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拝啓 渋谷豚松先生

それは、ウン十年前の昭和時代のはなし。

私は小学校に入ったと同時に、習字教室に通うことになった。そこは昭和あるあるの、近所の子はみんな通うような場所で、先生の自宅の一室が教室になっていた。

畳の部屋に長い机が置かれ、そこで墨をすり、お手本を見て筆を滑らせる。正座が基本なので足がよくしびれたものだ。墨の匂い、シャンとした空気。

なぜか大人になった今も、私はこのお習字教室のことをよく思い出す。もう、タイトルでお気づきだと思うが、個性的な先生が指導されていたのだ。

たぶんあれは一年生の時。私は、先生に名前を聞いた。

「渋谷先生、名前はなんて言うんですか」

私の顔は「先生に面白いことを期待する顔」をしていたと思う。その問に、 先生はすごい迫力で答えてくれた。

「おれの名前は 渋谷 豚松だ!!」

今もこのシーンを覚えている。

歌舞伎役者が見栄を切るかのような、先生のすごい迫力に度肝を抜かれた。そしてその後には私だけでなく、教室中の子どもたちは笑い転げていた。

「渋谷 豚松」先生の風貌は、グレイヘアでボブからミディアム。背が高かったような気がする。もちろん男性。そしていつも着物を着ていた。例えるならば、キン肉マンの声の人。わかるかなあ‥

豚松先生はいつも飄々としていた。

そしてなぜか「豚」がすきだった。いや「ぶた」を「つける」のが好きだったのだ。

つづく。



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