原因が分からないけど眠くなる病気

ふと思い出したので、数年前に受けた検査と持病の話でもしようと思います。
少し長くなります。

特発性過眠症の話

基本的にここでは言及しないようにしているのですが、私は睡眠障害を持っています。
名前は「特発性過眠症」。

特発性:原因不明の(読み:とくはつせい)
過眠症:(昼間に)眠くなりすぎる病気(読み:かみんしょう)
名前のまんまですが「原因が分からないけれど昼間にやたら眠気が生じてしまう病気」になります。
夜間睡眠をしっかり取っても、昼間に耐えがたい眠気に襲われ、そしてだいたい眠ってしまいます。傍から見ると居眠りです。
意識が飛ぶところまでいかなくても、うとうとと舟を漕いだり、眠くて眠くてたまらない、そんな状態によくなります。
正確な有病率は不明ですが高くはありません。わりとレアです。SRぐらい。10000人に1人もいません。もっともっと少ないです。

類似している病気に「ナルコレプシー」があります。
こちらは知っている方も時々いらっしゃるようです。
昼間に眠くなるという点では同じですが、こちらは"情動脱力発作"という症状が見られることが多いです。笑ったり怒ったりといった、感情の大きな揺れで体の力が抜けてしまう症状です。
私はナルコレプシーは専門外なので、詳細は割愛します。

検査を受けたきっかけ

そもそも、学生時代から授業中の居眠りがひどい子どもでした。電車の寝過ごしもめちゃくちゃ多かった。
でもまさか、それが病的なものだとは疑いもせず(そもそも昼間に眠くなる病気があるなど知りもせず)日々を過ごしていました。
この時点で何かに気づけていれば、未来は少し変わっていたかもしれません。

社会人になっても居眠り癖は変わらず、研修中も会議中もうとうと、システムエンジニアとしてプログラミング中にもうとうと。いくら夜にしっかり寝たところで、状況は変わらず。
挙句、起こされても「眠っていましたか……?」(自覚なし)という有様。

入社二年目の初夏、その年の春から私の上についていた上司からついに呼び出されました。
「お前、ちょっとその居眠りは病的だから、病院で調べてもらってこい。検査のために、平日に休みを取っても構わないから」

当時別件で通っていた精神科クリニックの先生に紹介状を出してもらい、睡眠外来のある大きな病院で検査を受けることになりました。
なお、ここに至るまでの間に精神科の薬で眠気を起こしそうなものは極力除外しましたが、状況は変わりませんでした。

二つの検査

大きな病院では、二つの検査を受けることを説明されました。
夜間の検査を行うので、検査入院が必要です。

一つ目は、終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG)。
これは夜間の睡眠の状態を調べるための検査です。
脳波や呼吸の状態、体の動きなどを検査します。
睡眠障害を調べる際のもっともスタンダードな検査で、過眠症の他、不眠症や睡眠時無呼吸症候群等、他の睡眠障害でも行われます。

二つ目は、反復睡眠潜時検査(MSLT)。
こちらは昼間の眠気を評価する検査です。
PSGの翌日に行い、2時間おきに4~5回の昼寝をさせ、眠ってしまうまでの時間を測定。同時に脳波の観察と、レム睡眠の出現回数のカウントを行います。
ナルコレプシーの診断を確定させるために行う検査です。

ちなみにこの説明を聞いている間も眠かったです。
眠気で死ぬかと思いました。

終夜睡眠ポリグラフ検査

夜になって、病棟地下の睡眠検査室に案内されました。
この部屋のベッドで眠って検査を受けます。

まず、大量の電極を頭にぺたぺたと貼り付けられました。
これが本当に大量です。しかも、例えば帽子のようなものに電極が付いているとかではなく、頭皮に直接くっつけていきます。
そして顔、腕、脚にも。
呼吸の状態を確かめるため、カニューラも装着します。
胸部には、呼吸による動きを確認するためのベルト。
痛かったりすることは全くないのですが、もうとにかく、一度でも寝返りを打てば絡まってごちゃごちゃになりそうな勢いで線に繋がれています。

こんな状況で寝られるわけがなかろう。

真面目に思いました。
じゃあ電気消しますねー、おやすみなさい、と技師さんが出ていきます。
これは寝れるわけがないぞ、と確信していました。

杞憂でした。

爆睡。朝方まで目覚めることもなく、ぐっすりです。
夢すら見ませんでした。覚えていないだけかもしれませんが。
朝になって起こしにきた技師さんに、よく眠っていましたね、と言われるぐらいには、よく眠っていました。
ベルトやカニューラ、腕と脚の電極を外して夜間の検査はおしまい。

頭の電極はこの後も使うのでそのままです。
電極を頭から生やしてウロウロするのは嫌だったので、パーカー(私物)のフードをかぶって検査室を出ました。
昼間の検査までは、普通の病室をひとつ宛がわれてそこに滞在します。

反復睡眠潜時検査

朝ごはんを食べてしばらく後、再び睡眠検査室に向かいます。
頭に繋がっている電極の先を機器に繋いで、ベッドに横になります。
じゃあ電気消しますねー、と部屋を暗くして、技師さんが出ていきます。

15分間。
静かな部屋で、じっとしているだけの検査です。
眠かったら寝ちゃってOK。
入眠するまでの時間や、この眠っている間の睡眠の状態を確認していきます。
また、入眠時レム睡眠が出現する場合はその回数をカウントします。

15分経つと部屋の電気がついて、技師さんに起こされます。
機器から電極を外して病室に戻り、次の検査の時間まで待機。
この待機の時間中は何をしていても大丈夫ですが、眠ってしまわないようにだけ注意します。
私はゲームをするのと、イラストを描いて過ごしました。
待機中、眠くて死ぬかと思いました。
あんまりにも暇すぎたので、院内の売店までお菓子を買いに行きました。

この検査は4~5回繰り返しますが、私は4回でした。
なお、自分が眠っていたことに気づかなかった回がありました。
普段の居眠りと似た状況です。

4回目の終了後、頭の電極を外しておしまいです。
電極をくっつけるためのペーストで頭がべちゃべちゃです。
シャワールームを借りられるのでシャワーをして、精算して帰ります。
入院費用とかも含めて3万円くらいでした。

検査結果の説明

3週間ほど後に、検査結果の説明を受けるために病院に行きました。

まず、夜間睡眠の検査結果。
異常なし。
いびきや睡眠時の無呼吸、脚がぴくっと動くなどもありません。
この時点でいくつかの睡眠障害の可能性が除外されます。
可能性として残ったのは、ナルコレプシー。

そして昼間の眠気の検査。
入眠にかかった平均時間(平均睡眠潜時)と、入眠後に出現するレム睡眠の回数を確認します。
平均睡眠潜時8分以内が、ナルコレプシーや特発性過眠症の基準になります。

平均睡眠潜時、1分20秒。

いや短すぎやん。
カップヌードルも出来ません。あれは3分ですからね。

もう一つ、レム睡眠の回数ですが、これは0回でした。
ここでナルコレプシーの可能性が除外されます。
告げられた病名は「特発性過眠症」。

説明としては先述の通りですが、あいにく聞いた事のない病名です。
原因が分かりませんので根本治療のしようがありません。

覚醒を維持する薬と今

そこで処方されることになったのが、モディオダールという薬です。
中枢神経刺激薬。
これを内服することで、昼間の眠気を低減することができます。
薬価がまあまあ高いです。気になる方は調べてみてください。

私が検査を受けたのは2017年のことですが、そこから5年以上、このモディオダールのお世話になって生活しています。
薬の作用で眠気を抑えているに過ぎないので、根本的なところで治っているわけではありません。
休みの日などは薬を飲まずに過ごしていて、眠くなったり居眠りしたりしています。
現時点では、過眠症を根本的に治す治療法は開発されていないです。

過眠症は、昼間に起きているという当たり前のことが出来なくなる障害です。
結局、検査を受けた当時に勤めていた会社では、この過眠症を理由に希望の部署に配属してもらえず、仕事が続けられなくなって、辞めてしまいました。
今の仕事はモディオダールに頼ってようやく普通の人程度にこなせていますが、なければ社会的に終わっています。
仕事中に寝ていて許される社会ではないので。

眠くて眠くて死にそうなぐらい眠い、という感覚の説明は難しいです。
多分、三徹ぐらいしたら近い状態になると思いますが、そんなことをしてまで体感してもらいたくないのでしないでくださいね。
また、同情されたいわけではありません。
こんな病気もあるんだ、程度に思っていただければ幸いです。

もしこれを読んでいる人で、いくら夜に寝ても寝ても寝ても、昼間に眠くなってしまう、仕事中や授業中も居眠りばかりでどうしようもないという人がいたら、過眠症を疑ってみてもいいかもしれません。
自分の生活を、人生を、守っていけるのは自分だけなので。

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