第3章〜稀勢の里の軌跡〜(2375字)

遡ること13年前、朝青龍全盛の相撲界に期待の新星が現れた。

平成の大横綱、貴乃花の最年少記録に次ぐ2番目の若さ(18歳3カ月)で新入幕を果たした力士、「萩原」改め「稀勢の里」。

十両への昇進も貴乃花に次ぐ記録(17歳9カ月)である。

この頃から大相撲ファンの心はくすぐられている。当時のライバルはヨーロッパ初の力士で長身の琴欧洲(現:鳴戸親方)や小兵・業師の豊ノ島で、かつての「若・貴・曙時代」の再来と胸熱くして見ていたファンは私の他に少なくないと思う。

正にその名の通り「稀なる勢い」で相撲街道を駆け上がってくる力士と期待して見ていた。

しかし史上4位の年少記録で新三役に昇進してしばらく、その勢いは目に見えて失速した。

決して稀勢の里が弱かったわけではない、幕内に跳ね返されることなくその地位に獅噛み付き続けた。

稀勢の里が幕内で足掻き続ける中、ライバルの琴欧洲は史上最速で大関の地位に駆け上がった。

「これに奮起せよ!稀勢の里!」と私同様、相撲ファンの勝手な心情は更なる期待を稀勢の里に向けた。

その周りの期待がプレッシャーになり、稀勢の里を苦しめていたのかもしれない。

しかし平幕の時でも稀勢の里はファンの心をくすぐることを忘れない。2010年の11月場所、白鵬の連勝記録を63で止める大金星を挙げている。この一番に相撲ファンは熱くなった。白鵬が勝ち続けていく姿しか見えない一方で、この絶対的横綱を必ず止める者が出てくる、一体それは誰になるのか!そして11月場所の2日目に前頭筆頭であった稀勢の里との一番、座布団は舞に舞ったのだ。

横綱の一人勝ちが強まるに従って、強くなる他の力士の優勝・横綱への期待感。

誰かが大関になると、どうしても期待してしまう。

朝青龍全盛期には白鵬へ、白鵬全盛時には土をつけたあらゆる現役大関に期待の目を向ける。

その期待を背負いながら日馬富士、鶴竜は横綱へと昇進していった。

稀勢の里が大関になったのは新入幕から所要42場所を要した2011年11月。「稀なる勢い」どころか、史上5位のスロー記録である。関脇〜小結〜前頭を行ったり来たりし、小結通算在位12場所という「大関に昇進した力士の中では史上最多」という名誉なんだか不名誉なんだか判断つきにくい記録も残している。

更にその昇進も誰もが納得いく綺麗な昇進というわけでなく、一般的に大関昇進の目安である【直前3場所33勝】には一つ足りない【32勝】での昇進であった。審判部による会議では、最近6場所中5場所での2桁勝利を挙げていることや、横綱白鵬との対戦も五分の3勝3敗であることなど、相撲内容が評価されたという。しかし千秋楽で(大関 琴奨菊に)負けた上での昇進というのも、疑問の声が上がらずにはいられなかった。

稀勢の里を贔屓目に見る一方で、相撲協会には公平であって欲しいと願う。その中で堂々と勝ち続けて昇進してもらいたいというファンの想いが昇進に対する批判の声を生んだのだと思う。

しかしそれでも大関に昇進したからにはやはり「次は横綱」という声が上がるのもファンの心理で。。。

ライバル達に遅れたとはいえ、その相撲には魅力があった。

大人しい性格だが、裡に秘めた闘志を感じさせる、そんな強さを爆発させて欲しい、それから6年にわたって稀勢の里は周囲の期待を背負いながら最強の大関として戦い続ける。

初めての綱獲り挑戦は2013年。5月場所に初日から連勝を重ねて、13連勝。まずは日本出身力士の優勝に期待がかかる。しかし14日目同じく全勝の白鵬との一番に敗れる。翌日も琴奨菊に一方的に敗れて幕内優勝はならなかった。が、星2つ差ながら優勝次点(優勝に順ずる成績)が評価され、翌7月場所前には「13勝以上の優勝ならば昇進も」と言われた。が、場所前から不調が見られ7日目には早々に3敗目を喫し、綱獲りは白紙となる。

翌年の2014年、二度の綱獲りの機会が訪れる。先(十一月)場所は日馬富士に優勝されたものの、白鵬・日馬富士の両横綱に土をつけて優勝次点の成績が評価される。そして迎えた年明けの一月場所。周囲の期待が高まるものの、体調整わず初日から敗れる幕開け。中日には3敗目を喫して、再び白紙に。結局場所を終えて見ると7勝8敗という大関昇進後最低の成績に終わる。

この頃からファン心理は拷問にかけられたかのように稀勢の里の相撲を見続けさせられることとなる。

5月場所を13勝2敗の好成績で終えた7月場所だったが、最近6場所の相撲内容から「全勝優勝くらいのハイレベルな優勝でないと」という声の中、三度目の綱獲り場所となる。・・・が、2日目にして早々に黒星を平幕に喫す。終わってみれば9勝6敗のクンロク大関となってしまったため、次場所への綱獲りの可能性もなくすこととなる。。。

そして怒涛の横綱挑戦ラッシュ(!?)四度目、五度目、六度目を見事にかわし続けた2016年!!ついに稀勢の里は前人未到に記録を残すこととなる。

「史上初の優勝無しでの年間最多勝」の受賞!!!???

・・・期待する方もここまでやられると、飽きるのではないかと思われるがそうはいかない。かつての万年Bクラスの阪神タ○ガースの様に、広島○ープの様に、シカ○・カブスの様に、、、ファンの期待は残念ながら変化するどころか、「今度こそ!今度こそ!!今度こそ!!!」となってしまうのだ。

その度に迎える結末に自身の裏切られた期待感を無視して「やっぱりな。。。」と毒づいてしまう。毒づけばその毒に犯されるのは自身の心であるのに。

昨年、「ヤギの呪い」を解いて、71年ぶりにリーグ優勝(並びにワールドシリーズ制覇)を果たしたシカゴ・カブス。今度映画化されるそうだ。

閑話休題。

話は昨年の11月場所で年間最多勝単独での受賞を決めた稀勢の里、次場所への綱獲りへの望みをつないでいた。

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