えてみる必要がありそうだ。


検察庁法改正案に抗議します まとめ(終)