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滞在日誌 2022/11/29(1日目) いよいよスタート!

秋晴れの心地よい天気のなか、いよいよ作曲家・演出家の額田大志さんの滞在がスタートしました。2022年11月から2023年3月までの期間に計15日間世田谷美術館に通い、〈ボーダレスな音〉をキーワードに様々なリサーチや実験を行います。

この滞在日誌は、プログラムコーディネーターの武田が滞在の様子をお伝えしていきます。写真は全て武田撮影(※印除く)。

まずは砧公園へ

砧公園の紅葉

開館時間の10時、世田谷美術館の吉田学芸員から、この日の美術館ではどのような催しがあるのかなど、説明を受けました。

額田さんは滞在初日ということもあり、美術館の中や砧公園でさまざまな音に耳を傾けながら1日を過ごしてみる、という計画でした。美術館を取り囲む広大な砧公園を散策し、その体験を得てから美術館の中へと移動していく、というイメージが初めからあったようで、まず砧公園へと向かいました。

砧公園の地図
大まかに東西のエリアに分かれています
公園の北西にある「バードサンクチュアリ」

お昼はプロジェクトメンバー全員で公園に集合し、ランチ。まずは公園の西側を巡った額田さんが印象に残った場所として話してくれた「バードサンクチュアリ」が話題に。世田谷美術館の塚田学芸員からは、砧公園は元々ゴルフ場だったこと、公園として生まれ変わってからは、野球場などの設備の拡張を求める住民の声を受け止めながら樹木の保全をはかる、という難しい調整が続いたことなど、ただ歩き回るだけでは分からないことを教えてもらう時間になりました。

その音を“聞こうとしてみる”

午後、額田さんは再び公園へ。午前中は公園の西側を回ったので、午後は公園の東側と美術館内を回ってみるとのこと。

だんだん天気が悪くなってきたので、15時頃には美術館に戻ってきました。

改めて、今日1日の公園での体験を聞いたところ、「視界に入っている物の中からある対象を1つ決めて、その音を聞こうとする」という実験をしていたそうです。

例えば「バードサンクチュアリ」には、鳥を驚かさずに観察するための覗き窓が設置されています。ここから鳥を観察すると、聞こえている音はそれまでと同じはずなのに、自ずと鳥の声に耳を澄ませてしまう、という自身の変化に興味を持ったとのこと。


「バードサンクチュアリ」にある覗き窓

次は、川にいたサギ。サギを見ている時実際に耳に入るのは、風の音や近くを走っている車の音などであって、サギが水の上を歩く音自体は聞こえません。でも、その音を“聞こうとしてみる”と、自分がかつて水辺を歩いた時の、記憶の中にあった水をめぐる音が思い起こされて、本来は聞こえていない、目の前のサギが立てているであろう音が立ち現れてくるような感覚があったそうです。

最後に、世田谷美術館の壁泉。建物の中から見るとその水音は聞こえないが、”聞こうとしてみる”と、さっき前を通った時に聞いた音が思い出されて、それが聞こえてくるような感覚がする。

館内から窓越しに見る壁泉は、関根伸夫の《水彫れの滝》という作品 
音が聞こえてきますか? ※額田さん撮影

このように、実際に聞こえているかどうかに関わらず、見ている対象の音を“聞こうとする”ことで、自分の感覚がクリアになっていくような気がしたそうで、今日はこのような実験を公園のあちこちで試していたとのこと。

企画展「祈り・藤原新也」

公園の散策の後、額田さんは11月26日より世田谷美術館で開催されている企画展「祈り・藤原新也」へ。じっくりと時間をかけて見ていました。

展示の詳細はこちら。2023年1月29日までの開催です。

企画展「祈り・藤原新也」

展示を見終えた額田さん・プログラムディレクターの米原・私の3人共、この日の展示室はとても静かで、自分たちも音を立てたくないと感じていました。そして空間のつくりや展示されている作品によって、静かに向き合いたくなる展示と賑やかに楽しみたくなる展示の違いが生まれているのでは、という話をしました。音楽や舞台芸術を中心に活動している私たちだからこそ気になったことかもしれません。

17時頃から、美術館の皆さんも交えて初日のラップアップ。吉田学芸員・塚田学芸員からは、美術館という研究機関としての機能も持ち合わせている場所だからこそ、この機会に、額田さんが関心を抱くトピックの深いところまで探求していってほしいというコメントをもらいました。

初日を終えて

まだ滞在初日にもかかわらず、額田さんが早速手掛かりになりそうなものを掴み、それを丁寧に言語化してくれていることに驚きました。ふと思い出される記憶のなかの自然の音、意識を向けることでしか聞こえてこない音がある――言われてみれば確かにそういう感覚は自分のなかにもあると感じています。砧公園がプリミティブな、素朴な音にあふれているということも、このような感覚をすんなりと理解できた要因だったのかもしれません。ここから額田さんがどういうアプローチをしていくのか、とても楽しみです。

また学芸員の皆さんと話していて興味深かったのは、普段から考えていることやそれぞれが直面している問題など、ふと出てくる話題を通して、美術館で働く皆さんと額田さんや私たちの間にある考えや視点の違い、一方では意外な共通性もあったことです。改めて、近いようで遠い、遠いようで近い分野で活動しているのだと感じます。

世田谷美術館は砧公園の中に位置しているため、訪れる方は公園の中を通ることになります。この日の公園は紅葉真っ盛りでした。これから3月まで、季節の移り変わりをも堪能できるんだな、と楽しみです。

次回の滞在について

次回の滞在は、少し時間を置いて、12/20(火)〜21(水)の2日間となります。
世田谷美術館のボランティアである鑑賞リーダーや、インターンの方々と交流する機会も設ける予定です。

テキスト:武田侑子(NPO法人アートネットワーク・ジャパン)


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