年賀状デザイン×生成AIの実態とは?Adobe Fireflyを活用したデザイン制作の現場を大公開
インターネット上の膨大なデータを学習し、指示した通りに文章や画像を自動で作り出してくれる生成AI技術。ここ数年で急速に利用が広まっていて、デザインやエンジニアリングにおいてもその技術を取り入れる動きが活発になっています。
内製のデザインをサービスのコンテンツとして扱うソルトワークスでは、どのようにして生成AIと向き合っているのでしょうか。
年賀状デザイン制作真っ只中のグラフィックデザインチームを取材してみると、具体的な活用術や便利さゆえの課題などが見えてきました。
1.デザイン業務における生成AIの活用
構図決めや素材探しで補助的に使用
弊社のデザイン業務で取り入れているのは、主に画像生成AI。年賀状やポストカードのデザインを制作する際に、生成AIが出力したテクスチャ素材やイラストをグラフィックの一部に使用しています。
こう書くと「AIが作ったデザインを販売してるのでは?」と思われるかもしれませんが、そうではありません。下絵から完成まで、基本的にはデザイナーが各々の手を動かしイチから作り上げています。
そもそもソルトワークスのメイン事業は、年賀状やポストカードを手軽にプロ仕様のデザインで作成できるWebサービス。社内のデザイナーが一つ一つこだわり抜いたデザインそのものが商品であり、ここでしか買えないオリジナルデザインが最大のウリです。そのクオリティを評価して毎年購入してくださるお客様のためにも、簡単に生成AIで作れてしまうデザインを販売するつもりは一切ありません。
上記を前提として、デザイン業務の補助的役割で画像生成AIを使用しています。AIというと時間短縮や作業効率化を目的に使われるイメージが強いですが、ソルトワークスでは、あくまでコンテンツの質を高めるための手段として使っているので、生成AIによる画像をデザインの一部に取り入れるにしても、必ずデザイナーの手で加工や修正を施し、デザイナーが作り出す世界観やイメージに融合させることを意識しています。
生成AI技術を使うメリットは後述しますが、取り入れる前に比べると格段に表現の幅が広がり、作品クオリティも上がっているようです。
社内ルールを設けてAdobe Fireflyを採用
画像生成AIツールというとDALL-EやMidjourneyなどが有名ですが、ソルトワークスのデザインチームでは、統一してAdobe Firefly(ブラウザ版)を使用しています。
Adobe Fireflyを採用している理由は主に2点あります。
特に①は制作したデザインがサービスのコンテンツ(商品)になるという意味で重視しています。
Adobe Fireflyは、文章による指示だけではなく、画像を構成やテイストの参照元として指定することで、よりイメージに近い画像を生成できるのが特長の一つ。この時読み込ませたデータが、学習元に吸収されることがないので安心です。逆をいえば、基準を満たしたデータを元に生成された画像なので、商用利用しても著作権に抵触する可能性もかなり低いといえます。
とはいえ、当然のことながら弊社で著作権を所有している画像以外を参照元として読み込ませることは社内の統一ルールとして禁止しています。
▼Adobe公式の利用条件はこちら
2.画像生成AIを活用したデザイン
前章でソルトワークスでの生成AI活用のスタンスやルールを簡単にご紹介しましたが、実際にAdobe Fireflyを取り入れて制作した作品がこちら。
(巳年の年賀状デザインをどこよりも早くお見せします…!)
作品例1:へび壺
デザイナーが最初にイメージしていた花柄とは少し違う画像が生成されたものの、自分の頭では出てこないアイデアだったので新鮮だったそう。
出てきた画像は精度が甘く雑な部分もあるので、そのまま使うことはありません。Photoshopに取り込んでデザイナー自らの手で微調整することで、納得のいくデザインに仕上げていきます。
作品例2:エジプトとファラオ
背景部分をデザイナーが描くことも可能ですが、このデザインの場合主役になるのは写真がはまるツタンカーメンであり、背景は目立たなくていい部分。だからこそAIが描く無機質で感情を感じさせない画像がむしろ良いのだと、担当したデザイナーはいいます。
3.デザイナーの声
上記の2作品を手がけたのはグラフィックデザイナーのチャパ。
実務に生成AIを使うことについてどう感じているか聞いてみました。
───実際の業務で生成AIを使ってみていかがですか?
チャパ:私の場合は、3Dを制作に取り入れていることもあり、欲しいテクスチャ素材がすぐに生成できるのは非常に助かっています。Adobe Fireflyで出力しただけでは不十分な画像でも、Photoshopの生成機能などを組み合わせて調整することで、短時間でシームレスパターンが作れるのが便利です。
任せられることはAIに任せ、AIが出してきたもので面白いものがあれば取り入れることで、表現したいイメージに集中できて結果的に作業の効率化にも繋がっているように感じます。
生成AIが出力してくれる画像って、同じ指示を出してもその時その瞬間で変わるので、一期一会なんですよね。“偶然出逢えた画像”に自分の手を加えることで、本来自分だけでは作れなかった作品が生まれる面白さもあります。
───うまく使いこなしていますね!生成AIの活用によって自分のデザインスキルが落ちるといったことはないですか?
チャパ:それはないですし、逆にAIを活用することによってアイデアの引き出しが増えた気がします。自分の頭のイメージではどうしても限界があるので、「なるほど、こういう表現もありなのか」と気付かされることが多く、自分自身の視野が広がっています。
ただ、生成AIがなんでもできるかというと微妙で、例えば私たちが「年賀状」を思い浮かべたときにほぼ無意識に想起している慣習やテイストの機微、深く細かな文脈まで生成AIに汲み取らせるのはなかなか難しいです。
例えば、「鏡餅」はよくわかってもらえなくて謎の餅菓子風の画像が生成されましたし、逆に「クリスマス」や「サンタクロース」のようにグローバルかつメジャーなものはかなり高精度な画像が出力されました。AIの学習元の偏りによって出力結果のレベルが変わってくるということは、常に意識する必要があると感じています。
4.生成AI×デザインの利点と心得
制作現場におけるメリットとデメリット
現状、ソルトワークスでは年賀状デザインの制作業務において一部のデザイナーが補助的に生成AIを使うにとどまっていますが、その中でも活用のメリットやデメリットが見えてきました。
もちろんこうしたメリットやデメリットは使い方や目的によっても変わってくるだけでなく、個人差もあります。
当たり前ですが、どんな便利なツールやハイテクな技術にも良い点・悪い点があることを理解し、必要に応じてルール決めやリスク管理をしておくことが大切です。
依拠性や著作権への留意
制作というのは、過去から同時代に作られたものを参照し、学びながら行われるもの。ソルトワークスが商品として扱うデザイン(=創作物)も独自性と依拠性のバランスをうまく取りながら生み出しています。
生成AIを使うということは、すでにある著作物に基づいて創作しているということを決して忘れてはいけません。(依拠性が高い場合には、参照元の著作者から権利侵害の申し立てが行われる場合もあります。)
生成AIに読み込ませる参照元のデータを著作権上クリアなもののみにすることを徹底したとしても、最終的に出力されたものが既存のものに酷似してしまうということは十分にあり得ます。
だからこそ、制作しているものが単なる参照元の真似になっていないかは、デザイナー自身やアートディレクターが常に客観視する必要があります。
とはいえ、依拠性の程度や著作権の配慮は、生成AIの導入によって注意し始めたものではなく、むしろその前からずっとデザイナーひとりひとりが重視して常に意識しながら向き合ってきました。
ソルトワークスでは、制作の主導権を持つのはあくまで人間である、ということを念頭においた上で必要に応じてAIを活用し、より質の高いデザインコンテンツをお客様に提供していきたいと考えています。
今回は、ソルトワークスのデザイナーが日々の業務でどのようにAIと向き合っているかをご紹介しました。
現状は生成AIを活用しているのは一部のデザイナーであり、その使い方も個々の能力に頼っている状況です。
しかし、デザイナーを中心に社内で勉強会が開かれたり、外部のAI関連セミナーに有志で参加したりと、ナレッジ共有とともにAIに関心を持つスタッフも増えてきました。
今後も、新しい技術や便利なツールがあれば、正しい知識とノウハウを携えたうえで積極的に活用していきたいですね!
現在、社内のデザインチームでは記事内で紹介した以外にも新作の年賀状デザインを絶賛制作中。(生成AIを使ったものもそうでないものも✨)
巳年の年賀状は『年賀家族』や『つむぐ年賀』で販売予定です。
どちらも10月1日(火)にオープンとなりますので、お楽しみに!